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心惹かれる本。素敵な読書の記事。

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2020年11月の記事一覧

東理夫・馬場啓一「スペンサーの料理」

東理夫・馬場啓一「スペンサーの料理」

会社のデスクの引き出しの奥に非常用のアイリッシュ・ウイスキーを置いてあった、なんて言うと最近の人は、「へ?」というだけだろうか。

2000年よりも前だったから、20年以上も前だったと思う。最初の試作品を仕上げる締め切りの前、技術的な課題の解決が間に合わず、切った貼ったの最後の対策もうまく行かず、万策尽きた午前3時。実験室から引きあげて、蛍光灯だけ煌々とついて他に誰もいない広いオフィスを見渡してた

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今年読んだ新作海外ミステリー(読書回顧2020)

今年読んだ新作海外ミステリー(読書回顧2020)

 年末になってきて、各種ランキングが気になる時期がやってきましたね~。基本、ミーハーな私にとって各種ランキングは面白い本との出会いの場であったりします。

 自分の読書は、まだまだ、各種ランキング等で一定の評価のある作品を読むことが中心なのですが、最近では、少しずつランキング前の新作本も読むようになってきました。
 自分の読んだ本がランキングに入ってたりすると、妙に嬉しかったりするんですよね~、こ

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ひかりのなかで遊ぶ

ひかりのなかで遊ぶ

いちばん秋が好きだ。秋のなかにいるとこれが永遠という気がするのに気がつくと去っている。
とはいえ秋はバランスを崩しやすくて、そのたびに寝込んだり薬のお世話になったりしていた。じょうずに思い出せない年もある。

私がとくに弱っていたとき、ろくに本も読めなかった。ふだん暇さえあれば本を読んでいたけれど、当時はほとんどの本を体が受けつけなくなっていた。
胃腸の弱っているとき、どんなに美味しくても脂ののっ

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ピアニストの絵

ピアニストの絵

フジ子・ヘミングさんの描く絵は、とても魅力的である。
綺麗なピンクが使われていたり、猫、花・・・特別な雰囲気のある世界だ。

私はピアノを弾きながら、頭の中で絵を描いている。
やっぱり音色というのは、色っていうくらいだもの。

あのピアノ演奏と共に、頭の中に絵があるのだと、この本で知った。
あのピアノの演奏を聴いたら、納得できる。

才能があり、将来を期待されながら、耳が聴こえなくなったという過去

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ぽたりと落ちた涙のような

ぽたりと落ちた涙のような

一度だけ本当の恋がありまして南天の実が知っております

南天にまつわる大好きな歌。山崎方代さんの代表歌で、たくさんの人々に愛誦されてきて、知っている方も多いかもしれない。
ほんとうにいい歌というのは古今集のよみ人しらずの歌のように、かんたんな言葉で、それでいて深く、なんの説明も必要とせず、多くの人の心にすっと沁みこんでゆく。

過ぎ去った、秘めた恋をやわらかく歌ったこの作品が60代のときのものであ

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