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歴史本書評

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オススメ歴史本の読書記録。日本史世界史ごちゃ混ぜです。
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#最近の学び

【書評】木村裕主『ムッソリーニ ファシズム序説』(清水書院)

【書評】木村裕主『ムッソリーニ ファシズム序説』(清水書院)

 第一次世界大戦後にドイツ・イタリアや日本などでおこったファシズム(全体主義)は、第二次世界大戦の惨禍を引き起こしました。その歴史から現代人が学ぶことは多いはずです。

 しかし、ヒトラーの関連書が無数に手に入るのに比べ、彼と双璧をなすイタリアのムッソリーニの評伝は、日本語では意外と多くありません。

 学校の歴史の授業だと、ムッソリーニはヒトラーの添え物のように扱われている感じは否めません。しか

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【書評】庄司潤一郎・石津朋之編『地政学原論』(日本経済新聞出版)

【書評】庄司潤一郎・石津朋之編『地政学原論』(日本経済新聞出版)

 大きめの本屋に行くと、「地政学」をタイトルに冠した本が多く売られているのに気づきます。国際政治を地理条件から読み解くという便利さ、明快さが「地政学」の魅力でしょう。

 一方、学術的な批評に耐えうるだけの書籍を見つけるのは難しいはずです。内容はあまり地政学と関係ないのに、タイトルに「地政学」と名付けてあるケースもあります。地政学の語が入っていれば売れる、という出版社の判断でしょう。

 
 安全

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【書評】高田博行「ヒトラー演説」(中公新書)

【書評】高田博行「ヒトラー演説」(中公新書)

 たぐいまれな扇動政治家であったヒトラー。彼の武器は何といっても「演説」だ。だが、そのすごさを具体的に説明できる人はあまりいないと思う。

 本書の著者は歴史学ではなく、言語学方面の専門家(専門は近現代のドイツ語史)だ。なので、歴史の専門家とは違う新鮮な切り口で、ヒトラーの実像に迫ることができる。例えば、150万語に及ぶヒトラーの演説のデータを用い、単語の出現回数などを統計的に分析している。

 

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終戦記念日に勧めたい本

終戦記念日に勧めたい本

今日は76回目の終戦記念日です。
「あの戦争」をめぐる言説は、年々危うさを増しているように思います。
特に、日本軍の外国への加害や、味方に多くの犠牲を出した無能さに目を背けてはなりません。

第二次世界大戦(太平洋戦争)についての教養を身に着けるためのお勧めの書籍を紹介します。

1.加藤陽子「それでも、日本人は『戦争』を選んだ」(新潮文庫)近代日本が戦った日清戦争・日露戦争・第一次世界大戦・第二

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【書評】石田勇治「ヒトラーとナチ・ドイツ」講談社現代新書

【書評】石田勇治「ヒトラーとナチ・ドイツ」講談社現代新書

写真=1933年、全権委任法(授権法)成立後のヒトラー。

ヒトラーやナチ党については、次のようにイメージしている人が多いのではないかと思う。

「ナチ党が選挙によって議会の多数を得たことにより、ヒトラー政権が成立した。ヒトラーはドイツ人の信任を得ていたのだ」

「ヒトラー政権の初期には、優れた経済政策で世界恐慌の打撃から立ち直り、失業率も改善した。経済政策だけでみれば有能だ」

果たして、この認

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【書評】本郷和人「日本中世史の核心」

【書評】本郷和人「日本中世史の核心」

中世史の専門家である本郷和人氏の著作。日本の中世史(鎌倉・室町・戦国時代)を概観するための8人のキーパーソンが並べられている。

その内訳は以下の通り。

源頼朝、法然、九条道家、北条重時、足利尊氏、三宝院満済、細川政元、織田信長。

源頼朝と足利尊氏、織田信長はわかる。法然は中学、細川政元は高校の日本史教科書に載っている。が、九条道家・北条重時・三宝院満済というメンバーは知名度も低いし、なかなか

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【書評】南川高志「ローマ五賢帝」(講談社学術文庫)

【書評】南川高志「ローマ五賢帝」(講談社学術文庫)

副題は「『輝ける世紀』の虚像と実像」となっている。副題の通り、一般に流布してきた「ローマ帝国最盛期」の実像を明らかにする良書である。

紀元1世紀~2世紀にかけての100年は、いわゆる「五賢帝」が即位し、ローマ帝国が最盛期を迎えた時代だったとされる。

五賢帝とは、ネルウァ、トラヤヌス、ハドリアヌス、アントニヌス=ピウス、マルクス=アウレリウス=アントニヌスの5人の皇帝である。

彼らは、帝位を息

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【書評】「新説の日本史」(SB新書)

【書評】「新説の日本史」(SB新書)

 皆さんは、学校で習ったり、本で読んだりして歴史の知識を得ていると思う。しかし、歴史学の研究は日々進んでおり、通説が変わっていくことは珍しくない。

 本書は、従来知られていた見解と、最近の研究動向をわかりやすく紹介している。執筆陣はいずれも第一線の研究者だが、一般向けに分かりやすい解説となっている。

 例えば、鎌倉時代に後鳥羽上皇が起こした承久の乱。最近では、鎌倉幕府の打倒が目的ではなかったと

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