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エッセイ:大ちゃんは○○である

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大学時代~役者を経て介護業界に飛び込み、現在までを綴るエッセイ。
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2021年1月の記事一覧

エッセイ:大ちゃんは○○である50

エッセイ:大ちゃんは○○である50

半年間のレッスンが終わり、最終日の審査の結果、
僕は事務所に残ることができた。
所属という形になったのだ。
当初、事務所に所属になると決まった時、僕は完全に浮かれきっていた。
『これでようやく芸能人の仲間入りだ』と。
所属タレントとなったからには、専属のマネージャーさんがつき
僕のことをガンガンガンガン売り込んでくれて、
バンバンバンバン仕事をとってきてくれるものだと思い込んでいたのだ。
『端役で

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エッセイ:大ちゃんは○○である49

エッセイ:大ちゃんは○○である49

動き始めた電車の中で、僕はただただ景色のない窓の外を見つめるばかりだった。
背中にびんびんびんびん感じる何十という視線。
もしかしたらそう思い込んでいただけで、
僕に視線を向けていた人なんてほとんどいなかったかもしれない。
しれないが、自意識過剰と言われても仕方ないほどに、
同じ車両の人達全員が僕に釘付けになっているとその時は思った。
『なんだよ、こいつ。発車直前に大好きだからとか言っちゃってんじ

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エッセイ:大ちゃんは○○である48

エッセイ:大ちゃんは○○である48

週に二回、演技レッスンとボイストレーニングのレッスンは進んでいった。
自分にはあまりないと思っていて、実はひょっこり顔を出していた羞恥心も
徐々に徐々に消えていった。
一番『恥ずかしい!』という感情を抱いたのは何をした時だっただろうと思い返してみたが、
やはりダントツでアレをして、アレになって、アレだった時だった。
アレというのは、あるワンシーンを撮影しながらの演技レッスン。
場所は都営浅草線、浅

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エッセイ:大ちゃんは○○である47

エッセイ:大ちゃんは○○である47

竹村から言われたことで印象的だった言葉がある。
「俳優って字はどうやって書く?人に非ずって書いて優れてるって書くだろ?
この字がどういうことを表してるのか、よく考えてみるといい。」
「例えば人殺しの役がきたとする。
その時、僕は人を殺したことなんてないからできません。って言うか?言わないよな?
人を殺したことがなくても、ボクシングをやったことがなくても
馬に乗ったことがなくても、銀行強盗をしたこと

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エッセイ:大ちゃんは○○である46

エッセイ:大ちゃんは○○である46

僕がやった、待ち合わせ場所で相手を待っているシチュエーションでの芝居はこうだ。
まずは椅子に腰かけているところからのスタート。
自分の中では駅前での待ち合わせという設定を作ってやっていたので、
情景を思い浮かべながら相手を待った。
しきりに腕時計に目を向け、何度も時間を確認する僕。
首を左右に振り、しきりに辺りを見回す僕。
立ち上がってウロウロと歩き始める僕。
1分間の芝居だ。たったの1分間。

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エッセイ:大ちゃんは○○である45

エッセイ:大ちゃんは○○である45

レッスンの中では『一分間エチュード』という時間もあった。
エチュードという言葉。聞いたことがあるだろうか?
知っている方もいるだろうし、初めて耳にするという方もいると思うが、
簡単に言うと台本のない即興劇のことだ。
場面の設定だけがあり、セリフや動作などを役者自身が考えながら行う。
このエチュードに関しては、それこそ役者時代数えきれないぐらいやった。
時と場所を選ばず、事務所メンバーが集まれば

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エッセイ:大ちゃんは○○である44

エッセイ:大ちゃんは○○である44

何をもってして、窓ガラスが割れたのか?はたまた割れなかったのか?
その時の僕には理解ができなかった。
物理的にはもちろん割れてはいない。
でも、僕は割るつもりで表現をしたし、結果割れたと思ったからだ。
「割れてない」と言われたって
「割れてんだよ」と言い返したくなる気持ちもあった。
ただ、今にして思う。
伝わらない表現なんて、ただの自己満足でしかないんだ。
自分がどれだけ本気でやろうが、一生懸命や

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