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もういないけど(1376字)
夜も更けたファミレスでのこと。
地球は平坦だ、と三宅が言うので、私たちは顔を見合わせた。
「知らなかった」と斎藤が言って、「そうなの?」と私が聞き返した。
「『地球は丸い』と初めて教わった時は逆のことを言われたじゃない。地球が地球なんて呼ばれてな」かった頃はそれこそ大地は平面だと思われていて、海のずっと向こうに「端」と「奈落」があると。
地球は丸いというのは、現代に生きる大多数の人間にとっ
駆け抜ける魔女が語り掛ける彼女に
私の街には魔女がいる。
長崎駅沿いを流れる浦上川。そこにかかる旭大橋を渡ってすぐのところに私は住んでいる。
悟真寺という寺があって、目の前の通りを悟真寺前通りというのだが、そこに魔女が現れるのだ。
ママチャリで通りを駆け抜ける姿をたびたび目にする。
格好はと言うとメイド服一丁で、良い風に言えば水彩画のあさがおのような淡い紫色。悪く言えばひどく色あせているように見える。年の頃七十くらいだ
私が負けたのだとしたら、勝者は一体どこにいるのだろうか
涙は枯らしたはずなのに、まだこんなに泣けてしまう。
私は弱い女じゃない。なんだって跳ね除けてきた。なのに。
脱衣所もメイクボックスもドレッサーもクローゼットも探した。冷蔵庫も電子レンジも食器棚も、無いとは理解しつつも探した。
ベランダにも、玄関先にも、炊飯器の中にもなかった。
なんでなんだろう。
神様がいるなら教えて欲しい。救ってほしいなんて思わない。ただ一つ教えて欲しい。どうして私
ナマケモノが絶滅してさ、名前が空いたらさ、僕がもらうよ
私は今、座り心地のいい椅子に行儀悪く腰かけて、目線の高さにレモンを掲げている。
何をしているのかと自問自答するならば、その答えは一つ。レモン観察だ。
事の発端は、レモン越しに見える掛け時計にある。私は強烈に重大な真理を知ってしまった。
深夜三時三十五分のこと。ぼうっと、見るともなしに時計を眺めていた。いつか誰かからもらった、木製で二針式の掛け時計だ。
長針が南南西に傾いて、「7」の足