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詩集 黄道のシンフォニア (目次と原注)

【目次】------------------------------------
1 
 茫洋とした汀にひたすら拾う者がいる
 白い部屋で息をとめる私たちに
 夜の半球で軌道がずれた黄道を
 壁の内側から今日また機械人形が抛り棄てられる
 小瓶の中に

 抽象都市のポリメトリック
  Ⅰ 地下水道
  Ⅱ 
  Ⅲ 野営地
 暗号世界のトリプティカ
  Ⅰ ラブドール
  Ⅱ 聖剣士
  Ⅲ カミ見習い
 偽軌道上の構造體
  Ⅰ トーラスコア
  Ⅱ カジノルーム
  Ⅲ ライフボート
 蒼蒼のカタストロフ
  Ⅰ 第六葬船
  Ⅱ 集団墓地

 裏返しのタブロ*
  崩れる天井を蓋う黑布の隙間から射す闇の
  うつろな緑 脅かす黄 青の孤独
  白日はどこに在るかわからないが
 煌びやかな悖理はいり
  欠けた太陽が炙りつづける街の中心を覆う黑體に
  私が水を遣るとき彼も水を遣る
  車窓に反対風景がかさなり流れていく
 崩壊の微分*
  隅隅まで破壊される世界に横たえるあなたは
  私を凝視する彼らの視線を反らし
  水を汲みに行きましたが、戻ってみると壺の中は

 問いの地平*
  アストロラーベの叙唱
  鎖鋸が伐る老樹の膝が折れ
  翅ばたくたび舞いあがる細氷の輝光
 存在の愛しき積分*
  私たちは、いやもう一度訂正しよう、私は
  私を自発的に喪失しようという彼は、すでに
  棺をひく者がいる、彼は一歩を踏みだす度に
 指揮者のいない合唱*
  住家には水面の流れがある、澱みがある
  それが倒れてくるとき、奔る亀裂の絶叫に
  自明の破局をむかえる朱殷い海を渡り
あとがき

〔注〕*:連作詩題は、詩集では非表示とした(詩集「あとがき」参照)が、ここでは便宜的に表示している。

【原注】------------------------------------
1.印刷上の制約などについて
①プリントオンデマンドによる制約
 プリントオンデマンドでは、通常の書籍に比べ印刷品質が劣る。たとえば、細い字形は印字の掠れなどの問題が発生する可能性が指摘されている(横棒の細い明朝体の使用は避ける、7ポイント以下の書体やルビは印字品質が保証されない、分数表記では括線が薄くてみえないなど)。しかし、そのようなの問題が生じた場合でも、当該書籍については販売流通上「正常」書籍と判断される(落丁・乱丁を除く)。このため、印刷上の理由で判別不明な文字がある場合、noteに公開している上記の原詩を参照していただきたい。
②作者使用のワープロソフトの制約
 作者が使用しているワープロソフトの制約により、次の問題が残ったままとなっている。まず、行末の空白や句読点などを禁足処理(字詰など)する機能が実装されていないため、たとえば、ボックス詩形(行末文字の位置を揃える散文詩形)では行末の空白は余白に溶けこんでいる。また、 各頁の1行目では、ルビを挿入できる場合とできない場合がある(ソフトのバグによる)。なお、noteの原詩では、挿入できなかったルビを確認することができる(ただし、初出以外はルビを省略した詩集と異なり、ルビを多めにふっている)。
③正字
 詩では正字を選択的に用いている。たとえば、漢字については、詩集全体で統一して使っているものは、海、臭、黑、羽など。使い分けているものは、體(粗末なものや慣用表現などは体)、絲(化学繊維は糸)、氣(放つものや拡がるもの)、點(黑など白以外の点)など。なお、一部の正字は、PDFの組版を作成する段階で、印字不可または印字位置のズレなど原因不明の問題が生じたため、その使用を止めた。

2.個別の詩篇についての原注
 原注等により、テキストのあらゆる読みの可能性を排除してはならない。そこで、原注は内容を限定し、①初稿時期と初出(note以外の公刊書籍)の書誌情報、②詩句として使用している固有名や専門用語などについての簡単な説明、③引用の原典表記(ただし、オマージュ等の特定の引喩については「非常識な補注」を参照)、などについて簡潔に記す。

[1-1]茫洋とした汀にひたすら拾う者がいる
・初稿:2021/04/25、初出:土曜美術社出版販売『詩と思想』2021年7月号投稿欄
・視水平:観察者にみえる水平線。観察する高さにより水平線までの距離は異なる。

[1-2]白い部屋で息をとめる私たちに
・初稿:2021/09/18、初出:コールサック社『闘病・介護・看取り・再生詩歌集』2022年9月(原題:雪解けの暮鐘)

[1-3]夜の半球で軌道がずれた黄道を
・初稿:2021/08/15
・羅針図:海図において東西南北の方位を示す図像。ただし、北半球を例にとると、真北(地理上の北極点)に対して、磁北極は不規則に移動しているため誤差を生じる。
・リスカーレ:イタリア語「risicare」。船乗りが危険な航海に出ていくことから「勇気を持って試みる」という意味を持つようになり、英語「risk」の語源となったと言われている(諸説あり)。

[1-4]壁の内側から今日また機械人形が抛り棄てられる
・初稿:2021/01/24、初出:土曜美術社出版販売『詩と思想詩人集2022』2022年8月
・γ511:陽電子と電子が対消滅する際に放出されるγガンマ線がもつエネルギ511keV。

[1-5]小瓶の中に
・初稿:2022/01/22

[2-1]抽象都市のポリメトリック Ⅰ 地下水道
・初稿:2021/11/15
・ポリメトリック:複数声部から構成される楽曲で、同時に声部毎に異なる拍子やアクセントをとること。

[2-2]抽象都市のポリメトリック Ⅱ 筏
・初稿:2021/12/09

[2-3]抽象都市のポリメトリック Ⅲ 野営地
・初稿:2022/01/04
・無常の果実:ギリシア神話において、ゼウスと闘ったテューポーンに、運命の三女神モイラが騙して与えた果実。

[2-4]暗号世界のトリプティカ Ⅰ ラブドール
・初稿:2022/03/22
・トリプティカ:三連祭壇画(例 ヒエロニムス・ボス「快楽の園」)。空海の三面開きの「諸尊仏龕」や、家族の三面写真帳も同様。なお、原語のTriptychは、日本語で多くの場合、トリプティクと表記されるが、語感として「ク」で終わるのは息苦しく「カ」ならば開放される。詩題としては後者を採用した。
・ドール :本詩篇は、パンデミック下のあるリサーチに際して付随的に調査した米国やルーマニアなどのカムガール/カムボーイについての取材結果を一部参照している。作品中の「ドール」は、その性別だけではなく、人間か機械か、現実か仮想か、あるいは、使用価値のある商品か、欲望の記号かなどついて、固定した解釈は与えられておらず、その表象解釈は読み手に委ねられている。

[2-5]暗号世界のトリプティカ Ⅱ 聖剣士
・初稿:2022/05/15
・スパゲティコード:コンピュータプログラムにおいて、ソースコードの記載が複雑に入りくみ、製作者以外によるメンテナンスが困難となった言語状況。
・暗号:インターネットの暗号方式で現在、一般的に使用されてるのは公開鍵暗号。そのうち、最も多く使用されてきたRSA暗号方式では、素数に基づく鍵ペアの生成を行う。ただし、その安全性は時の経過とともに低下する。
・素数の最大値:素数に最大値はない(ユークリッドの定理)。つまり、詩中にある「素数の最大値で因数分解できる」は嘘言。素数探索プログラムは「The PrimePages」などを参照。
・ランダムウォーク(乱歩):自己回避ランダムウォーク(軌跡が交差することのないランダムウォーク)。

[2-6]暗号世界のトリプティカ Ⅲ カミ見習い
・改稿:2022/05/21

[2-7]偽軌道上の構造體 Ⅰ トーラスコア
・初稿:2022/08/14
・トーラス:円環面。位相幾何学において、人体とリングドーナッツやコーヒーカップは同相。
・コーパス:自然言語の研究において、大規模に収集・構築された言語データベース。ラテン語でコーパスは、からだを意味する。
・fps:フレームレート(frames per second)。3fpsは、1秒間に3フレームの静止画を記録すること。

[2-8]偽軌道上の構造體 Ⅱ カジノルーム
・初稿:2022/07/31
・1/1369:ルーレットには幾つかの方式があるが、ここでは0が一つだけの37ポケットを想定。
・ベット:賭けること。ノーモアベットは、賭け終了の宣言。

[2-9]偽軌道上の構造體 Ⅲ ライフボート
・初稿:2022/08/07
・ケルビン:熱力学温度(絶対温度)の 国際単位系(SI)の単位で、単位記号は大文字「K」。絶対零度を基点に、たとえば水の標準的な融点は、273.15K、宇宙の平均温度は、2.725K。

[2-10]蒼蒼のカタストロフ Ⅰ 第六葬船
・初稿:2022/10/04
・星草:白玉星草。「環境省レッドリスト2020」では絶滅危惧II類(VU)に指定。

[2-11]蒼蒼のカタストロフ Ⅱ 集団墓地
・初稿:2022/10/03
・バケット:土砂などを掘削する際に、重機に取り付けるアタッチメント(用途に応じて様々な形状がある)。

[3-1]崩れた天井を蓋う黑布の隙間から射す
・初稿:2022/10/17、初出:土曜美術社出版販売『詩と思想』2023年3月号

[3-2]うつろな緑 脅かす黄 青の孤独
・初稿:2022/10/30
・黑:光との関わりで黑は、光がない状態。たとえば、テレビの場合、ブラウン管で黑は表示できず、液晶画面では光を遮断する。なお、黑のRGBコードは「#000000」。一方、色としての黑は、三原色すべてを均等に混合した状態。したがって、黒インク一滴を水に垂らすと、各色素が分離する。

[3-3]白日は何処に在るかわからないが
・初稿:2022/11/03

[3-4]欠けた太陽が炙りつづける街の中心を覆う黑體に
・初稿:2022/12/04、初出:土曜美術社出版販売『詩と思想』2024年3月号

[3-5]私が水を遣るとき彼も水を遣る
・初稿:2022/12/12

[3-6]車窓に反対風景がかさなり流れていく
・初稿:2022/12/24、初出:土曜美術社出版販売『詩と思想詩人集2023』2023年8月号
・ラテン語語源ルビ:in vitro (ガラス=試験管内で)、in silico(シリコン内で)、in vivo (生体内で)

[3-7]隅隅まで破壊された世界にのこるあなたは
・初稿:2023/03/10
・三次元印刷機:3Dプリンタ。
・膿盆:そら豆型の皿状の医療器具。吐瀉物や摘出物、使用済み手術器具などを入れるのに使用。

[3-8]私を凝視する彼らの視線を反らし
・初稿:2023/03/31

[3-9]水を汲みに行きましたが、戻ってみると壺の中は
・初稿:2023/02/25
・クレンメ:点滴用のチューブラインで、滴下速度や流量を調節する装置。

[4-1]アストロラーベの叙唱
・初稿:2023/06/15
・アストロラーベ:古代・中世に用いられた天文・航海用の天体観測器(例 Whipple Museumの収蔵品)。ギリシア語で「星をつかむもの」を意味。黄道の投影線を含む3つの空間と時間が描かれている。
・叙唱:レチタティーヴォ。

[4-2]鎖鋸が伐る老樹の膝が折れ
・初稿:2023/05/02、初出:コールサック社『多様性が育む地域文化詩歌集』2023年10月(原題:皆伐)

[4-3]翅ばたくたび舞いあがる細氷の輝光
・初稿:2023/07/05
・ペフ板:標本を作製する場合に使用する、針を刺す床材。
・氷泡:冬季の湖で、湖面の氷中に閉じこめられた気泡。日本では、北海道の糠平湖やオンネトー、摩周湖、阿寒湖などが有名。
・口蓋破裂音:国際音声記号を参照。
・花蝶文金襴:名物ぎれのうち、向きあう二匹の蝶と花文などを文様化し、金糸で織りだしたもの。

[4-4]私たちは、いやもう一度訂正しよう、私は
・初稿:2023/08/27
・無心:無心体双胎。

[4-5]私を自発的に喪失しようという彼は、すでに
・初稿:2023/09/28
・人形供養:愛玩していた人形や縫ぐるみなどを廃棄する際に日本でみられる宗教行事。アニミズムや「草木成仏」などに基づくもの供養の一種。たとえば、空海(『吽字義釈』における「三種世間みなこれ仏体なり」)や天台宗(「草木国土、悉皆成仏」)など。
・仮現、素木:霊木化現仏。
・パレーシア:ギリシア語で、真実を大胆に語ること。
・ぼうやのお守りは どこへ行った あの山こえて:「江戸子守唄」からの引用。

[4-6]棺をひく者がいる、彼は一歩を踏みだす
・初稿:2023/10/29
・余擺線(トロコイド):円の円周に沿って別の円を転がすとき、後者の円の定点が描く曲線。定点が円の外にある場合は外トロコイド、内にある場合は内トロコイドと呼ばれる。
・円周率:2024年3月時点で、公表されている最長桁数の円周率は105兆桁で、その最後の数字は6。10進法でほぼ10の14乗であるが、仏教の1無量大数は10の68乗。なお、国際単位系におけるヨクト(yocto)は10のマイナス24乗。

[4-7]住家には水面の流れがある、澱みがある
・初稿:2023/11/19
・エトルリアの陶棺:イタリアのチェルヴェーテリにあるネクロポリスから発見された紀元前530~520年頃の「夫婦の陶製の棺」。日本の双体道祖神にも同様のビジョンを持つものがある。

[4-8]それが倒れてくるとき、奔る亀裂の絶叫に
・初稿:2023/11/27

[4-9]自明の破局をむかえる朱殷い海を渡り
・初稿:2023/12/02
・九行の無言歌:読み手の心に浮かんだ9行詩。

 なお、読者からの質問への回答がある場合などを含め、記載内容は適宜、更新する。
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