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『無名』にみる、”映画の自由”の終わりの始まり

楽しみにしていたトニー・レオン氏最新作は中国製スパイ・ノワール。

純粋なエンタテイメントとはちょっといえない赤に染まった観ある、かなしい出来映え。

このままいずれ香港映画界は中国に飲み込まれてしまうのだろう。それはなんて寂しいことだろう。

1941年、上海。日本の傀儡である汪兆銘政権の下で諜報機関に所属する男(トニー・レオン)。部下(ワン・イーボー)とともに汪兆銘政権に忠誠を誓い、敵対する中国共産党勢力と熾烈なスパイ戦を繰り広げるのだが―

中国共産党、国民党、日本軍の名もなきスパイたちが己の信念をかけ敵味方なく欺き合う姿を描く。

日本からは森博之氏が上海駐在の日本将校役を演じる。”満州に夢を抱く石原派”といわれてもピンとこないのが悲しいが、三者の関係を主要に据えた大切な役どころであった。がやや浮いていた。

つくづく第二次大戦下の中国をなにも知らず、ストーリーにつていくことが難しい。
ただ観たからといって当時を正しく学べそうにない、中国史観のようなのだ。

1940年代を再現する絵面は魅力的。
キャスティングがよいのにあまりエモくないフシギ。
ウォン・カーウァイなら? クリストファー・ドイルのカメラなら? これをどう捉えただろう。
おなじく同時代を描いた名匠アン・リーの『ラスト、コーション』を考える。あれはとびきりエモく恐ろしい純愛映画だった。

複雑に時間軸を入れ替えてうまく機能しておらず、スタイリッシュさを演出して満たされず、なかなかよいところが見つからない。
とってつけた音楽さえ染みない。
なにより日本兵たちの言動に違和感があるのは如何ともしがたい。日本人が演じていないと見た。

体を張ったアクションと驚くべきオチさえも無感動なまま、こんな低評価なことに我ながら驚いて劇場を後にする。

監督は『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・上海』のチェン・アー氏。
アクション・シーンのトニー・レオンはややカンフー映画のジャッキー・チェン師に寄り、トレードマークの撫でつけた髪を乱しながら死闘を繰り広げるのだが、流石にカッコ悪い。
動じない冷酷なオールバックのトニーはこの世界線にはいないのだ。

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