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『悪は存在しない』にみる、自然界隈

長野県、水挽町。自然豊かな小さな町に、突然持ち上がったグランピング場開発計画を巡って揺れる住民たちと、彼らと対立する形となってしまった会社側担当者が織りなす人間模様を綴る―

濱口竜也監督最新作は観る側の意識を試す、説明のいらない軋轢の行く先を描く。

外部から来た異分子を悪と決めつけて眺めるうち、内部に潜むもっと歪んだ黒い正体を突きつけられて広い荒野へ投げだされるよう。

主人公父娘の素朴な暮らしをはじめ、住民たちの生活は正しく、うつくしいといえるか。心もとなく画面を見つるばかりで答えは誰も出してくれない。

考えうる解釈に長く付き合うこともできれば、人間らしい素朴なエッセンスを呑み込んで、なんの違和感もなくさらりと映画館を出ることもできる、不思議な映画。

劇場で観てちょうど1週間経ち、私は後者で全く異物感を抱かず、長回しで捉えた素朴な暮らしぶりと冬の空気を日常の中に時々思い出していた。
林の匂いまで感じられるほど、自然描写の秀逸に感性の鋭さを感じた。
この人は都会ばかりでなく、自然まで見事に描けてしまうらしい。

知力が映画を作る、それで作品はおもしろく世界に通用するなら冷淡でも悪くない。

本編で初めて濱口監督を、是枝裕和氏に並ぶもしかしたらそれ以上の才能かもしれないとおもった。

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