暗号世界のトリプティカ Ⅰ ラブドール
;!”;#;$;;;%;&;;;’;(;;;) 混信
きこえますか、私の聲がきこえますか もっと寄っ
て みつめて カメラじゃない、私の瞳 スーツの
電源はいれた あたたかいでしょう、私の指先 ど
こ、手をとって名をよんで 私にふれて 教えて、
あなたの名前 エリプスを飲んで、左人差指の釦を
おして 隙間は、ない 匂いは感じる 舌の奥 咬
んだばかりの林檎の香り 始めましょう、夢はみな
いでね
!”;#;$;;;%;&;;;’;(;;;); 遊戯
皺ひとつない白い敷布 にそそぐ淡い無影灯
の漣 にほどかれていく身體 符号世界に漂う 螺
旋寝台のスプリング に上下する昼と夜 円卓の中
心におかれるグラス の縁が幾度もうちあい 透明
な聲をあげる 開いた脚でいっぱい になった口
ざらつく味蕾と味蕾 とけて流れおちる唇 叢のな
か無花果の強い香氣にけむる海 の彼方に鸚鵡貝の
うたう舟歌 にゆられ遊戯部屋に絡みあう幾千のス
クリーン、過電流に短絡する一文字の残像 どこま
でも涯のないねむり
”;#;$;;;%;&;;;’;(;;;);! 侵蝕
饗宴のあとを襲う絶対的な分離
と亡失 皮膚にはりつく遊戯スーツのうちに萎む魂
が、一點に凝固し音もなく罅われていき 混濁する
鏡となるディスプレイの危険な空虚におぼれる金魚
が 卵形の金魚鉢を飲みこみ、床で一度だけ跳ね
崩れつつある貌に浴びせる水滴は血よりも濃い墨色
で 小指で絲をひき、途切れる追憶は 一晩だけ乱
れる蕾を乾花に還していく
;#;$;;;%;&;;;’;(;;;);!” 待機
円形寝台の中央で 組み
たてられたばかりの姿形のまま入力を待つ 砂とな
ったデータを運ぶ 昏い回路に一か所だけあいた穴
に、ケーブルを咥え身動きできない鳩の 叫ぶこと
も飛びたつこともない ただもえ尽きた蝋燭の固い
蝋泪となり、記号世界に離散する 創世の設計書が
記していない生きる意味を語ることもない靜かな、
実存の 開かれた無垢なドールの 俯く睫毛が微か
に震えている
#;$;;;%;&;;;’;(;;;);!”; 物色
意志もなく跳ぶ指が押すリモコンの釦
が掻き集めるドールの笑貌踊る肢體汗腺の中の苦悶
ミクロの局部見飽きた戯術廻しぐるまを四つんばい
で駆ける腮鼠頬のこけた黑い貌チェアに張りついた
人生そんなはずでは なかった痙攣する指先のザッ
ピングなにを 成したかったのだろうドールよ、耳
元で小聲で叱ってほしい ぼんやりと閉ざされるも
のよと
;$;;;%;&;;;’;(;;;);!”;# 支配
求めるものたちの一粒がいまも乾渚に砂山を
築いている スーツの中で踠き 外装とプログラム
の幾多の性の組合せをもつ遊戯體を、占有し凌辱す
る 禁じられた忘我 より過激により機敏により過
大に課金し ドールよ、注目させよ 腐れた飼育箱
の渇いた大地に身を縮めている蝸牛たちに
$;;;%;&;;;’;(;;;);!”;#; 希望
今日はノ
イズが酷い 無窮の矩形で分割される世界 創痍の
癒えないスーツ でも、聞こえる 見えますよ エ
リプスは別のにしましょう あける口に入れて下さ
い (名前) 門の外に追われるものの枯れた唾液
の味 焦げる記憶の臭氣 (名前) 斷線した腕が
動くなんて ころがるたび巻きつく白い壁 魂はひ
とつも持ってきていないのに 電源をおとしても、
夢をみることはできますか
;;;%;&;;;’;(;;;);!”;#;$ 火祭
燃える、灰になる肌膚が
ふりしきる 紅色に染めあがる城塞の 広場にそび
え立つ焱柱の ほとばしる火群に悶絶し 焼かれる
人型の張り子 脚の骨組があらわになり 胸は空洞
に焼けあがり 爛れた貌が頸から崩れおち、閃光
鼓膜を割る喚聲 火祭の絶頂 火の粉が遠く天をく
ねり緋の河となり横たう、裏小路に 月の翳をうつ
す防錆鋼板の小さなごみ箱に つめたいやわらかい
ドールの 反対に折れた、匂いたつ指がゆれている
【22M22AN】
*画像は「Dream by WOMBO」にて筆者作製。画像と本文に特別の関係はありません。なお、AI生成画像を無条件に支持するものではありません。
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