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本当に新しい価値観は生まれたのか? コロナの生活意識への影響を考える

「コロナで生活者の価値観は激変。新ニーズへの対応に追われています・・・」

こんな会話が仕事中に出てきたりします。この数カ月でソーシャルディスタンス、テレワーク、リモート、withコロナ、アフターコロナ、ニューノーマルなどなど様々な言葉が生まれ、意識は変わってきています。

しかし、本当に新しいニーズが生まれ価値観自体が激変したのでしょうか。改めて、コロナがもたらした影響について考えてみます。

価値観は本当に変化しているのか

【価値観】
物事の価値についての、個人(または、世代・社会)の(基本的な)考え方。

「価値観」とはそもそも、個人および集団における基本となる考え方です。この「基本」は文化的な背景含めて長年にわたって形成されてきたもの。なので、短期間でそんなに簡単には変わるものではない、というのが一般的な考え方です。

ただし、今回のコロナのような全世界的なインパクトがあれば、「長年にわたり形成した」というところを短期間へ変えてしまうこともありえます。生活様式や社会・政治体制が大きく変化することで、その環境で生きる我々の価値観も結果的に変わっていくでしょう。

しかし、この価値観の変化は0が100になったり、100になったものが0になったりといった激変レベルのことなのでしょうか。

よく議論されているのは、こうした問題です。

・安全が大事、でも一方で経済も大事だ
・収益が大事、でも一方で信用・信頼も大事だ
・事業成長が大事、でも一方で環境配慮も大事だ
・個人の利益が大事、でも一方で集団の利益も大事だ
・対面が大事、でも一方でリモートのメリットもある

今まさに議論の的になっている「Go to キャンペーン」もそうです。感染者が増えつつある今、本当に旅行を促進してよいのか?でも、外出周りの産業を維持する上では刺激策も必要。どちらの視点も理屈は通ってます。

こうした、二項対立するものにどう折り合いをつけるか、ということがテーマになっています。こうしたバランス感も、一つの価値観ということができます。

「ニューノーマル」の言葉の真意

人類の歴史は、古代から現在までの経緯を辿ると、このバランスをうまく取りながら生存してきたとも言えます。コロナの前でも、どの時代にも世の中は変化しており、常に二項対立テーマは存在してきています。そう考えると、今回のコロナで「価値観が変化している」と考えるのは、少し近視眼的な視点なのかもしれません。

バランスのとり方、つまりどちら寄りに偏るかは、時代環境や政治経済、テクノロジーの進化でも変わりますが、人はそうした制度や技術をうまく使ってバランスを取ってきたといえます。

「ニューノーマル」というキーワードは、これまでのやり方ではバランスが取れないので、「もっとうまくバランスを取ろうよ」という提言であり、今までになかった全く新しい価値観ではないのではないでしょうか。

行動経済学上の「ツボ」も変わる

ビジネスで生活者を動かす上での行動心理に影響を与えたのがアメリカの社会心理学者であるチャルディーニです。増加の一途をたどる情報量と、脳の処理能力のギャップから、人々は「なるべく楽に物事を判断しようとする」と提起しています。

人々は、経験から「楽に正しそうなこと」情報処理することで、頭が疲労することを回避していると言います。チャルディーニはこれを「簡便法」と名付け、6つの法則に分類しました。

①返報性の法則
何かをもらったら返さなければと感じ行動する

②一貫性の法則
一貫性のある人間だと思われたい

③社会的照明の法則
たくさんの人がやっていることは正しいと感じる

④権威の法則
偉い人や専門家の意見は信じてしまう

⑤好意の法則
好意を持つ相手に対しては肯定してしまう

⑥希少性の法則
今だけと言われるとこの機会を逃したくない

これらの法則は「〇〇なのだから、▢▢だ」というように、ある種の枠組みで考えて、結論や行動に至るまでの思考を楽にショートカットしていると言えます。

一方で、全てがこのように枠組みの中で思考し行動しているわけではありません。情報処理の「簡便法」に基づかない、衝動的な意思決定や行動があり「人を動かすための18のツボ」として整理されています。

<行動を促進するツボ>
①急かされる:気持ちがあおられ、冷静さを失う。
②対決させる:敵か味方かの関係を作るとどちらかを応援してしまう。
③食べ物にする:人は食べ物に幸福を感じるので関心を惹きつけやすい。
④限定される:タイムサービス、数量限定などはその機会を失いたくない。
⑤対比がある:新旧・A派B派など対比させると理解が進み反応したくなる。
⑥帰属意識を刺激される:人は何かに属していないと不安になる。
⑦挑発する:自尊心が傷つけられると挑発に乗ってしまう。
⑧選択させる:選択を迫られると選んだほうをひいきしてしまう。
⑨サイズを変える:たまに大きさを変えると注目する。

<行動の抑制を取り除くツボ>
⑩お膳立てされる:他人が引き受けてくれるならラクだと思う。
⑪お墨付きがある:人は社会的証明や権威を信用しがち。
⑫現場が来てくれる:自分から行くのは面倒。相手が来てくれるならラク。
⑬口実がある:「一回だけ」「みんながそうだから」などの言い訳。
⑭ファッションの流行に乗っている:外見が刷新されればほしくなる。
⑮体が動く:小さな行動をすると、流れでより大きな行動をする。
⑯名前を付ける:名前が付くとみんなに知られていると思える。
⑰本音を伝える:本気のメッセージは人の心を揺さぶる。
⑱子供の心を誘発する:童心に帰す仕掛けをすると行動をする。

こうしたツボは人間に本来的に備わってしまっているツボであり、短期的な影響で価値観が変化したから変わるというものではありません。しかし、そうした影響で「どっち側に振れるか」というバランス感が変化することは考えられます。つまり時代によって押しやすいツボ(響くツボ)が変化すると考えられます。

ツボの中では、「④限定される」、「⑫現場が来てくれる」といった「損失回避欲」、「簡便欲」などが今のwithコロナにおいては大きな欲求になっているといえます。

また、「⑥帰属意識を刺激される」もこの環境下では高まっているように思います。他者の承認・容認が得られにくくなっている環境下では、先の「Go to キャンペーン」は逆に行動を抑制する方向に意識が向き、効きにくいかもしれません。

こうした、時代の変化で、生活者が重視するポイントはシームレスに変化しています。ここを掴むことが大切と言えます。

まとめ

コロナで価値観は変化していますが、それは全く新しい価値観が生まれたとか、今までの価値観がゼロになったという話ではありません。注目すべきは既にあった価値観のウェイトの置き方、「バランス」です。

二項対立のテーマで、時代に合わせて、天秤のウェイトが変化しているという感覚が近いです。そしてそのウェイト次第で、行動経済学でいうところの「ツボ」も響くツボと、響かなくなるツボが変わってきます。

今の変化を捉えて、響くツボを見極めて、仕事に向き合いたいと思います。そして、このバランスは今後も日々変化し続けます。このバランスの変化を敏感に掴んでいきたいものですね。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。





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