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ヤマギシの軌跡

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中の人、山岸のすべてがここに。
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#小説

仙台城という城が、ない

仙台城という城が、ない

仙台には、仙台城という城が、ない。ないのだ。

いや、正確には「あった」のだが、第二次世界大戦時に焼失してしまい現在はその跡しか残っていないのだ。

ふざけんな
ねえのかよ!!なにが仙台城"跡”だよ!!申し訳程度に書くなよ!!よく読んでなかったじゃねえか!!

それも、俺は跡地をみて初めてないことに気がついたのだ。散々肩透かしを喰らった俺はもう、仙台城に対する憤りを抑えきれない。

険しい坂道を登

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おもいで-卒業式

おもいで-卒業式

小さい頃から、自分ひとりだけが取り残されるのが怖かった。

風邪でひとりだけ遊びに行けない日の家の中とか。

皆がすやすやと眠る中、自分ひとりだけが寝付けない修学旅行の夜だとか。

皆が何一つ苦労せずにできること。

そんな当たり前のことができず、ひとり取り残される。

その感覚が怖かった。

そして僕はこの瞬間、またひとり取り残されそうになっている。

今日は小学校の卒業式だ。

6年間過ごした

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おもいでー髪の毛は、呪文を唱えると切ってもらえると思ってた

おもいでー髪の毛は、呪文を唱えると切ってもらえると思ってた

髪を切ってもらうとき、いつも困ることがある。それは、どうやって理想の髪型を伝えるかだ。

写真を見せるのが手っ取り早いと、だれかから聞いたことがあるが、どうしても躊躇してしまう。

というのもやっぱり、「あっ、この髪型カッコいいな」と思う写真とは「かっこいいモデルさん」の写真。それをそこまでかっこよくない自分が美容師さんに見せる構図を想像するだけで、恐ろしくなってしまうからだ。

「今日はどんな感

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おもいでーだけど、花火大会は来年もあった

おもいでーだけど、花火大会は来年もあった

中3の夏、俺はどうしても花火大会に行きたかった。

自分は特別に花火大会に対する執着が強かったと思う。

というのも毎年この時期は、家族で遠く離れた祖母の家に行っていたので、ほとんど観たことがなかったからだ。

最後にみたのは五歳のとき。母と、1歳になる弟が一緒だった。花火が上がる川は混むからと、会場の近くの公園で。

会場からは少し距離もあったが、それでも花火は大きくて、真っ暗な空が赤や黄色に染

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おもいでー救世主

おもいでー救世主

遠くへ行きたい。

そう思った。

もう限界だった。

これまでに、いくつの問題と向き合い、いくつの事実を知ったことだろうか。

地理に数学、物理化学、英語と現古漢。

昨日までは必死に食らいついていた問題の数々だが、今となってはもう、まともに向き合う気力すら無かった。

正四面体の辺上を歩くアリがn秒後に全頂点を訪れている確率Rn

知りません。

人は、バスケット選手の数を数えている最中にゴリ

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おもいで-弟・レイタ

おもいで-弟・レイタ

年の4つ離れた弟がいる。

はっきり言って、彼とは相当仲が悪い。

こないだ弟の卒業式に出席した際には、他の兄弟が仲良く肩をくみあいながら写真を撮るのを見て、咄嗟に自分も同じことをしてみようと思い弟の肩に手を伸ばすと、奴は露骨に嫌な顔をしてみせた。

それほどに仲が悪い。

人間、4つも年が離れてしまってはわかりあえないのが世の常。

しかし年齢差以上に明確な理由がある気がしてならない。

そして

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おもいで-大発見

おもいで-大発見

気づいてしまった。

小学6年生の秋。

驚くべきことに気づいてしまったのだ。

6年2組、在籍者32名。

このクラスには、

寅年うまれと兎年うまれしかいない

なんてことだ

いままでに、

「好きになる女の子の名前には絶対"か行"が入る」

「キスで子供は生まれない」

など、様々な歴史的発見を繰り返してきたヤマギシ少年だが、この発見には自分でも驚きを隠せない。(ただし1つ目の発見は高1の

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おもいで-ベイブレード

おもいで-ベイブレード

一世を風靡したオモチャ、ベイブレード。

ベーゴマの現代版としてタカラトミーから発売された。

ゲームを買ってもらえず、虚しくバッタ採りをしていたおれは、デジタル離れした遊びが流行っていることに狂喜乱舞した

過去3回にわたりスケールアップしヒットを繰り返したベイブレード。

おれたちの世代が狂ったように回したのは第二世代、

メタルファイトベイブレード

いままでとの大きな違いは、ベイの材質とし

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おもいで-踊り場事件 最終話

おもいで-踊り場事件 最終話

「ちがっ」

「とうさんっ」

束の間の出来事だった。

むなぐらを掴んだ左手は、僕を離そうとはしなかった。

「友達を家にあげるなとは散々言っていたはずだ」

「ちがうんだっ、そういうイミじゃないっ」

錯乱状態の中、ぼくはただ、いたずらに声を発することしかできなかった。

「あれはチガウんだっ」

「何が違うのか説明してみろ」

「あれはっ...あれは友達じゃないッ(ヤケクソ)」

もう何をし

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おもいで-踊り場事件 第二話

おもいで-踊り場事件 第二話

午後3時。

少年たちは、二階の一室にいた。

親のいない家。

誰にも指図されることのない閉空間。

むしろ絶好のたまり場なのだ。

たしかあの日は、友達7人くらいを家に呼んで、プレステ2の太鼓の達人に夢中になっていた。

曲をえらぶドン!

今日は”テイレイケン”というオトナたちのイベントがあるらしい。まったく無縁の子供たちにとって、いつもより早く帰って遊べる日でしかなかった。

笑い声が聞こ

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おもいで-踊り場事件 第一話

おもいで-踊り場事件 第一話

我が家には様々なルールがあった。一部、ざっくりと紹介しよう。

「門限は5時!」

父「一分でも遅れたら、締め出すからな」

家から二分の公園で遊んでいて、気づくと5時になっていたことがあり、「あっ!やべ!」と思い家に帰る。

5時2分。まさかとは思ったが、

開かない

「お小遣いの範囲で生活しろ!」

父「月々のお小遣いは、一年生は100円、二年生は200円。六年生で600円だ。

いいか。俺

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