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【絲斬り蘇芳】 言の葉の滴
西の都から離れた揺葉(ゆるは)の集落にその娘はいた。
標高険しい山の斜面には青々とした茶畑が段々と連なり、そして畑に寄り添うようにして点々と民家が並んでいる。
ここら一帯は茶葉の産地として有名で、住民たちは茶を栽培して売ることで生計を立てていた。
その茶畑のひとつで、照りつける陽ざしの下、笠を被ったひとりの少女が着物の裾をたくし上げ茶摘みに精を出している。
指先につけた剃刀で新芽を刈る手
ひゅるり、ひゅるりと戸の隙間から風が入り込む。
「ーー虎落笛か」
男は着物の上に半纏を羽織るとぶるりと肩を震わせて戸を締める。炊事洗濯にもようやく慣れてきたが一人で越す冬は久しぶりだった。女房が逝き、この家も広く感じる。
「寒い冬になるな」
男は淋しげに呟いて囲炉裏に火をくべた。
喪ったのだ。全てを根こそぎ奪われて、残ったのは脱け殻のような私ただ一人。光は遠く、闇が纏わりつくばかり。絶望は人を盲目にし、希望は未だ見当たらず。
ある日、伸ばした指先に一羽の鳥が舞い降りた。蒼穹をくり抜いた青鳥は闇を切り裂きぐんぐん前へ進んでいく。歩けと、止まるなと囀り続けて。
溶けて、消えてなくなればいい。この想いも全部。氷のように冷たい心を貫ければいいのだけれど、結局陽だまりのようなあなたの側は心地よくて私はぐずぐずになってしまう。溶けて、溶けて、流して、流れて、そうすればこの塗り潰された気持ちも透明なものになるだろうか?