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二年目

121
2020年の詩まとめ
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#詩

きらきら

きらきら

早朝、マスクをつけたまま 自転車を漕ぐ
呼吸した証が 水滴となって睫毛にうまれて 視界が溺れる
苦しくないけどすこしだけ 不安になって
ぼやけながら きらきらと揺れる景色が
ほんとうの世界なんじゃないかって、視力の良いわたしには思えたんだ
朝は誰にでも平等に 始まりを与える
リセットされて、繰り返す 365日
いつだって始まりは輝いているけれど、美しい景色を 美しいと思える真冬の朝は とくべつすき

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雪の詩

雪の詩

SNSでみつけた「雪だ!」の投稿に愛しさを感じます
わたしの住む街にはまだそんな気配は微塵もないけれど、
確かに何処かでは雪が降っていることに感動してしまう

早朝、誰の足跡もついていない真っ白で神聖な雪を、おろしたてのレインブーツで踏み込む瞬間はこどもの頃からどきどきして、ちょっぴりいけないことをした気分になります
さくさくと微かに足裏に伝わってくる感触に寒さをすっかり忘れて玄関まわりの雪をひと

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わんにゃん

ひとの心も満足にわからないのに、イヌネコに過剰な感情移入できるひとがすこしこわい

殺処分も民間保護施設も人間のエゴでしかなくて、イヌネコはわたしたちと同じ言語を発しないからわかったふりして同情する
自分は味方だから、傷つけないから、でもごはんもトイレも人間の決めたルールに従って、人間が愛せるイヌネコになってね、って笑顔で抱きあげる

イヌもネコも嫌いでないけれど、ノラネコの気ままさがすきだし、神

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オルゴール

オルゴール

どんな曲でも聴いているとさみしくなってしまうね

過去を丁寧に掬いとって小さな箱に詰める

欠片が静かに跳ねて脳に眠っているあの日の記憶が覚醒します

忘れてしまわないようにそっと蓋を閉めて両手で包み込む

つぎはいつ開けるかわからないけれど

決して古くならない魔法の箱

迷子

迷子

秋の夕方、誰かに呼ばれた気がする

迷子になってしまいそうな空気のにおい
懐かしくて、すこし焦げくさい、でも嫌いじゃない

夕日を背にしてのびる影につられてどこまでも歩いて歩いて街のすみっこ
あと数歩進めば消えてしまえるかな
あかく燃える夕日にとけて一部になる

もうおうちに帰ろう、チャイムが鳴ります
誰でもないそれがわたしを現実に連れ戻す

何処からか漂う夕餉のにおい
わたしを迷わすにおいは消え

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東から

東から

きっとわたしが居なくなっても朝日の届かない部屋がひとつ増えるだけで
君にはちゃんと朝日が届く、そのくらいの変化しかないんだよ

線香のにおいがまだかすかに残る喪服をクリーニングにださなきゃ、

日常に戻る
わたしがいない世界がはじまることにきっと君は疑問を抱かない
君は生きているから

わたしはいつか誰かの記憶にしかならない
記憶のわたしは誰にでも優しくて大切な存在になってしまうでしょう

だか

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梅雨

梅雨

雨の日は無理して笑わなくても許されるような気がして
傘で表情の見えない君の機嫌をうかがわなくても許される気がして
雨音だけがふたりを隔てているのに、とても遠くに居るみたい
世界の音をかき消してくれるこの音が嫌いになれません
湿気でヘアスタイルが崩れるからと愚痴をこぼす君はかわいいよ
すべてが洗い流されてリセットされたらいいのに、と
スタバのカウンターから眺めながら飲むフラペチーノは味気ない雨の日に

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のこりもの

のこりもの

きっと神様はじぶんがいらない部分をあつめてわたしたちをつくったのだろうね

神様からの贈りものなのよ、って美しい言葉に包まれて生まれてきたわたしたち

人間になるたびにその存在が薄くなっていくよ

あなたもわたしもカミサマからつくられたのに
よっぽど汚い部分を捨てたかったのね、カミサマ

どうですか、清くなれましたか、
人間はいつだってアナタのこと美しい存在だと信じています

神様に祈っても届く

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魔女

魔女

何処にいるのか、なにをしているのかわからないけれど
なんだか毎日たのしそうだなぁ、と思われる人間に憧れます
朝日がのぼるすこしまえに目が覚めて
空気よりすこし重いカーテンを しゃっ、とあけてまだ誰にも汚されていない空気を吸って吐いて
おはよう
いつかの昼下がりにコトコト煮込んだジャムをちょうどいい焦げ目の食パンにたっぷりと
サクッと噛めば一日のはじまりの音がします
こどもたちが登校して静かになった

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あおい

あおい

空、青い 空っぽ 透き通って掴めない 落ちてくる 見透かされ
海、青い 暗い 潮のにおい 生き物の死んだ腐ったにおい 絡まって溺れて泡になって
青はわたしを消してくれるどんなにのみ込んでも歪むことなく濁ることなくまた誰かを誘って自分だけが青を知っていると錯覚させるこの世でいちばん美しくて醜い色

公園

除草作業後の公園に漂う草花が生きていたにおいがなんだか苦手だ、いきものが絶たれたにおい、生きてたにおい、砂場のあの甘いようなにおいが恋しくなってめいっぱい漕いでいたブランコからとびおりた

過去にとべるタイムマシンができた
過去の決まった時間にかけられる電話ができた
それを望んで手をつけてしまった時、いまのわたしは死んでしまった
未来を明るくするために、なんて体のいいこと言うつもりはないよ
過去は変わらない、変えたらいけない
ここ感情を抱えて生きていかないと、
人間である意味、忘れてしまいそうだから

小学生の頃に親友と書いていた交換日記
プラスチックの軽くて脆い鍵で秘密はまもられていると信じていた
お互いだけが知ることを世界から隠せている気になっていた
いま、世界から隠してしまいたいことに溢れているのに
どんな鍵もパスワードも信じられずに
すべて自分の底に蓄積されていくだけ

星に

金平糖を夜空にかざして君のくちもとへ、あまい一等星をたべて願いが叶いますように