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おもいで-ベイブレード
一世を風靡したオモチャ、ベイブレード。
ベーゴマの現代版としてタカラトミーから発売された。
ゲームを買ってもらえず、虚しくバッタ採りをしていたおれは、デジタル離れした遊びが流行っていることに狂喜乱舞した
過去3回にわたりスケールアップしヒットを繰り返したベイブレード。
おれたちの世代が狂ったように回したのは第二世代、
メタルファイトベイブレード
いままでとの大きな違いは、ベイの材質としてプラスチックから金属が採用されたこと、そしてパーツを組み替えることで、自分好みのベイが作れることだ。
これによってより激しいバトルが展開され、持ち駒には「おれだけ感」なる価値観が付与された
子どもたちは、それぞれカスタマイズしたベイを持ち寄っては、最強の座を競い、みにくい争いを繰り返していた
そんななか、このベイの右に出るものはないと囁かれた最強のベイがあった。
それがこの、
エルドラゴ
洗練されたデザイン、強さを象徴するドラゴン...
その見た目からすでに最強の風格がにじみでている。
この、エルドラゴが最強とされるゆえん、それは、
全ベイの中で唯一許された左回転
ほかのベイが右回転の中でただひとつ、
エルドラゴだけが左回転 アンチ・クロックワイズ
これはもう強いとしかいいようがない
ではナゼ左回転が強いのか? しらん
何かしらの科学的エビデンスがあるかも知れないが、とくに関心がなかった。
人とは、はかり知れないものを前にすると恐れおののく生き物。
足場の見えない暗闇を恐れ、
先の見えない未来を恐れ、
得体の知れない左回転を恐れる
人々は、その得体のしれぬ能力を持ち合わせたエルドラゴに服従するしかなかったのだ
巷では、エルドラゴの噂に噂が重なり、その噂は止まるところを知らず、徐ろに神格化された。
ある日、友人が言った。
「エルドラゴが...エルドラゴが....」
ひどく動揺した様子だった。
その口は震え、目は充血し、額から出た汗はやがて大きな水滴となり、頬を伝って地面にビタッ、ビタッと音を立てて落ちていく。
自分自身でも今から言おうとしていることの恐ろしさに怯えているのだろう。
支離滅裂なことを口走ったあと、絞り出すように言った。
「こっ、公式大会で...」
まわりで彼の話を聞いていた少年たちは、固唾をのんだ。
「しっ、しっ、」
「死んだんだっ、人が」
死ぬ
ベイで
人が
死んだ
もはやその強さはベイとしてのそれを遥かに凌駕している
兵器だ
急に自分の持っているベイが情けなく見えてきた。
エルドラゴにくらべればこんなもの、
こんなもの、
ただのオモチャだ
圧倒的殺傷能力のもと己の無力さを知り落胆する少年たち
その中で一人、アキヒトだけは違った。
アキヒトは人一倍好奇心旺盛で、モデルガンやBB弾など、なにやら怪しげなものには率先して手を出すやつだった。
そして一言
「おれ、買うわ」
サイコパスかおまえは
しかしアキヒトの目はもうマジだった。
数日後
果たしてアキヒトはエルドラゴを手にした。
多くの人が見守る中、アキヒトはランチャーにベイをセットした。
対するは右回転のベイ、ダークヴォルフ
怖さはあるものの、その破壊力を一目見ようと大勢の人が押し寄せたのだ。
「いいか、回すぞ...」
「3,
2,
1,
ゴーッ、シュート!!」
その途端、アキヒトが叫んだ
「みんな、逃げろ!!」
うわ~~~~~~っ!!!!
その声とともに、集まっていた人たちは四方八方へと飛び散った。
フィールドを見守るものはもう誰もいないが、2つのベイがぶつかりあう音は、遠くからでもその攻防の激しさを物語っていた。
ガキーーーーーン
ガッ ガガガガガガ
ガキンガキン
ガガガガガガ
カッ...
カッ...
カツン
...............
勝負は....ついたのか?
おそるおそる近づくと、フィールドの中心には2つのベイが転がっていた。
エルドラゴと、ダークヴォルフ
勝ったのは、
どっちだ
するとだれかが言う
「きっと、」
「きっと勝ったのはエルドラゴだよ」
そして他のものもそれに続いた
「エルドラゴだ」
「そうだ、エルドラゴが勝ったんだ」
「そうよ」
「ちがいねえ」
「エルドラゴ万歳!」
「エルドラゴ万歳!」
「万歳!!」
「万歳!!」
「ばんざあああぁぁぁあああい!!!」
こうしてエルドラゴの伝説は、未来永劫語り継がれるのだった
〈前回〉
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