中山智裕

社会人大学院生。人文社会学の視座で、戦略・イノベーション領域におけるデザインを編む。京…

中山智裕

社会人大学院生。人文社会学の視座で、戦略・イノベーション領域におけるデザインを編む。京都大学経営管理大学院 博士後期課程/JAIST 修士(知識科学)/Kyoto Creative Assemblage 1期/多摩美術大学クリエイティブリーダーシッププログラム 1期

記事一覧

『悪は存在しない』と存在しない「自然」

第80回ヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞を受賞し、日本では2024年4月26日に公開された、濱口竜介監督による映画『悪は存在しない』。この作品を観終わったあとの思索を深め…

中山智裕
2週間前
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二度目の自己紹介:続く「人文社会学とデザインの交差点」

はじめまして、もしくは、いつもお読みいただきありがとうございます。中山智裕(なかやまともひろ)です。 私は2022年9月にnoteをはじめました。そのときには、多くの方…

中山智裕
1か月前
6

『オッペンハイマー』と崇高な対象

クリストファー・ノーラン監督が手がけ、第96回アカデミー賞で作品賞や監督賞を含む7部門を受賞した『オッペンハイマー』。3月29日から日本での公開が始まったこの作品につ…

中山智裕
1か月前
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「Kyoto Creative Assemblage」のスタイル:2年目の私的更新

2024年3月9日、Kyoto Creative Assemblageの第二期修了式がおこなわれ、一期生にも声かけいただき参加してきました。京都大学、京都工芸繊維大学、京都市立芸術大学の各大…

中山智裕
2か月前
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『哀れなるものたち』と倫理的行為

ヨルゴス・ランティモス監督が手がけ、エマ・ストーンが主演した『哀れなるものたち』。第96回アカデミー賞11部門ノミネートを果たしたことで注目を集めるこの作品のラスト…

中山智裕
3か月前
4

『PERFECT DAYS』と〈対象a〉

ヴィム・ヴェンダース監督が手がけ、2023年のカンヌ国際映画祭で役所広司が最優秀男優賞を獲得した『PERFECT DAYS』。日本では2023年12月22日に公開され、個人的には2024年…

中山智裕
3か月前
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「エステティック・ストラテジー」とは何か:2年目の私的まとめ後編

Kyoto Creative Assemblageの前半にあたるPart1「エステティック・ストラテジー」について、自身の学びの整理として本記事を書きました。ぜひ前編を一読いただいた後に、本…

中山智裕
5か月前
6

「エステティック・ストラテジー」とは何か:2年目の私的まとめ前編

一期生として昨年度修了したKyoto Creative Assemblageが、二期として今年度も実施されています。そして、前半にあたるPart1「エステティック・ストラテジー」にメンターと…

中山智裕
5か月前
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『TÁR』と欲望

2023年のアカデミー賞では作品賞含む6部門にノミネートされ、日本では2023年5月12日に公開された『TÁR』(邦題は『TAR/ター』)。公開初日に映画館で字幕版を鑑賞し、そ…

中山智裕
5か月前
1

design thinkingとwicked problemを誰が結びつけたのか

論文を読んでいると、「〜という概念は、(研究者)が初めて提唱した」という趣旨の文章にしばしば出会う。この観点で、(理論寄りの)デザイン研究をしている方であれば一…

中山智裕
6か月前
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戦略 strategyについての私的覚書

昨年度書き上げた修士論文ではストラテジックデザイン strategic designを扱い、昨年度の受講生として参加したKyoto Creative AssemblageのPart 1方法論はエステティックス…

中山智裕
7か月前
5

『バービー』とパフォーマティヴィティとパロディ

日本公開前に全世界興行収入が10億ドルを突破した『バービー』を先ほど観てきた。この作品も前記事で紹介した「エステティック」概念による価値創造を体現した映画のように…

中山智裕
9か月前
6

『君たちはどう生きるか』とエステティック

スタジオジブリ映画『君たちはどう生きるか』はエステティックによる価値創造の現在進行形の事例である、という生煮えの考えをこの記事では綴りたい。なお、執筆者は本作を…

中山智裕
10か月前
9

人類学の視点からデザインを広く捉えることの一例

東京デザインプレックス研究所のフューチャーデザインラボに携わっていらっしゃる山本尚毅さんに声かけいただき、山本さんのプレックスプログラム講義「デザインを広く捉え…

中山智裕
11か月前
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経営学におけるパーパスの特徴──学術論文の文献調査とKJ法を用いた整理

私が学位取得した北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)では、副テーマ研究が必修単位として課せられています。この記事では、私が博士前期課程在籍1年目に取り組んだ副テー…

中山智裕
1年前
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社会人大学院生時代の振り返り:2年にわたる研究活動の紆余曲折

北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)の博士前期課程に2021年4月から2023年3月まで在籍し、修士(知識科学)の学位を取得しました。この記事では、修了後のいまの視点も交…

中山智裕
1年前
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『悪は存在しない』と存在しない「自然」

『悪は存在しない』と存在しない「自然」

第80回ヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞を受賞し、日本では2024年4月26日に公開された、濱口竜介監督による映画『悪は存在しない』。この作品を観終わったあとの思索を深めるひとつの視座として、「自然」概念を取り上げたい。なお、本記事は最後まで公開情報の範囲で記載する(ネタバレ含む内容自体の考察については、数多ある他の記事や動画を参照されたい)。

『悪は存在しない』

2023年の61st New

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二度目の自己紹介:続く「人文社会学とデザインの交差点」

二度目の自己紹介:続く「人文社会学とデザインの交差点」

はじめまして、もしくは、いつもお読みいただきありがとうございます。中山智裕(なかやまともひろ)です。

私は2022年9月にnoteをはじめました。そのときには、多くの方と同じように、自己紹介記事を書いています。そのなかでnoteをはじめるきっかけとして書いた、北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)博士前期課程での研究活動とKyoto Creative Assemblageの受講については、それ

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『オッペンハイマー』と崇高な対象

『オッペンハイマー』と崇高な対象

クリストファー・ノーラン監督が手がけ、第96回アカデミー賞で作品賞や監督賞を含む7部門を受賞した『オッペンハイマー』。3月29日から日本での公開が始まったこの作品について、ラカン派精神分析の視角から縦横無尽に映画を/も論じるスラヴォイ・ジジェクのように考察することを試みたい。以下は『オッペンハイマー』鑑賞後に読まれることを想定し、作品自体の説明は深くせず、(伝記映画ではあるが、具体的なシーンを参照

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「Kyoto Creative Assemblage」のスタイル:2年目の私的更新

「Kyoto Creative Assemblage」のスタイル:2年目の私的更新

2024年3月9日、Kyoto Creative Assemblageの第二期修了式がおこなわれ、一期生にも声かけいただき参加してきました。京都大学、京都工芸繊維大学、京都市立芸術大学の各大学の担当講義・演習の振り返りに加えて、二期生のみなさんを交えたパネルセッションの時間もあり、一期生にとっても気づきの多い時間でした。それに触発されて、私が修了した一年前に書いたプログラム全体像の考察に対して、自

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『哀れなるものたち』と倫理的行為

『哀れなるものたち』と倫理的行為

ヨルゴス・ランティモス監督が手がけ、エマ・ストーンが主演した『哀れなるものたち』。第96回アカデミー賞11部門ノミネートを果たしたことで注目を集めるこの作品のラストシーンについて、ラカン派精神分析の視角から縦横無尽にポップカルチャーを/も論じるスラヴォイ・ジジェクのように考察することを試みたい。以下は『哀れなるものたち』鑑賞後に読まれることを想定し、作品自体の説明は深くせず、(ラストシーンを扱う以

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『PERFECT DAYS』と〈対象a〉

『PERFECT DAYS』と〈対象a〉

ヴィム・ヴェンダース監督が手がけ、2023年のカンヌ国際映画祭で役所広司が最優秀男優賞を獲得した『PERFECT DAYS』。日本では2023年12月22日に公開され、個人的には2024年の映画館初めになったこの作品について、ラカン派精神分析の視角から縦横無尽にポップカルチャーを/も論じるスラヴォイ・ジジェクのように考察することを試みたい。以下は『PERFECT DAYS』鑑賞後に読まれることを想

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「エステティック・ストラテジー」とは何か:2年目の私的まとめ後編

「エステティック・ストラテジー」とは何か:2年目の私的まとめ後編

Kyoto Creative Assemblageの前半にあたるPart1「エステティック・ストラテジー」について、自身の学びの整理として本記事を書きました。ぜひ前編を一読いただいた後に、本記事をご覧ください。この後編についても、山内裕先生の趣旨・主張を正しく汲み取れていない可能性がありますので、あくまで一人のフォロワーが受け止めた内容とご理解ください。

エステティック・ストラテジーとは、既存の

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「エステティック・ストラテジー」とは何か:2年目の私的まとめ前編

「エステティック・ストラテジー」とは何か:2年目の私的まとめ前編

一期生として昨年度修了したKyoto Creative Assemblageが、二期として今年度も実施されています。そして、前半にあたるPart1「エステティック・ストラテジー」にメンターとして参加していますが、その内容が一期から大幅にアップデートされているため、もはや受講生と同じ感覚で学んでいる状況です。そこで、受講していた昨年度と同じく、今年度も自身の学びの整理として本記事を書きました。一期の

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『TÁR』と欲望

『TÁR』と欲望

2023年のアカデミー賞では作品賞含む6部門にノミネートされ、日本では2023年5月12日に公開された『TÁR』(邦題は『TAR/ター』)。公開初日に映画館で字幕版を鑑賞し、その後に2回観るほど、惹き込まれる映画だった。本記事では、この作品にふさわしい光の当て方だと個人的に感じている、「欲望」について紹介したい。なお、本記事は最後まで公開情報の範囲で記載する(ネタバレ含む内容自体の考察については、

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design thinkingとwicked problemを誰が結びつけたのか

design thinkingとwicked problemを誰が結びつけたのか

論文を読んでいると、「〜という概念は、(研究者)が初めて提唱した」という趣旨の文章にしばしば出会う。この観点で、(理論寄りの)デザイン研究をしている方であれば一度は出会ったことがあるのは、「design (thinking) 研究に wicked problem を持ち込んだのは、Richard Buchanan である」ではないだろうか。たとえば、Interaction Design Found

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戦略 strategyについての私的覚書

戦略 strategyについての私的覚書

昨年度書き上げた修士論文ではストラテジックデザイン strategic designを扱い、昨年度の受講生として参加したKyoto Creative AssemblageのPart 1方法論はエステティックストラテジー aesthetic strategyと名付けられた。そのため、「そもそも“戦略”とは何なのだろうか?(何と関連づけて語られる概念なのか?)」という思いが自身のなかにはある。以下は、

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『バービー』とパフォーマティヴィティとパロディ

『バービー』とパフォーマティヴィティとパロディ

日本公開前に全世界興行収入が10億ドルを突破した『バービー』を先ほど観てきた。この作品も前記事で紹介した「エステティック」概念による価値創造を体現した映画のように思うが、本記事ではパフォーマティヴィティとパロディという別の光の当て方を紹介したい。なお、本記事は最後まで公開情報の範囲で記載する(ネタバレ含む内容自体の考察については、数多ある他の記事や動画を参照されたい。また、ソーシャルメディア上のや

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『君たちはどう生きるか』とエステティック

『君たちはどう生きるか』とエステティック

スタジオジブリ映画『君たちはどう生きるか』はエステティックによる価値創造の現在進行形の事例である、という生煮えの考えをこの記事では綴りたい。なお、執筆者は本作を7月14日・17日と2回観ているが、本記事は最後まで公開情報の範囲で記載する(ネタバレ含む内容自体の考察については、数多ある他の記事や動画を参照されたい)。

エステティック aesthetic

本記事がいうところの「エステティック」概念

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人類学の視点からデザインを広く捉えることの一例

人類学の視点からデザインを広く捉えることの一例

東京デザインプレックス研究所のフューチャーデザインラボに携わっていらっしゃる山本尚毅さんに声かけいただき、山本さんのプレックスプログラム講義「デザインを広く捉えること──社会課題と人類学の視点から」(2023年6月7日実施)のなかで、人類学の視点について私からも少しお話させていただきました。自己紹介・講義・ワークショップで45分ほどいただいたうち、講義部分のスライドをこの記事で共有します。なお、想

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経営学におけるパーパスの特徴──学術論文の文献調査とKJ法を用いた整理

経営学におけるパーパスの特徴──学術論文の文献調査とKJ法を用いた整理

私が学位取得した北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)では、副テーマ研究が必修単位として課せられています。この記事では、私が博士前期課程在籍1年目に取り組んだ副テーマ研究の成果物をそのまま公開します。知識創造論の講義も担当されている由井薗隆也先生に副テーマ指導教員としてご指導いただき、2022年2月23日に提出しました。
当時の成果物をそのまま転記しているため拙い部分も多々あること、また、口頭発

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社会人大学院生時代の振り返り:2年にわたる研究活動の紆余曲折

社会人大学院生時代の振り返り:2年にわたる研究活動の紆余曲折

北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)の博士前期課程に2021年4月から2023年3月まで在籍し、修士(知識科学)の学位を取得しました。この記事では、修了後のいまの視点も交えつつ、講義・ゼミ・研究活動の順に、当時を振り返ります。
研究活動については、研究を目的とした大学院入学を検討されている方に、こんなにも紆余曲折が“あってもいいんだ”ということが伝わればと思い、情けないところも隠さずそのままを

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