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『関心領域』にみる、良心の呵責
アウシュヴィッツ収容所と壁ひとつ隔てた隣に暮らす一組の家族がいた。
所長を任された親衛隊中佐ルドルフ・ヘス(クリスティアン・フリーデル)一家だ。
穏やかで幸せな日常を描きながら、聞こえくる銃声や怒声が収容所のおぞましい実態を浮かび上がらせていく―。
大戦中とは俄かに信じられない豪邸に、使用人を雇い、愛する子どもたちと何不自由なく暮らすヘス家族。
優雅な日常を描くなかに幾度となく鳴り響くのは、お隣
『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』にみる、加速進化のある世界
鬼才デヴィッド・クローネンバーグ × ヴィゴ・モーテンセン氏が4度目のタッグを組んだSFホラー。
急速な進化によって人類から痛みの感覚が消えた近未来を舞台に、自らの体内から新たな臓器を取り出すパフォーマンスを行うテンサ―(モーテンセン)とパートナーのカプリース(レア・セドゥ)を主人公に贈る異色作。
生体と見紛うグロテスクな寝台に横たわり、臓器の芽を育てるテンサー&見守るカプリース。
痛みの
『ライド・オン』にみる、香港映画の終焉再び
いつからだろう、ジャッキー・チェン氏の作品を追わなくなって久しい。
反日発言がどうとか言われるずっと以前、ハリウッド映画に出始めた頃だったろう。
中学生の当時、ひとり劇場で新作を観るほどにはカンフー映画が好きだった。家
族旅行で香港へ行けば誰よりも興奮した。
それさえ今は昔、古希を迎える大スターによる懐かしいアクションと聞いて、本当に久しぶりに劇場へ足を運ぶ。
先日の『無名』もそう、偏愛していた
『ベイビーわるきゅーれ』にみる、ジャパニーズ・フィルム・のわーる
今秋、第3弾となる『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』の公開が控えている、記念すべき第1作目。
プロの殺し屋の女子高生コンビが、卒業を機に同居、社会に馴染むため”表の顔”を演じて悪戦苦闘する青春の日々を、迫力のアクションとともに描く―
くー。おもしろい。すごく好き。
緩緩なちさと(髙石あかり)×まひろ(伊澤彩織)のコンビが、アクションシーンではキレッキレの殺し屋になるギャップ萌え。
ふたり
数多、映画の原作『不思議の森のアリス』
評論家で翻訳家の仁賀克雄氏による<ダーク・ファンタジー・コレクション>第2弾。
フィリップ・K・ディックの『人間狩り』にはじまり、論創社より全10巻刊行されているシリーズ。
仁賀氏は存じ上げず、ただ収録の短編「血の末裔」を探していて見つけた一冊。
いつか高原英理さんの『ゴシックハート』のなかで、”憧れとしての怪奇をよく描いている小説”として紹介されていた。
自分のなかのゴシックハートを試してみた
『フェイブルマンズ』にみる、映画への愛
なかなか食指の動かなかった自伝作にあっさりと惹き込まれていく。
ユダヤ系である以外、生い立ちを知らずに監督作を眺めてきたけれど、ヘンタイ域といってよいエンタメの神様は予想通り少年時代から変わっていた。それが個性的な両親の板挟みによる影響であるとわかれたのはなによりの収穫。
父と母と、家族同然に付き合う友人ベニー(セス・ローゲン)らの、往年を感じさせる豊かな演技が作品全体の魅力を大きく底上げしてい
『汚れた血』にみる、小爆発
先日、古書店に来たお客さんと映画談議をした。
仕事とか忘れて話が止まらなくなってあとで反省するのだけれど、さいごのほうで監督の話題になったとき、レオス・カラックスが一等好きだとその人はいった。
そうして慌てるようにして、先日『アネット』を観たのだ。
俄然監督作品を観直したくなってしまった。
近未来らしからぬ舞台設定。お飾の奇病に仄かな色どりを添えられたSF的フィルム・ノワール。
アートで鮮烈な
豪華絢爛『プロスペーローの本』にみる、ピーター・グリーナウェイの偏執
”ピーター・グリーナウェイ レトロスペクティヴ”と題したリバイバル上映が、ここ札幌にもやってきた。
どれも未見の4作品のなか、ずっと気になっていた『ZOO』観られず。
『プロスペローの本』に足を運ぶ。
シェイクスピアの『テンペスト』さえ知らず、簡単なあらすじを頭に入れて、あとは映像の偏執的狂気をたのしみに。
手作り感たっぷり、流動的な画面に繰り広げられる、舞台劇の閉塞を逆手に取った絢爛豪華なシ
『ノマドランド』にみる、現代(いま)を生きる答え
この感慨はなにかに似ている。
ずいぶん前に観て動揺を覚えた『イントゥ・ザ・ワイルド』だ。ジョン・クラカワーの原作『荒野へ』もすばらしかった。
原作はジェシカ・ブルーダーの世界的ベストセラー・ノンフィクション『ノマド:漂流する高齢労働者たち』。
『スリー・ビルボード』の好演が印象深い、主演のフランシス・マクドーマンド氏に圧倒される。
最愛の夫を亡くし、家を手放し、キャンピングカーでノマド生活を送
整形した殺人鬼が、『夜歩く』
初めて読むディクスン・カー(1906~1977)で、記念すべき処女作。
『It Walks by Night』1930年刊行。
翻訳によって随分印象の違うらしい本作。最新のものでも読みにくさを指摘されたりしているようだ。
こちらは半世紀前の創元推理文庫版、井上一夫訳。
評価はしらないが、読みにくいことはなくたまにクスッと笑う。
仄かな怪奇趣味と、おもわせぶりの人狼と、密室殺人トリックの甘さ、そ