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ステキ・ギャラリー

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皆様のステキな作品集です。
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#小説

怪談 水茶屋の娘 【#赤い傘】シロクマ文芸部参加作品 (1600文字位)

怪談 水茶屋の娘 【#赤い傘】シロクマ文芸部参加作品 (1600文字位)

 赤い傘を見つけると走り寄る。しとしと霧雨がふりはじめた。

「おみつ」
「真さん」

 おみつは、年の頃は十七くらいの水茶屋の看板娘で真之介とは仲が良い。仕事の合間に近くを通ると茶を飲んだ。みなに好かれる娘で、誰かれなしに愛想をふりまいていたが、真之介とは本気の恋仲だ。

「あのな……」
「これ、きれいでしょ」

 くるくると赤い傘を回す。おみつは自分が店に出る時は、その傘を置いて客に知らせてい

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桜色  シロクマ文芸部

桜色  シロクマ文芸部

本文 【1139字】

桜色やとしても、それは何色やわかりまへん。
と染め屋は言った。
「桜色の大判のハンカチ、できませんか」
できんな。桜色いうのはな、桜の色でしかないんやわ。桜らしい色はいろいろ試さはった。その上で敷居の高いウチに来はった。違いますか?
だいたい色いうもんはその人の頭の中にしかおまへん。あんさんの赤と私の赤は違ういうことですわ。それを取り出すには、その人に選んでもらうしかない。

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娘は親をコピーしていく

娘は親をコピーしていく

ひとり娘が社会人となり
有休を使い、帰ってきた

娘は元旦さえも納期が迫り、家族が揃うことなく
平日と変わらぬ三が日を過ごした

でも、今は元旦と似た
浮いた気分で娘と買い物へ行く
「なにか、美味しいものを食べようか」

私が教えてない所作で、娘は食事する
「ここはアタシが払うね」
レジへ向かう娘の頼もしさに
親の役目が終わったような
安堵とは、少し違った寂しさを覚えた

二十数年前、春
入園式に

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たこ焼き屋 いらっしゃいませ

たこ焼き屋 いらっしゃいませ

「お義父さん、まだ帰ってきてないみたいね」
「ううむ、二、三日帰ってこないのはよくあったけど、一週間はなあ・・・」

「もしかして誘拐とか?」
「父さんをか?」
 春子は時々突拍子もないことを言う。会社の社長ならまだしも、ただの飲んだくれおじさんを誘拐するメリットなんてあるか?

「お義母さん、きっと不安がってるわよ」
「元気のない母さんなんて想像つかないけど。そうだな、一度大阪帰ってみるか」
 

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童謡の歌詞からもらう望み

童謡の歌詞からもらう望み

♪ きんのびょうぶに うつるひを
かすかにゆする はるのかぜ

幼稚園児のときから
なんて美しいことばなんだろう
『たのしい ひなまつり』に、耳を傾け聴いていた

金の屏風に映る陽を 微かに揺する 春の風

春が気持ちに触れて
昼間は、ほど良い気温で包み込んでくれる感覚
やっと春が来るんだ
フェルトの分厚いコートを脱ぐ日が増える

♪ おへやは きたむき くもりの ガラス
うつろな めのいろ とか

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【連載】茶谷夫人の恋人③

【連載】茶谷夫人の恋人③

②はこちら

 麗は太にスペアの白のナイトガウンを渡すと、自分も床に落ちたナイトガウンを羽織り玄関へと向かった。
 太は真っ裸にナイトガウンを着て後に続いたが、ナイトガウンの丈は少し短いようだ。

 ドアを開けるとそこには美人の淑女が立っていた。
 麗はじっくりとその淑女を見た。
モーターショーの車の写真をつけたグレーのTシャツに、ダメージジーンズのいでたちでいながら、パリジェンヌのような気品を備

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【連載】茶谷夫人の恋人②

【連載】茶谷夫人の恋人②

①はこちら

 真っ裸の若者は恥じらう事もなく、真っ直ぐに麗に向かって歩いてきた。

 棒立ちの麗のいでたちは、ナイトガウンが肩から落ちて、淡いピンク色のネグリジェ一枚の姿になっていた。
 隆起した乳首は透けて、下着は真紅の紐パンだけがハッキリと透けて見える。

 若者のイチモツは段々と大きくなり、脈打ちながら天井を向いている。

 亡くなった主人のより遥かに大きいわ。

 ゴクリッ!
麗はまた、

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【連載】茶谷夫人の恋人①

【連載】茶谷夫人の恋人①

 茶谷 麗は未亡人である。
 夫が亡くなり既に十年が経つ45歳だ。
 夫が残した豪邸のルーフバルコニーから今日も庭園を眺める。
 季節外れの大雨の中、池の鯉が泳いでいるのを見つめながら、ただぼんやりとこれまでの人生を振り返える。
 夫とお見合いで結婚したのが25才。それまで男の人と付き合った経験もなく、夫とは喧嘩一つなく仲良く暮らしていたけれど、夫が交通事故に遭い、突然35才で死別した。
 残念な

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【短編】瑠璃色のミーニャ

【短編】瑠璃色のミーニャ

 剛は自分の不甲斐なさを悔やんでいた。
優柔不断で物事が決められず未だに独身生活だ。
 これまで結婚する機会が無かった訳ではない。寸前まで進展した話もあった。
 そんなことを考えながら商店街を歩いていた。

ワーッ!
突然、剛が穴に落ちた。
「誰だよ、こんなところに落とし穴を作った奴は...」
 剛が見上げてると2mくらい上に穴の入り口があった。

 その穴の淵から瑠璃色の猫がこちらを覗いている。

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ショート: SNS映えカラス

ショート: SNS映えカラス

トナカイは絶滅危惧種で酷使できず、
サンタ会議で、頭を抱える者もいた。

トナカイに似た色の動物が候補へ挙がったが、
「来年は干支です」断る動物がいた。
「冬眠に働くんですか?」そうだよなぁ。

日本代表のサンタが
「うちの国、カラスが嫌われるんですよ。
名誉挽回の機会を与えては?」

カラスは母数が多い。
サンタのソリを抱えるには十分の数。

世界カラス協会に連絡すると、
「うちでいいんですか?

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【短編】忘年会

【短編】忘年会

今日は最初にBGMをどうぞ😅

◇◇

 我を通せば角が立つ。
情を重んじれば流される。
兎角、猫の世は住みづらい。
 居酒屋・六兵衛のミミが、そんなことを考えているうちに、今年ももう年末を迎える。

 感染率、死亡率、後遺症の程度、ワクチンの有効性が分かった今だから、あの時の対応はどうだったかを論じる人は多いが、何も分からなかった当時を鑑みると、そこそこベストな対応であったと、キジトラ猫のミミ

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小説:指で、そっと。【4663文字】

小説:指で、そっと。【4663文字】

「いらっしゃいませ」

 蔦の絡まる古風な骨董品店。冬の深まりを感じさせる寒い午後、店に入ってきた男は、黒い皮のロングコートを着た洒落た老紳士。店主は男を見るなり、すぐに声をかけた。男はこの店の常連客で、特に美術品に目のない男だった。

「旦那、気に入りそうな品が入りましたよ。旦那が来るまで、誰にも見せないでおきました」

 小柄で色白、丸眼鏡の店主は、揉み手をしながら男に話す。

「おお、そうか

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【掌編】ミントの肛門様

【掌編】ミントの肛門様

時は江戸時代。ここはとある寺子屋で、あの有名な肛門様の講義の時間である。

肛門様がゆう。
「例えば、流行病。誰が第七波まで予想したじゃろうか? わしでさえ第六波で収束すると思っていたぞい!ほんにしぶといやつじゃ」

寺子屋の弟子達は、真剣な表情で従順に頷く。

肛門様は続ける。
「例えば、戦。誰がこんな誤ちを繰り返すと思っていただろうか? わしでさえ第ニ次が人類最後の狂乱だと思っていたぞい!」

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【実験小説】卒業式PART3

【実験小説】卒業式PART3

ここはほんわか女子高校。本日は卒業式です。
キーンコーンカーンコーン♪
委員長「起立、礼、着席」

「はい、今年もお別れの季節がやってきました。今日で3年D組の皆さんともお別れです。あれからもう一年、感慨深いものがありますね。
 この卒業式をみんなが首を長ーーくして待ってた事、先生、知ってるぞ!
も一回、先生、知ってるぞ!!!
 昨年は全員廊下に立ってしまい、全員が留年した訳ですが、今年こそ卒業で

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