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鎖鋸が伐る老樹の膝が折れ

鎖鋸チェンソーが伐る老樹の膝が折れ
脇を支えるものたちが次次に両掌りょうてを突き
嗚咽とともに吐きだす白く細い指
肋骨あばらの浮きでる土瀝青アスファルトの瘦地に散乱し
自身の躯を顎に挟むものたちの黑い列に取りこまれ
迷霧にかすむありづかの尖鋭な立體迷宮へ攫われていく

中心を欠く螺管迷路は
不規則に顫動せんどうする触角が手繰りよせる渦動
重力を無効化して内壁を旋回し
憶えられない数多の曲角を直進し
食餌安置モルグの茫漠たる暗昏に投棄される
反撃しない私たちの指の異様なしずけさ

横倒しになり時針の停まった振子箱のすみで
廢頽していく意識は
未来を描き損ない自己をもかき消す
二度目からは容易となる欺きの
危険な快楽に屈服するたびに
時に在る人称の記憶は簒奪され
永遠を装う現在の闇房に繫囚される
仮死が支配するここにいま在る異常事態

また膝が折れた
深部にとどくおし殺した鈍い響き
その瞬時の発光に残影するのは
慄く世界の裸形
私が支えきれなかった重みの犀利な切迫

またいくつもの膝が折れる
閃光のたび振子の円盤に自身の貌をみる指の驚き
眼孔の奥にある熾火おきびに喚びおこされる秒針の振動音
不意に錘をおす指の聲
悔恨の同伴を想いおこす指は掘りはじめる

わずかな灰に瀕死の街をあら
地表の汚物をまきこむ汚染水のおおみず
その汚濁を希釈し濃縮する部厚い層理のしたで
擦りへるおやゆびの紋理が縒りあう根毛の絲

鈍重な砂礫の隙間を匍い
掘り貫く深層水系をしなやかにおよぎ
いのちの弱まる切株の主根へのたどり着き

いたみの顕わな切斷面の年輪に滲みだし
華芽の絲玉を膨らませ
おだやかに回旋しむきあい起ちあがり
陽を遮る無彩色の塁壁を越えていく五彩の華華

倒れる樹冠の巣に温めるもののない卵を抱き
森の泉を失う涸川に華筏をながし
くぼんだままの弾痕を母樹の繼穂つぎほでみたし
百華のあざやかな曠野の丘に立つ古時計に指は集う

【改23Y02AN】
*画像はStable Diffusionにて筆者作製。画像と本文に特別の関係はありません。なお、AI生成画像を無条件に支持するものではありません。


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