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私たちは、いやもう一度訂正しよう、私は

私たちは、いやもう一度訂正しよう、私は原拠なく
生まれるものではないし、亀裂のない目蓋のうちだ
とはいえ、弱さゆえに世界が昏いわけではなく、深
海に滲透する星影をすでに肌は感じているし、歩行
の始まりがいつとなるのか身體は記憶しているし、
反復する呼吸に終わりがあるとおり、或日やってく
る未来との遭逢が、無垢な幸福であるのか天賦の受
難であるのか、最初に射しいる光焰が私に彫刻し、
その後何度も切り開かれる傷口が生きよと言うその
光景を、私自身が予め知っていることに驚いている

そして私たちには自明な、しかし、或るものにはす
でに想起できないこと、それは、私たちの始まりは
連星系であること、つまり、私たちは二者として一
命を得ること、それは、一つの身體に八枚の翅をも
つ孤蝶かもしれないし、一個の繭に双體を重ねる玉
繭、または、一つの揺籠にねむる双身の嬰児である
かもしれないが、それは意識とともに斷続的に芽生
える不安をかきけす愛、笑みとともに麗らかな水際
で自身の影の先を追う遊戯、それを失うと直進する
危険な迷走を押しとどめる背後からの抱擁、すなわ
ち本源的双胎性が、私たちの生命の軌道なのではな
いのかと、そのただ一度の出来事に触れる世界をあ
りのままに物語るのは、瞑った瞼をもう一度押しあ
めをみはる、あけようとする門取手ドアノブを握る私の手の触覚
をもう一人の私の掌にゆだね忘却に抗う、つまりあ
なたとともに在る倫理なのではないだろうか、そし
て実際、私たちはいま無二の二人としてここに在る

しかし、私の意思と異なる意思が存在するというこ
とは、ちいさな創傷、始原に存る暴力の痕跡である
かもしれず、だが誰もが欺きあう世界に産みだされ
るとしてもあなただけは欺いてはならないという赤
い文字を織りこむ最初の約束が拍動をはじめる始座
をもつにもかかわらず、まれるということは誕信きょじつ
でありいつわるること、それは世界の涯で崩れつづける岬
の崖にはためく黑い帆布、その場所と私たちとの間
の限りない隔たりは、仰向いて漂流する船時計の鳴
りやまないさざめき、ことばのようでありことばで
はない、どの方角からも響きわたるすでに在るあの
言明、そこにある私たちの貌と身躯、眼差しの闇を
必要としない交転する向きあいを、もともと意味す
るものであろうことはいまの私にはわかる気がする

聴覚では捉えられない波が不確実な写像で私たちの
姿形を粗雑に点描するとき、背の甲骨から伸びる體
肢の先の両掌に、互いを包みあう雨覆や風切羽を認
めるとき、どのような角度からも明瞭に映るそれを
翼と誤認することはやむをえないが、私たちが飛翔
する一瞬をみることはできるのだろうか、私は生ま
れ墜ちるからだ、そのときすでに私に前翼はなく、
群青色する空へのまっすぐな志向は、指先が水辺に
痕付ける最初の記号を書きおえる前に洗い流され、
こみあげる悦びの聲は舌根より幽門へ一息で下り、
柩から掘りだされる空蝉よりも、自己の境位の曖昧
な消えいりそうな、弱弱しいまでの私たちは、何か
を編みこみながら新たな繭殻を心に築くだろうから

もちろん、まだみたこともないあるがままの失意を
語ることなどできない、私たちはいま、死者が最初
に語る真実とは異なる純粋な熱意、生命が最初に発
することば、というより発話、いやむしろ応答とい
う希望を互いに紡いでいるのであり、水に浸かった
聲帶が明瞭な聲を発するわけはなく、あなたとの間
の距離のない波動や身體に触れる意思への気づきと
いう驚きのまま、頬を寄せうまれる星の輝き、真空
が揺らぎ現れるのは物質ではなく魂であると確信で
きるほどだ、だから出会ったこともない何ものかが
橫切り、乗るもののいない小舟が黑浪におぼれ、私の
拍動だけが鳴動するきいたこともない沈黙、応答の
ない呼名、翼の陥没、斷絲 空絶 訴 ?!; 叫

羸弱るいじゃくする不規則な振動、小刻みに伝わる私のもので
はない私の劇痛、この世界が身動きできない柩とな
る緊縛、身體境界が粒状化し、自己への凶行、、、
楽譜の即興小節カデンツァに突然書きこまれる全休符、逆流す
る胃から溢れだす沙を吐き、去り行く私への弔辞を
よみあげる、そこにある無心の死塊、指先はとどく
が触れることはできない、非在である私、腐ること
なく自壞し時間を遡る双胎、私たちと生命の接面、
風が 誰がうたうのか鋭利な揺籃歌、疵口を開き縮
んだそれを焼灼する術式、刹那に響くみじかい聲、
靜かな痛覚は、吸息する私の創痕に耀うまなざし、透明な
渾沌に在る柔らかい触知の音律、水平線にかくれる
半球がまくれ私を包む深い襞、白い匂い、夜の汀渚を
あらう脈動は、潰えることのないおくぶかい衝動で世界を
みたす、波間に鳥が啼く、掌が握る毟りとられた羽

いや違う、私がつかんでいるものは、身體が隠しもつ
兇器であったかもしれない、何のため、あの苦しみ
がいつまでも続かないようにするために、または羽
が世界の境界を越えないようにするために、いや、
訂正しよう、そうではない、世界が私をみうしなう
のではないかという凜慄りんりつ、そこにはいないが呼びか
けてくるものがまだ到来していない現在を否という
疼き、いや違う、見つからない言葉の代替物で世界
と私を硬直させないため、私たちの創痍を瘡蓋が覆
い隠さないよう切開し続けるため、私が私であろう
とするものと出会うため、いや、不自由な言葉で自
己を語る自身を切りすてるため、あなたがいるとい
う意識を尖く突きたてるため、だから、あなたはあ
なたでいるために、無心となり、私と不二となるに
ちがいない、そう、無心となるのは私たちの世界だ

しかし、時が満ちれば私は自身を吐きだす、第三の
痛みは母とともにあり、新たな切離において私は、
羽もなく帰るところもなく這いだすものとなり、双
胎の縒絲である臍の緒を、祈りをこめて綿に包む女
の桐箱を船荷に終い、出帆し、座標を欠く海洋で日
の軌道を追い、舷牆げんしょうの下を流れさる蒼い貌の水難者
や、白波の飛沫一粒一命に影のうつる魂を見おとす
ことなく掬いあげ、私の胸に仕舞いその聲をきき、
繰りかえすことのない過去と開かれるままの未来の
間に存る私たちは、産まれるときになぜ喚びかけ、
去るときになぜ人は呼びとめられるかを知っている

【23G27AN】
*画像はImage Creatorにて筆者作製。画像と本文に特別の関係はありません。なお、AI生成画像を無条件に支持するものではありません。

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