小説 永遠に0(第七回)



押上の保護会に着いた。保護会というのは社会で自立した生活を送る準備をする所だそうだ。俺の場合は半年間ここを出ることができない。なぜなら、まずガラウケ(身元引受人、保証人とは異なる)がいない。以前住んでいたアパートもすでに別の人が住んでいるため、住む場所も家財もない。生活保護を受けようにも、まだ刑は終わっていないから受けられない。だから仮釈放の間に仕事を見つけ、金を貯めて一人暮らしができるようにする。その間の寝食を保証してくれる場所が保護会だ。

しかし中にはもう一人暮らしをする金を十分持っている者もいるし、はなから出たらすぐ生活保護を申請して一人暮らしをするつもりの者もいる。また会内では飲酒は禁止と聞いていたが、毎晩のように酒を飲んでいる者もいる。もちろん真面目に働いている者もいるし、何もしていない者もいる。俺は最後にあてはまる。担当の保護司からは「ハローワークに行って仕事を探しなさい」と毎日のように言われている。

ハローワークといっても、普通の失職者が行く場所とは異なる。俺が行くのは、俺に前科があることを承知の上で雇ってくれる協力雇用主の案件をあずかっている特別な部署だ。その部署の担当から

「このお仕事をしてみませんか」

と最初に言われたのは土木工事の会社、つまりは土工だった。面接に行くと仕事や待遇のことは一切話さず、犯罪歴についてばかり聞かれたので、頭にきた俺は

「この話はなかったことにしてください」

と断り、席を立って会社をあとにした。

次に面接に行ったのはラブホテルの清掃だった。ここは質問が体力に自信があるかだけだったので気に入り、内定をもらった。保護会の担当からは、お祝いの品としてカップ麺をもらった。

そこでの仕事は、風呂の掃除、タオルとガウンの交換、ベッドメイク、アメニティと飲料の補充、ゴミを集めて分別して捨てる、と一通り習ったが、俺は風呂の掃除を任された。しかし一週間ほど働いて手と足の裏が荒れ出して、やがてあかぎれになって、手足の痛みで寝返りをうつと痛みで目覚めるようになった。たかがあかぎれと思うかもしれないが、風呂の掃除を続けていれば悪くなることはあれ、良くなることはない。俺はユニフォームであるTシャツを返却し、仕事を辞めることにした。

そして収入が0になり、持ってきた金も底を尽き、俺は再びゼロ銭になった。とはいえ保護会にいる間は寝食には困らない。ここから出たら生活保護を受けようと思っている。担当からはしきりに次の仕事を探すよう、毎日のようにせっつかれているが、色々理由をつけて誤魔化すようになった。

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