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私を凝視する彼らの視線を反らし

私を凝視する彼らの視線を反らし
瞬きをわすれ干乾びる角膜に落書される
微小な記号が斜めに晶出し
私の椅子のうえに吊られて下がる斷線した灯球が
苦しげに揺れる地下室の
鼻尖が触れる硝子の壁に陳列される
陳腐な眼球たちが何度もめくばせ
私が私でなくなる瞬間を看取ろうとしている

左右の壁に筒抜けの円い黑扉を蹴り破り
流れこむ波瀾に浮かびあがるたび異なる私の貌に
刻まれていく存在の傷痍に
溺れる偽腕が泥漿ぬかるみのうえの空虚に縋り
破綻を隠匿する濁流は
私を二つの廻廊奥部へ引き裂き

顛末のわかれる無二の物語の
仰ぎみるまま彼らに突きおとされる縦穴の
下の底から上の底まで
苦茶苦茶にふられシェイクされる私の存在はただちに痢瀉りしゃされ

かがむ私を締めあげる肌ざわりのよい拘束衣
開けた不在の正面に回旋するまぶしい虚球
限界応力を越える優美な嗜虐が累積する
壊疽が蝕む一様に黑い裏面に
萼のない紅紫色した花脣が咲きみだれ

鋭利に剥きだされる葡萄の実
横隔膜の咆吼を被りものがしずめ
にぎやかな宴席に
羽目をはずす口腔に
正確に打ちこまれる白球から
滲みだす
謎のことば

手拍子クラップにあわせ踏みつける
同心円の逃避行は
綺羅綺羅と
滴下する丸薬が演出する背骨のない羅利羅利な監置

齒を欠く弾櫛音楽箱オルゴールを手回しすると
集まってくる鼠たちと
何層にも貼りつけられる新聞紙を引きはがし
何度も塗り直され壁の下に隠れる記事を
おおきな聲でよみあげる

【23M31AN】(「崩壊の微分」よりⅡ)
*画像はStable Diffusionにて筆者作製。画像と本文に特別の関係はありません。なお、AI生成画像を無条件に支持するものではありません。


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