驚きの地方創生「京都・あやべスタイル」を読み気仙沼市の成長を創り出す人材を生む必要性を考える|地域視考
早いもので「地域視考」も7回目である。前回は私設図書館を通じて地域交流を増やし、地域の活性化を行ったケースを紹介した。その上で、気仙沼市内で行われているアジアカフェ&nihongo cafeを例に、気仙沼市ならではの私設公共について考えている。
今回は、”驚きの地方創生「京都・あやべスタイル」”を読んだ感想を交えて、気仙沼市における人材の高度化について書いていきたいと考えている。
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”驚きの地方創生「京都・あやべスタイル」”は観光書籍であって地方創生ノウハウ本ではない
本書は地方創生を冠しているが、地方創生に役立つ情報を求めて読むのであればお勧めしない。あくまで京都府の綾部市の観光ムックとして読む方が好ましいと考える。そもそもの前提として、本書で取り上げられている京都府の綾部市は、グローバルに展開している大企業を2社擁する恵まれた自治体である。
また、大都市である京都市からの交通利便性が悪くなく、その先には大都市圏である大阪圏が存在している。日本国内において、数少ない恵まれた条件を備えた自治体であり、そうでない自治体にとって、何ら参考になる点がない。
岩手県で言えば、都市圏からの交通利便性こそ皆無であるが、金ケ崎町が近い。グローバルに展開している大企業が複数存在しているだけで、自治体の豊かさは非常に大きなものになる。それを持たない自治体が、同等の豊かさを得るのは不可能に近い。
本書で描かれる綾部市の取り組みは、ある種大企業を複数擁する自治体故のゆとりから生じている面が多分に含まれていると推察される。つまり、そうした恵まれた条件を持たない自治体には同様の取り組みを行うのは困難であり、何とか行えたとしても同等の結果は得られない。
地域内に強い雇用主が存在するかどうかの差は、断言するが、天地の差である。自治体の取り組みや住民の取り組み程度で埋められる差ではないため、本書から得られる地方創生のTipsはないに等しい。
だが、得るものが何もないでは、「地域視考」も何もあったものでない。そこで、今回の「地域視考」では、本書において多くの自治体が検討できる余地のある数少ない要素について伝えようと思う。
”驚きの地方創生「京都・あやべスタイル」”から多くの自治体が学べる数少ない要素は『教育』
本書から多くの地方の自治体が参考にできる要素があるとすれば、やはり『教育』の重要性だと考える。どれだけ優れた人材が居ようと、扱うことができ、高い報酬を出せる企業及び経営者が存在しなければ意味がない。宝の持ち腐れである。それは確かだが、優れた人材が事業を興していかなければ、地方の自治体に未来はない。
地方で素晴らしいとされる企業の多くは素晴らしいと言い難い
昨今、地方の自治体にも素晴らしい企業が存在するといった触れ込みで中堅企業をクローズアップする傾向もあるが、結局の所その多くの企業は低賃金雇用で事業を成長させている程度の企業でしかないケースが多い。
賃上げが盛んに叫ばれ、都市部と地方との賃金差が開いていく一方な現状、低賃金雇用のお陰で事業を伸ばせている企業がいくらあっても、大した価値はないのである。中堅企業を自治体の誇りとでも言わんとするようなケースも見られるが、低賃金雇用しか出せない企業を誇るのは、最早恥じに近い環境となっている。
地方の自治体は、まずそうした厳然たる事実を理解し、重く受け止めた方が良い。少なくとも現在の環境は、高い賃金を出せる企業こそが正義であり、低い賃金で人を雇っている企業は悪である。それが地方の産業を支えているとされる企業でも何ら変わらない。
今の世の中で、最低賃金で求人を出しているような企業、最低賃金で人を雇っているような企業は、言葉は悪いがブラック企業と言われても仕方ない面がある。Cash is Kingなんて言葉が世の中にあるが、雇用においてはHigh reward is King(高報酬は王様)である。
今後の地方に必要となるのは低賃金企業を淘汰する優れた経営者・人材
低賃金雇用で事業を伸ばしている見せかけだけの優良企業がはびこる地方が、これからの未来を本気で描きたいと思うのであれば、そうした低賃金雇用の企業を淘汰する必要がある。
『地場の中堅企業に賃上げをお願いすれば良いだけでないか』と思うかもしれない。そうすることで地場の中堅企業たちが東京圏並みの賃金を出すようになるのであれば、そうすれば良い。しかし多くの地場中堅企業は、できないところが多いと思われる。
当たり前の話だが、低賃金を成長ドライブの一つにしている企業は、賃金を上げた途端に事業の成長が死んでいく。そりゃそうである。低賃金こそが潤沢な利益を生んでいたところに、その利益を削ぎ落とす方法を取れば、成長は翳る。
それを理解できている中堅企業であればあるほど、賃金は上げにくい。まして多くの中堅企業は創業家が中心となって経営しているオーナー企業である。創業家の懐を痛めてまで賃金を上げようというモチベーションを持つのも難しい。
一方で、地方の自治体において、地場企業の賃金アップは急務である。低賃金のままでは、自治体内での消費が活性化しない。オーナー企業の創業家だけが私腹を肥やしたところで、地域経済が上向かず、住民は貧困に喘ぎ、貧困する住民しかいないために内需型のビジネスが盛り上がらない。自治体の活力は失われていくばかりで、自治体消滅まっしぐらである。
そうなる前に必要なのが、そんな低賃金雇用で成り立っている地場の古い企業たちを駆逐し、高賃金を出せるビジネスを生み出してくれる優れた経営者・人材である。つまり、そんな人材を育て上げるのが、多くの地方の自治体においては急務と言える。低賃金雇用しか生まない地場の古い企業を守っている場合ではない。
気仙沼市で考える地方の自治体を成長に導く企業の創り方
低賃金雇用で成り立っている地場の企業を駆逐できるだけの優れた経営者・人材を育てるにはどうしたら良いだろうか? 育てるのとは違うが、手っ取り早い方法は東京圏で精力的に活動している、ビジネスの嗅覚が強い人材を移住させる方法である。
だが、地方に移住するような人々は、どちらかと言えば東京圏での競争から逃れてくるタイプの人々が多い。つまり真逆の人材である。移住により地域を強くするのには、実のところこのような障壁が立ちはだかっている。
もしも移住によって地域を強くしたいのであれば、成長意欲の強い企業を誘致する方が理に適うし、利に適う。ガツガツしている企業や人々は地域に馴染みにくいかもしれないが、地域にそうしたガツガツさを取り込んでいかない限り、地方は弱っていく一方である。
とはいえ、外に頼る方法が上手くいく可能性は然程高くない。強い企業を作るには強烈な競争環境に身を置く必要があり、その環境を地方で得るのは厳しいためである。とりわけパンデミックの解消と共に都心回帰している昨今、リアルで鎬を削る人々が増えている以上、成長を志向する企業が敢えて地方に身を置く価値はない。
だから、どうにかして地域内で優れた経営者・人材を育てていく方が現実的である。問題は、優れた経営者・人材を育てるには、都心や世界で戦い続けているような優れた経営者・人材が指導者として存在していないとならない点である。
三流では一流を育てられない。どうするか? 昨今は生成AIの発展がめざましいため、生成AIを教師にすることで、一定の水準までは能力を引き上げられる可能性は高い。少なくとも従来の商工会議所が用意したセミナー講師のセミナーを受講するよりは、生成AI相手に学ぶ方が価値は高い。
だが、生成AIで学ぶのにも限界がある。何より、生成AIを活用する場合、外販されている教育サービスを使うか、自分を教育するための生成AIテクニック・リテラシーを得る必要がある。それができたら、恐らく誰も苦労していない。
必要なのは、大きく分けて先端のビジネス知見・実際に競争に身を投じて得る経験知(経験値)・シーズを見つけて巨大なビジネスに育て上げる力・資金調達力・必要な人材を獲得する能力の5種類くらいである。
特に重要なのは資金調達力と人材獲得力だが、気仙沼市の場合、前者を持ち、実際に資金調達に成功したロールモデルが存在する。また、金融機関自体はそこそこの数存在しており、気仙沼市に注目している資金力のある人々がいないわけでない。つまり、細い糸をたぐり寄せれば、何とかできる可能性がある。
後者は、幸いなことに気仙沼市には本当に多種多様な人々が訪れ、集まっている。そうした人々が手と手を取り合い、共に気仙沼市を強い年にするために立ち上がれば、従来の地方にはなかったような新しいビジネスを立ち上げていけるように思える。少なくともそのエネルギーは感じられる。
今は小さな動きが目立つが、それは各々が個で動いているためである。束ねられれば、強力な組織に昇華できる可能性は高い。悩ましいのは、それは一定程度個々の個性を抑制することである。ここの折り合いをつけられるかが試される。
気仙沼市を成長させる企業を創る人々を生み出す方法を考える
最重要となる教育。三流では一流を育てられない。それは間違いない。しかし三流では一流を育てられないのは、育てるところに意識を向ければ、である。各々が自身で育つのであれば、つまり三流の教えを介入させず、各々が一流を志向して磨き続けられるのであれば、その束縛からは解放される。
そもそも現在日本を支える誰もが知っている巨大企業の多くは、創業者がゼロから一人で興したものである。誰かに教えを請い、育ててもらいながら大きくなったわけでない。もちろん経営者としての自身の血肉を創るための学びは行ったろうが、教師がいたわけでない。
精神論を語りたいわけでないが、多くの巨大企業の創業者を巨大企業へと企業を育て上げる経営者に育て上げたのは、自身の内にあるハングリー精神や使命感、忍耐力である。
気仙沼市は、他地方の自治体の例に漏れず、現在厳しい状況に立たされている。住民の多くは逆境の中で生きることを強いられ、より幸福な生活を望んでいる。その欲望は、巨大企業の創業者が持っていたハングリー精神に通じるものがあるはずだ。
加えて気仙沼市で暮らす多くの人々は気仙沼市を愛しており、気仙沼市がより良い街になることを切に願っている。東日本大震災を経て醸成された強い想いもあるだろう。そこから生じる使命感は、まさに巨大企業の創業者が持っていた使命感に通じるものに違いない。
冷静に考えると、気仙沼市は巨大企業を生み出す素地がある。これをどのように形にしていくか、恐らく始まりの一歩が欠けている。そんな中、気仙沼まち大学などを通じた、地域活性化への新たな取り組みが始まり、庁舎移転に伴う街作りの新たな一歩が踏み出されている。
街創りと企業創り、その根幹はとても良く似ている。今揃いつつあるピースをより大きなものにするための息吹を生み育てる。それこそが、気仙沼市をより一層飛躍させるために必要でなかろうか。それもまた人材育成の一つに違いない。
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