記事一覧

じゅもんはみんながしっている。

この図書室にはじめてきたとき、わたしは、「よし、ここにある本、みんな読んでやるぞ」っておおはりきりでした。だけどすぐ、ぜったいむりだってわかりました。いまは、物…

のはら
7か月前
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ナラティブの勝利(1)

野球には“流れ”というものがあるといいます。解説者も新聞記事も、たびたび“流れ”について語ります。藤川球児氏は「野球は“流れ”のスポーツ」とまで言い切りました。…

のはら
7か月前
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『ゴリラ裁判の日』

『ゴリラ裁判の日』(須藤古都離 講談社 2023) アメリカの動物園で4歳の男の子が柵を乗り越え、ローランドゴリラの飼育スペースに落ちてしまい、動物園の判断でやむな…

のはら
11か月前
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映画『怪物』 怪物とは「なに」か。

『異文化としての子ども(本田和子/著 初版は紀伊国屋書店 1982)は私のバイブルのような本で、今もよく読み直しています。 「子供たちはおのずからなる反秩序性の体現…

のはら
1年前
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滝沢文学・異化(2)

滝沢馬琴ではありません。滝沢カレンという名文家についてです。 まず、名文とは何か。 「文章がひとつの確かな空気に包まれ、そして、その空気が人を惹きつけ 、人を動か…

のはら
1年前
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「異化作用」を小学生に体験してもらった話・異化(1)

滝沢カレンの創作『馴染み知らずの物語』を読むのが楽しいので、毎日一話ずつ読んでいます。なぜこの人の表現はこんなにおもしろいのだろう。これは「異化作用」だなと思い…

のはら
1年前
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『やさしい猫』

NHKドラマ『やさしい猫』今週土曜日夜10時から始まります。 「不法滞在は犯罪者だ!」と言う人は、バカかレイシストかその両方を兼ね備えた人です。 刑事裁判において有罪…

のはら
1年前
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三遊亭圓朝

昨晩は桂歌丸の『江ノ島屋怪談』を聴きましたが、いや、恐ろしかった。 「恐怖の源は“死”である。肉体の死ばかりでなく、精神の死ともいうべき“狂気”である」と誰か(…

のはら
1年前

『それでもバカとは戦え』

『それでもバカとは戦え』(適菜収・著 日刊現代 2021) 「たしかにアホと戦うのは面倒だ。議論して勝ったところで連中は改心しないし、 逆恨みされるだけ。 時間の無駄だ…

のはら
1年前
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『地獄八景亡者戯』

昨晩は落語でも聴きながら寝ようかと、桂文珍の『地獄八景亡者戯』を選んだのですが、当たり前ですけど時事ネタは全然違ってますね。特に地獄の歓楽街の描写。 米朝師匠の…

のはら
1年前

『オードリー・タンが語るデジタル民主主義』

『オードリー・タンが語るデジタル民主主義』(オードリー・タン〔述〕NHK出版2022) 台湾のデジタル担当大臣、オードリー・タン氏は、Joinというプラットフォーム…

のはら
1年前
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『らくごDE枝雀』

「100分de名著」の録画を見ていたら、伊集院光(元落語家)が、「笑いは理論化できない」みたいなことを言ってました。でも、桂枝雀師匠は理論化を試みています。 押し入れ…

のはら
1年前
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『憧れを超えた侍たち 世界一への記録』

『憧れを超えた侍たち 世界一への記録』 はっきり言って、劇場で見なくてもいいです。 たぶん広報がハンディカメラで撮影した動画を編集しただけ。画質も悪いし、ダイナ…

のはら
1年前
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信田さよ子ショック

信田さよ子がすごいこと書いていて、私は固まってしまった。 「男は黙って、自分の信念を曲げずに、頑固なまでに固執するといった態度がプラスの価値を持っていたのだが、…

のはら
1年前
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『タフラブ 絆を手放す生き方』(

『タフラブ 絆を手放す生き方』(信田さよ子・著 dZERO 2022) 私は、家族問題についても関心があります。その界隈で、「信田さよ子は必読」という話を聞き、最新刊の単…

のはら
1年前
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クルド人自治区の子供たち

2015年の私のノートより。 笑福亭鶴笑(国境なき芸能団代表)は、クルド人自治区にて子供たちを笑わせようとした。アートバルーンでうさぎを作ったり、切り絵でパンダを切…

のはら
1年前

じゅもんはみんながしっている。

この図書室にはじめてきたとき、わたしは、「よし、ここにある本、みんな読んでやるぞ」っておおはりきりでした。だけどすぐ、ぜったいむりだってわかりました。いまは、物語だけはぜんぶ読もうと、せっせと図書室にかよっています。

ある日のお昼休みのことでした。その日は、読む本をなかなかきめられませんでした。まよっていたらひるやすみがおわってしまいます。それで、 “えらびのじゅもん”をとなえました。みんな知

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ナラティブの勝利(1)

野球には“流れ”というものがあるといいます。解説者も新聞記事も、たびたび“流れ”について語ります。藤川球児氏は「野球は“流れ”のスポーツ」とまで言い切りました。

ところが、『野球人の錯覚』という本がありまして、

「チャンスをつかもうが潰そうが、その次の回の状況に変化はない」
「ファインプレーが出ても次の回の攻撃状況が良くなるわけではない」

などと統計的に検証して、“流れ”なるものの存在に強い

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『ゴリラ裁判の日』

『ゴリラ裁判の日』(須藤古都離 講談社 2023)

アメリカの動物園で4歳の男の子が柵を乗り越え、ローランドゴリラの飼育スペースに落ちてしまい、動物園の判断でやむなく男の子に接触した一頭のゴリラを射殺してしまいました。これは実際にあった事件で、映像を見た人もいると思います。ここから創作。

射殺されたゴリラにはローズという妻がいました。ローズには特殊な能力がありました。人間と同じように言葉を使い

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映画『怪物』 怪物とは「なに」か。

『異文化としての子ども(本田和子/著 初版は紀伊国屋書店 1982)は私のバイブルのような本で、今もよく読み直しています。

「子供たちはおのずからなる反秩序性の体現者であり、文化の外にある存在である。私たちは『対立する他者』として子供を捉え直す必要に迫られる」

子どもは大人を挑発し、混乱をもたらす存在です。今でいえば代表的なのは、クレヨンしんちゃんかなぁ。周囲の大人を騒動に巻き込み、本音や建

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滝沢文学・異化(2)

滝沢馬琴ではありません。滝沢カレンという名文家についてです。

まず、名文とは何か。
「文章がひとつの確かな空気に包まれ、そして、その空気が人を惹きつけ 、人を動かす、それが名文というものの真骨頂だと考えたい」(『名文』中村明/著 筑摩書房)
とすれば、滝沢カレンの文章は、まさに名文です。
たとえば、こんな表現。(『馴染み知らずの物語』 ハヤカワ新書)。

「顔色が雲色の日も、太陽色の日も、雨色の

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「異化作用」を小学生に体験してもらった話・異化(1)

滝沢カレンの創作『馴染み知らずの物語』を読むのが楽しいので、毎日一話ずつ読んでいます。なぜこの人の表現はこんなにおもしろいのだろう。これは「異化作用」だなと思いました。

私は小学校で読み聞かせのボランティアをしていました。ときどき番外編で、こんな文学理論があるんだよ~、ということも話しました。「異化」についても取り上げたことがあります。

私たちは「見ること」を積み重ねることによって、対象を「認

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『やさしい猫』

NHKドラマ『やさしい猫』今週土曜日夜10時から始まります。

「不法滞在は犯罪者だ!」と言う人は、バカかレイシストかその両方を兼ね備えた人です。
刑事裁判において有罪判決を受けた者が犯罪者です。ウィシュマさんもそうですが、この小説に登場するスリランカ人も、起訴されていません。

オーバーステイ=犯罪もまちがいです。
なにかの事情でオーバーステイとなったとき、入管に自ら出頭して、次のいずれかを選択

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三遊亭圓朝

昨晩は桂歌丸の『江ノ島屋怪談』を聴きましたが、いや、恐ろしかった。
「恐怖の源は“死”である。肉体の死ばかりでなく、精神の死ともいうべき“狂気”である」と誰か(ドイツ文学者か翻訳者)が書いてましたが、老婆が呪いをかける場面の描写が、まさに凄まじい狂気。

三遊亭圓朝という人は噺家では収まりません。文学者です。この人、江戸時代の生まれだけど、明治時代には新聞に小説を連載していました。
『牡丹灯籠』な

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『それでもバカとは戦え』

『それでもバカとは戦え』(適菜収・著 日刊現代 2021)

「たしかにアホと戦うのは面倒だ。議論して勝ったところで連中は改心しないし、 逆恨みされるだけ。 時間の無駄だし、 ストレスの原因にもなる。 合理的に考える人間はアホとは戦わないと思う。 しかし、それでも戦っている人たちがいる。 合理より大切なものがあると考えるからだろう。バカを放置するのか、それとも戦うのか」

学者先生は、SNSの議論

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『地獄八景亡者戯』

昨晩は落語でも聴きながら寝ようかと、桂文珍の『地獄八景亡者戯』を選んだのですが、当たり前ですけど時事ネタは全然違ってますね。特に地獄の歓楽街の描写。
米朝師匠のネタでは、
「寄席かて、三遊亭円朝が十日間『牡丹灯籠』やって、よう入ったで」
でしたが、文珍バージョンは、
「お笑いがお好きでしたらNGKへ行きなはれ」
「なんばグランド花月がこっちにもおますか」
「ちゃいまんがな。『なんぼゼニ稼いだら気が

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『オードリー・タンが語るデジタル民主主義』

『オードリー・タンが語るデジタル民主主義』(オードリー・タン〔述〕NHK出版2022)

台湾のデジタル担当大臣、オードリー・タン氏は、Joinというプラットフォームを構築しました。選挙権を持たない学生であっても請願でき、5000人以上の賛同があれば、行政側はその請願を取り上げ検討しなくてはならないことになっています。
Joinから、飲食店やコンビニでのプラスチック製ストロー提供を廃止する取り組み

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『らくごDE枝雀』

「100分de名著」の録画を見ていたら、伊集院光(元落語家)が、「笑いは理論化できない」みたいなことを言ってました。でも、桂枝雀師匠は理論化を試みています。
押し入れから引っ張り出してきたのが1993年の『らくごDE枝雀』。なんとも奇遇な。

枝雀師匠は神戸大学文学部(中退)で学者肌。
「物事を分類しようかちゅう時に、いちばん先にしとかなきゃならんことは、何やと思いなさる? 視点を定めることですわ

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『憧れを超えた侍たち 世界一への記録』

『憧れを超えた侍たち 世界一への記録』

はっきり言って、劇場で見なくてもいいです。
たぶん広報がハンディカメラで撮影した動画を編集しただけ。画質も悪いし、ダイナミックな映像があるわけでもなし。しかも、限定ロードショーとかで、特別価格2200円(これがいちばん不満)。NPBもケチってないで、腕のある監督に最新技術を使った記録映画撮らせろよ。それやったらこの値段も惜しくはない。

でも、スポーツのド

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信田さよ子ショック

信田さよ子がすごいこと書いていて、私は固まってしまった。

「男は黙って、自分の信念を曲げずに、頑固なまでに固執するといった態度がプラスの価値を持っていたのだが、それらは現在では発達障害だとされる」

えっ? たしかに星一徹は異常だけど、発達障害って、先天的な脳機能の障害だと思ってた。

「父親のグループカウンセリングを長年実施しているが、そこに参加する男性のほとんどが、 50から60代で定年間際

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『タフラブ 絆を手放す生き方』(

『タフラブ 絆を手放す生き方』(信田さよ子・著 dZERO 2022)

私は、家族問題についても関心があります。その界隈で、「信田さよ子は必読」という話を聞き、最新刊の単著を読んでみました。

震災以後、「絆」ということばが万能ワードになっている気がしますが、そんなもの、手放したってちっともかまわないのでは?と著者は問いかけます。なぜならこの「絆」、特に「家族の絆」がなかなかのくせ者だからです。

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クルド人自治区の子供たち

2015年の私のノートより。

笑福亭鶴笑(国境なき芸能団代表)は、クルド人自治区にて子供たちを笑わせようとした。アートバルーンでうさぎを作ったり、切り絵でパンダを切って見せたが、子供達は全く反応しない。通訳が囁いた。
「子供たちは勉強をしていない。教科書も本もない。だから、うさぎもパンダも見たことがない」
それは30年間笑いを忘れた街だった。それで、鶴笑はヘン顔をやって見せた。すると子供たちは

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