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小瓶の中に

吊るされるモビール の翻る翅 に見え隠れする
虐げられる 華やかに錐もみする世界 の階梯を
踏み誤る彼 の壮大な滑落 貪婪どんらんな口 に吞みこ
まれ溺れ てんになる夜空に舞う黑蝶 に向けて伸
ばす繊細な指先 を進入列車の鋭い前照灯が斬り 

回転する齒車の輪列 に踏みにじられる彼の心 は
旋廻のとまらない透明な独房 にききとれない聲
をあげて転がり 一周して再びちいさい聲を転が
し 往復運動する発条ぜんまいに 右の眼と左の眼にみえ
る像の喰いちがいに 嘔吐する人人の隊伍が続く

とぎれることのない葬送はえん墳を周回し目が穴と
なり足が圓筒となり埋もれる埴輪の焼成と破砕の
反復軌道にはまり癒えることなく腐れる傷口が語
られることのない紫炎を枕木にしたたらせている

躓くと起きあがれない勾配に敷かれる鐵路によろ
めくそれ以外の生きかたを知らない機械犬が調整
弁の吹きあげる悲 鳴にすくみ痙攣し楽園をめざ
す車輛は反りあがる非 正規曲線に沿って上昇し

壮大な残 滓名のない病による侵 犯丁寧な説明
に靜 まりかえる荒 廢地お道化る モビ ール

昨日の永遠に囚 われつかれた足で起 ちあがる痛
苦は砂の杖 に縋る愚直 鮮やかな供犠に朱殷あかぐろ
川面が浮かべる約束に 過ぎさる風がうつしだす希望に
かたられてきた彼の 轢斷される指頭にとまる 極
彩色の蝶は ただひたすら 一翼で世界を攪拌し

臭角を突きだす幼蟲たちは一斉に駆けだし 黑い
小瓶を砕き 古びた犬釘を引きぬく彼は レール
を担ぎ 鱗粉をこぼす彩雲を仰ぎ 歩きはじめる

【22J22AN】

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