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幸せになりたいーー。そう願ってはいけないような気がして。

幸せになりたいーー。そう願ってはいけないような気がして。

今どきのインタビューは自宅で行われるようで、そこには生活感溢れる背景が映っていた。
記者が家族に問う。

「一家の夢は何ですか?」

家族は声を揃えて答えた。

「幸せになりたい」

思いやりを語った7分間が消え去ったような答えだった。

例えばどこか改まった場で「夢」を聞かれたら何と答えるだろうか。

マイクを向けられ、皆が回答を待っている。

学生なら「就きたい職業」や「志望校合格」を挙げるだ

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男のわたしがコスメカウンターに座って口紅を買い、初めて入ったバーで自慢した話

男のわたしがコスメカウンターに座って口紅を買い、初めて入ったバーで自慢した話

「しをりちゃん、俺も口紅塗ったら、可愛いと思う?」

甘えている、どこまでも。

"初めて"の花束を想う。過去は霞ませるものではない。靡く、短い髪には硝子の軌跡。いつの日か、「女性」が終点にはならない。「わたし」の姿が水面で跳ね返り、宙を舞う。舞台がなかったとしても踊り、太陽がなかったとしても内から輝き、人をやさしく包めるだろう。

「似合っていますか」

その問いに、恋人の肯定が必ず"手紙"のよ

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ツイートがバズったわたしは、口紅を買えていない

ツイートがバズったわたしは、口紅を買えていない

仕事を辞めた翌日、わたしは生きていた。

「当然である」と、言えるだろうか。わたしは自分のことを"よくやっている方"だと思っている。意味もなく宙を見上げ、水滴を仕舞う。人生を都合のいい妄想へ預けなければ、硝子のように心が割れてしまいそうだ。

「大丈夫ですか?」

歩きながら眠っていた。目が血走り、足が痙攣する。どこかから声が聞こえた気がしたが、辺りを見渡しても人は少なかった。ロクにごはんも食べて

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セックスってなんでみんなするの

セックスってなんでみんなするの

そういえば昨年の6月に男性とセックスしたのが最後だ。多分。
初めてしたときのことを今でも覚えているかと聞かれたら、私は首を横に振る。早く終わらないかなと思っていたことならぼんやり覚えている。暗い部屋だったから、片腕で口を覆ってあくびすらした。
初経が来た日にちなら覚えている。だけど処女じゃなくなった日のことは覚えていない。思えばあの頃から、本当にそういうことに興味がなかったのかもしれない。
初めて

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「仕事とは愛だった」なんて思わせてくれちゃって

「仕事とは愛だった」なんて思わせてくれちゃって

24才のある夜。その日も私は一番最後にオフィスを後にし、帰路についてもまだ仕事のことを悶々と考えていた。すると、急に堰を切ったように脳内から溢れ出してくる言葉があった。そのドーパミンに従うままにパソコンを開き、キーボードを乱暴に叩き、読み返しもせず朝日新聞の「声」に投稿したことがある。

それですっかり満足してさっさと寝たのだが、翌日携帯に着信があり、出ると朝日新聞の人だった。「掲載させていただき

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