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受刑者お仕事日記『永遠に0』

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人生において0とは何か 実体験を元にしてリアリティを追求した実験作
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永遠に0あとがき

拙作を最後まで読んでいただいて本当にありがとうございます。
本作がデビュー作にして、初の短編でもあります。
私はまずノートに思うままに文章を綴って、スマホで入力するときに校正校閲を同時にやっていくスタイルで書いています。(『虹色ドリーミング』はもっと高いレベルで書き終えていますが、それでもスマホで打つ時にちょこちょこ直しています)
永遠に0は、自分の経験を元にはしていますが、そもそも私はゼロ銭では

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小説 永遠に0(最終回)

新宿駅に着いた俺は、地下空間をさまよい歩いた。逃げてきたのはいいが、見つかる可能性がゼロの代わりに、当てもゼロ、目的もゼロ、持ち物もゼロ、あるのは今着ている服と生命だけだ。植物と同じだ。いっそ木になれたらどんなに幸せだろう。

そんなことを考えている内に、道に迷ってしまった。仕方がないので、迷路のような地下から碁盤の目になっている地上へと出た。煌々と明るい地下と違って、地上は日が暮れかかってうす暗

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小説 永遠に0(第八回)

保護会の担当保護司が真面目な人間のためか、俺が逮捕される前のアパート(そのままになっていた)に住みたいと希望したからか、捕まっていて滞納した家賃を納めなければならないことになった。逮捕前にも二ヶ月滞納していたため、その金額は合計ちょうど100万円だ。俺はゼロどころかマイナスを抱えることになった。しかも生活保護で借金を返すことは認められていない。俺はこの借金をあと5ヶ月の間に完済しなければならなくな

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小説 永遠に0(第七回)

押上の保護会に着いた。保護会というのは社会で自立した生活を送る準備をする所だそうだ。俺の場合は半年間ここを出ることができない。なぜなら、まずガラウケ(身元引受人、保証人とは異なる)がいない。以前住んでいたアパートもすでに別の人が住んでいるため、住む場所も家財もない。生活保護を受けようにも、まだ刑は終わっていないから受けられない。だから仮釈放の間に仕事を見つけ、金を貯めて一人暮らしができるようにする

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小説 永遠に0(第六回)

本面が終わった、それは仮釈放が決まったことを意味する。ただし、いつ出られるかは人によってまちまちだ。だからとにかく気が落ち着かなかった。毎週水曜日の朝になると「今週でアガリだろうか」とオヤジから声がかかるのを心待ちにしては、何もなく落胆して、工場で溜息をつくのだった。
結局、運動の時よく話をしていた衛生係の予想通り、声がかかったのは本面が終わって8週目だった。年末年始が絡んでくるこの時期は、10週

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小説 永遠に0(第五回)

俺は今病棟で生活している。

何を食べても吐いてしまうのだ。『拒食症』だろうと刑務所に来る医者に言われた。固形物は無理だし、点滴も刑務所では不可能なので、ラコールというジュースよりももっと甘い、缶入りの栄養剤をもらって飲んでいる。これは色んな味があって飽きなくていい。俺はバナナ味とチョコ味が好きで、イチゴ味は嫌いなのだが、最初にもらったエンシュアよりは美味いので我慢している。

早く病棟から出て工

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小説 永遠に0(第四回)

実を言えば、今までと違って刑務所には『ゼロ銭』では行っていない。作業には作業報奨金が出るからだ。拘置所で一週間働いて得た金は50円足らず、日給7.7円だ。ただし報奨金は半分しか使えないと決められている。25円では切手一枚すら買えない。舎場でならチロルチョコかうまい棒を買えるかもしれないが。
借り物のパンツの上に、私服を着て、靴を履いて、腰縄と手錠をされて、車で刑務所へと向かった。
民間

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小説 永遠に0(第三回)

裁判で判決が出てから14日間は、上訴期間なので控訴できるが、俺はしなかった。求刑1年に対して裁判官が出すことができる最低刑は6月だが、俺の判決は懲役7月だったからだ。「これ以上まかることはない」看守が言った。

「ずいぶんまかりましたね」裁判所の待機所でいっしょだった奴に言われた。情状酌量など無かったから、ひょっとすると弁当持ちで刑が長くなることを避けたのかもしれない。

起訴されて被疑者から被告

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小説 永遠に0(第二回)

逮捕されて16日後、俺は起訴された。現在の裁判制度では起訴イコール有罪だ。奇跡的に無罪になるものは、ドラマでは99.9と言っていたが、実際には10000件に2件しかない。
起訴されて公判日が決まると、拘置所に移送される。拘置所では初めに手紙セットが売っているが、ゼロ銭にはもちろん買えない。弁護士への連絡が週一回FAXでできるのみだ。
拘置所は服装が割と自由なので、冷暖房完備の中、皆Tシャツ

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小説 永遠に0(第一回)

あらすじ
ゼロとは何か。窃盗の累犯で捕まった俺は、留置所、拘置所、刑務所と移送され、その都度ゼロを思い知らされる。
男はゼロに何を見出すのか。リアルをとことんまで追求した『受刑者というお仕事』小説。

俺は今、『ゼロせん』で戦っている。

『ゼロせん』で突っ込むとロクなことにならない。それどころかかなりの辛い目に合う。といっても第二次世界大戦の話ではない。

これはれっきとした令和の話だ。

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