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コラム

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徒然なるままに
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#小説

八王子ウエストゲートパーク〜同窓会の回

八王子ウエストゲートパーク〜同窓会の回

小学校の同窓会に呼ばれた。
成人式の少しあとに開催されて以来なので二年ぶりということになる。いまも八王子に住んでいる連中はたまに会っているらしいが、引っ越してしまった僕は彼らと会う機会も減ってしまった。彼らと会うのも必然的に二年ぶりということになる。

三月上旬には、出席者だけのLINEグループができた。発起人のユウヤを中心に、メンバーは七人しかいなかった。思ったより少数だなと思ったが、よくわから

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「官能小説を書いてみよう」と思い立ったことはあるか

「官能小説を書いてみよう」と思い立ったことはあるか

家族が家にいない時間を見計らい、ソワソワしながらリビングのパソコンの起動ボタンを押す。
ドアの鍵が開く音に知覚過敏になりながらネットサーフィンに乗り出す。
身体のあらゆる感覚を研ぎ澄ませながら、一期一会の「宝物」を探す。

スマホが普及した2020年現在、こんなハイリスクローリターンなスリルを味わう中高生はいるのだろうか。いたとしても、恐らく数は少ないだろう。自室で、学校で、トイレで、風呂で。18

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アメリカ旅行記-2日目-「偽りの$45」

無言の時間は永遠に思えた。僕の目の前の巨大な鏡餅は怪訝そうな表情を浮かべるだけで、何も言葉を発さない。「What should I do?」鏡餅の顔を見上げながら僕は言った。1日目「この中にヘミングウェイはいない」はこちらから

僕…著者。
石川…最近彼女と別れた。こちらでは「タマキン」として登場。性豪。
中村…留学経験あり。「僕」の母親の中では就職留年することになっている。
吹野…人の心がない。

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柔能く剛を制す

梅田駅近くのバス乗降場に降り立つと、むわっとした熱気が僕を包んだ。18時過ぎだというのに太陽の余熱は収まる気配もない。
大阪に着いたらどのラーメン屋に行こう、と10店舗ほどリストアップした中で、僕は福島エリアの2店舗に目星をつけていた。9時間近い長旅は、めぼしいラーメン屋の選定には充分すぎる。

僕が最初に行こうと決めたラーメン屋は福島駅から歩いて行ける距離にある「燃えよ麺助」という店だった。福島

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片道二時間だけのバカンス①

朝5時前。
ほとばしる夏の暑さが、まだ身を潜めている。クルッククーと鳴く鳥たちは、蝉に邪魔されない朝ぼらけを目いっぱい楽しんでいる。
「…交通情報です。中央自動車道は、上り線、小仏トンネルを先頭に5キロの渋滞です。下り線は順調に流れ」
起きしなに合わせたBGMに乗せて、滑舌のいい女性が交通情報を読み上げている。昨日はまた、ラジオを消さずに寝てしまったようだ。耳触りのいい声に釣られて夢の中へ戻ってし

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SIXTH SENSE'S SICKS

21時過ぎ、070から始まる知らない電話番号から着信があった。
「…はい。」
「あー!もしもしー!〇〇くんのお電話で間違えないですか?」
電話口の先にいるのは、ハイテンションな女だった。作られた空元気は、むしろ隠された邪気を増幅させる。怪しくないですよ、という意識付けは、むしろ逆効果だ。
そうですけど、と答えると、女は続きを話し始めた。
「以前、ビッグサイトでアンケートに答えて頂いたと思うんですけ

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祖父母についてのエトセトラ

父方も母方も、祖父母の家が都心にあった。実際は世田谷区と大田区なので都心とまでは言えないかもしれない。それでも、行きに中央自動車道を上る時は、区部のビル群に東京の大きさを感じ、心を躍らせていた。僕にとってビル群は「都心」の象徴だった。

車で一時間程度で行き来できるので、小さな頃は定期的に父方の祖父母の家を訪れていた。父親の仕事柄、比較的休みを取りやすい家庭だったので、その機会は頻繁にあった。

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