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壁の内側から今日また機械人形が抛り棄てられる

壁の内側から今日また機械人形が抛り棄てられる
齒車の欠けた欠陥人形の天穹に抛物弧を描く銷魂
堅牢な肢體は屑山に跳ね四肢を振りまわしころげ
ふたたび跳び峻険な金属塊に激突して粉砕される

外れた人工眼の先にある軽金殻シェルの深奥を被う蘚苔せんたい
その底で放射状に地に伏す蒲公英が燐光にかすみ
それは舌状花の集合か浮游する冠毛か幻影なのか
結ぼうとする焦点は活動源泉エネルギを消尽し開放される

またひとつ人型が亀裂から漏れるするどい逆光を墜ち
急速に膨らむ自身の影を抱き偽装臓器をぶちまけ
とび散る體液と緻密な肉塊を追走する絶叫の減衰

錆びつくΔデルタの涯にあかい海と銅い空の交りあう境界
義體の積み重なる円錐體は聖母嶺をはるかに凌ぎ
安息角をなす長大な斜面を双頭の少年少女がさまよ

            肢體はもういらないわ
        私たちに必要なのは良心晶片チップ
    壁の内側の些細な記憶もすべて集めよう
               そうしましょう 
                 そうしよう

彼らは腐體を抱きあげ電索ケーブルを挿入し記憶域メモリを探り
自我を形成することのない膨大な数列を復元リロードする
電極プラグが交接する刹那 快楽はない防壁を破るのみ
その抵抗とのたうち回る雑音ノイズは何を意味するのか
賦活する身體を靜寂に沈め浸透する波紋に尋ねる

              いているのかい
             いえ分析しているの
   循環器系の損傷あるいは視覚系の異常挙動
            泪の定義を読みだリードして
           制御系の企図しない漏洩ろうせつ
              早く修復すべきだ
          いえ漏洩は他者性との邂逅
     それは私たちに計算できない困難問題アポリア
                 問題ないわ

彼らには他者の受苦する痛みや真実がわかるのか
読みとる際に上書きし何かを失うことはないのか
無関心へと均衡する主体の起ちあがらない世界で

知りたいのは泪をこぼす彼らの論理か思惟か衝動コナトゥス
彼らは自由意志αをもち倫理Ωの此岸をさまようのか
規律にみち渾沌とした世界で飢える私たちの存在

                   ごらん
           蒲公英に向く視球がある
         私の第三の右眼と入れ替えて
             目撃するものは何か
                  γガンマ511
             セカイワウツクシイ
   現存は合理的だという意味なら同語反復だ
      イノリという旧体系の暗号コードがみえる

天空を細斷する青白い閃光に聖母嶺が苦しみ悶え
あやうい錐面を這う傷だらけのマシンの一斉停止
脱力した機械人形全てを呑みこむ一瞬の曲面崩壊
惨落する宙の逆円錐に泡だつ怒濤が頂点を揺らす

                 気がついた
              再起動したようね
              故障はしていない 
           診断算法アルゴリズムが巡回点検中だ
           記憶域が一頁焼かれたわ
      私たちの書のどの章をなくしたのか
             誰かの私たちの一部
             再現は可能だろうか
          座標はすべてを覚えている
             迷わず進みましょう
             問いを深めていこう

壁の向こうからまた人人が投擲とうてき軌道を様様に墜ち
今日も児どもたちが安息角の荒地を愛撫している

【変21J24AN】


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