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記録(エッセイなど)

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記録文まとめ。たまにエッセイや、大学の課題など。
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記事一覧

旅行記『ひとり福岡編、1日目』

旅行記『ひとり福岡編、1日目』

2月3日、午前11時過ぎ。数年ぶりに乗った飛行機で羽田空港から発つ。ときおり横に揺れたり不安定に降下したりするたび、ぎゅっと手を握りしめて目を瞑った。福岡まで生きてたどり着けるだろうか。死ぬときは乗客もパイロットさんも乗務員さんもみんな一緒だ。でも、一緒だからといって怖さが消えるわけではない。怖い、という感情が人数分増えるだけだ。

飛行機の窓から見える景色を眺めていると、自分ひとりの存在って本当

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エッセイ『勉強って、こんなに楽しかったっけ!?』

エッセイ『勉強って、こんなに楽しかったっけ!?』

 高校1年生の10月、私ははじめて勉強を好きになった。マークシートを埋めていく手が止まらない。ペン先が紙の上を滑る音を聞きながら、今ならどんな難問でも解けてしまいそうな全能感に満たされる。思わず笑みがこぼれてしまいそうなほど、わくわくした。勉強って、こんなに楽しかったっけ!? 私の変化に誰よりも驚いたのは、私自身だった。

 小中高、課題やテスト勉強はそれなりにこなして、赤点を取ったことは一度もな

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エッセイ『憧れの靴』

エッセイ『憧れの靴』

 中学1年生のころから、憧れていた靴がある。メゾン・マルジェラのタビブーツだ。タビブーツを履いている人を街中で目撃した瞬間、私はどきっとして、その靴に魅了されてしまった。いつか私も、あのブーツを履いて街を歩いてみたい。あの靴にふさわしい自分になれたら、買いに行こう。私は、タビブーツを買うための貯金をはじめた。

 19歳の春、私は進路を変更した。大きな転機だった。めまぐるしく変化する環境のなかで、

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エッセイ『日記を書いて、感情を可視化する』

エッセイ『日記を書いて、感情を可視化する』

 私は1年ほど前から、毎晩日記を書いている。日記を書き始めたきっかけは、自分の感情を正確に認識するためだった。私には、物事と感情を切り離して捉え感情を蔑ろにしてしまう癖がある。たとえば「道端で転んだ」という出来事があったとしても、「そういうことがあった」という事実しか感じないようにしてしまい、本当は「痛い」や「恥ずかしい」などと感じていたはずなのに感情が出来事と乖離してしまっているのだ。私はこの癖

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どうにもならない日

どうにもならない日

覚えたてというほどでもないけれど、吸い慣れているわけでもない煙草を吸う。ミントが好きだからメンソールは吸いやすい。依存しそうで怖いから、重い銘柄は吸わないようにしている。そんな足掻きもそのうち通用しなくなるのだろうなと思いながら火を消した。自分が思っていたよりも私は弱かったな、ということに気づく。

あのころの母は、あのときの父は、寄りかかるものがほしかったのだろうか。思考回路を鈍らせる嗜好品なし

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『どこの不審者だおまえ!』に読む、有川ひろの行動力

『どこの不審者だおまえ!』に読む、有川ひろの行動力

 敬愛している小説家、有川ひろのエッセイ集中の一篇、『どこの不審者だおまえ!』。タイトルの訴求力はもちろんのこと、情感たっぷりの語りに引き込まれる。このエッセイには彼女の小説家としてのバイタリティ、私も見習わなければ!と思わせるエネルギッシュさがある。

 これは有川ひろが執筆のために陸上自衛隊へ取材の電話をした際、まさに「どこの不審者だおまえ!」と言われんばかりの名乗りをしてしまったというエピソ

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きらきらしていた

きらきらしていた

10代のころ、私が好きだった人の話。

彼は、「死にたいと思ったこと、一度もない」と、清々しいほどきっぱり言い切った。私は、「いいなぁ」とつぶやいた。

不意にベンチから立ち上がった彼は「全然違うから、きみと話すのは面白いんだよ」と笑う。私たちは一応、大人になれたらしい。久しぶりに会った彼は髪が伸びていたし、声変わりも当然終わっていた。私は、「時の流れというものは」と途方に暮れながらハイボールを飲

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私の顔

私の顔

浮腫がちな奥二重。小学生のときに丸太から落ちたせいで凹凸のある鼻。下唇がすこし厚い唇。存在感のあるエラ。私は自分の顔が好きではない。

許容できている点といえばちょうどいい幅のおでこ、描かなくても立派な眉、常にほんのり上がっている口角である。許せる箇所があるだけでもマシなのかもしれないけれど、それでも私は鏡をみるたび落ち込んでしまう。

外見に対するコンプレックスが生じたのは10年以上前のこと。記

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彼らが食べた鰻の味、静岡(課題)

彼らが食べた鰻の味、静岡(課題)

2年前、2021年の2月。ジャニーズ事務所所属のアイドルグループ、SixTONES(ストーンズ)のライブへ行くために友人と足を運んだ静岡県で、彼らがYouTubeの企画で訪れていた鰻屋さんへ行くことにした。

新横浜から新幹線に乗って静岡へ向かったのだが、車窓から見える大きな富士山にはしっかりと歓声を送った(控えめな声量で)。実物よりも写真や絵などモチーフとしてのそれを見る機会の方が多い私は富士山

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生きる川(課題)

生きる川(課題)

愛犬の豆柴と散歩をするときにいつも歩く川沿いの道。その川には、日々うつろいゆく自然の趣がある。

ある日の朝は、しんと静謐な様子であった。またある日の夕暮れは、空の橙色を映す水面が、柔らかい表情でゆるやかに流れていた。その川にはごつごつとした大きな石、岩場のようになっているところがいくつかあり、そこには鳥たちが佇んでいる。

川の流れに逆らってすいすいと泳いでゆく鴨の群れ。大人の鴨よりもまだひ

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通信制大学1年生。文芸を学問として学ぶこと

通信制大学1年生。文芸を学問として学ぶこと

私はいま、京都芸術大学通信教育学部(通称KUA通信)の文芸コースに所属している1年生だ。いろいろあって年齢は20歳。そのいろいろはまた別の機会に書くとして、今日はこの大学に入って文芸を学ぼうと思った初心に帰ってみようと思う。

突然ですが、私は好きなことが義務になってしまうと好きではいられなくなるタイプです。たとえば高校生のころは、勉強がいくら好きでも、学校から課せられると途端に嫌になってしまうと

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血縁上の彼

私には、父親がいない。縁が切れてしまったという方が正しいかもしれないけれど。それが起きたのは昨年の夏のことだった。私はまだその事実を受け入れることができていないけれど、こうして言語化することで少しでも救われるものがあるのではないかという希望未満の願望によってこの文章を書いている。

私と父の縁が切れた主な原因は私の持病。そして父の精神状態が見方によってはおかしいといえる状態にあったこと。私には双極

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木綿豆腐

味噌汁に木綿豆腐が入っているとほっとする、絹はちょっと他人行儀な感触がする。

これは私が、完全さよりも不完全さに惹かれやすい特質ゆえなのだろうと思う。全体がなめらかでなだらかで完全な人よりも凹凸があってどこかしらが欠けていたり突き抜けていたりする人に惹かれる(コミュニケーションを取る相手ではなく、一方的に憧れたり好意を寄せたりする対象はとくに)。

絹豆腐のことは別にきらいではないけれど、なんと

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殴り書き

好きだから書いている、好きなものを、事象を人物を光景を書いている、だけれど好きなだけでは通用しない。

私が好きだと感じるすべてのもの・ひとは、そのひとの主観的な好きだけで構成されているわけではない。深い知見、思想、その人にしかない積み重ねの上に成り立っている。

だから私が書くものはまだ足りない。自分が好きでいられたならそれでいいと割り切ってしまえれば今のままでもいいのかもしれないけれど、やっぱ

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