Dango in a bottle.
先日同僚宛に、世にも奇妙な『ボトルスイーツ』なるものの差し入れがあったので、何食わぬ顔で私も1ついただいた。どうやら最近の団子は瓶の中でホルマリン漬け、ではなくみたらし漬けにされて売られているらしい。それはもう、私の知っている団子の姿ではなかった。幼稚園の頃には『だんご3兄弟』小学生時代には『花より団子』が一成を風靡し、団子に育てられたといっても過言ではない私ですら想像しえない有様。一体どうしてこうなったのか。
たっぷりのみたらしとたっぷりの生クリームに埋まった団子、ボトルスイーツ初見のわたしはそれを勇者の聖剣のように抜き出すことはできなかった。悔し涙を頬につたわせながらも団子を"箸で"口に運んでみると、もちろん、姿形は違っても確かにそれは団子そのものだった。今どきの団子はこんな形で売られているのか。少々ナウくなった私の隣で、ふと、同じくボトルスイーツを食べていた社長が「団子は日持ちしないはずなのにな」と呟いた。
今わたしたちが口にしている団子はモチモチで甘くてとても美味しい。なのに「日持ちがしない」だって?いったいどういうことなのか。最近は賞味時間10分のチーズケーキ、30秒のモンブラン、5秒の生せんべいなど、"俊速グルメ"なるものが流行っているらしいが、団子もその1種だと社長は主張してくる。でも、紛れもなく、今私が口にしている団子は美味しい。日持ちしないなんて意味が不明。まっっったく納得できない平社員の私はそれとなく「でも、今食べている団子はとても美味しいじゃないですか?」と社長に抗議をしてみた。人生には危険を顧みずに立ち向かわなくてはいけないタイミングがある、私がそう噛み締めていると、即刻社長から『これは砂糖だな』と返事が返ってきた。
話を聞いていると、本物の団子(?)はどうやら甘くないらしい。みたらし団子の発祥は滋賀(滋賀出身社長談)で、滋賀の団子は甘いというよりも醤油の味がたっているようなのだ(それは磯部ではないのか)。となると、確かにこの瓶詰め団子はとっても甘くて砂糖の強い後ろ盾を感じる。社長曰く、砂糖は食べ物を柔らかくする作用を持つらしい。料理の腕はさっぱりなわたしはそんなこと初耳だったが、この団子が今もなお甘くて美味しいのは「砂糖で甘い味付けをすることでもちもち感を人工的に保っているから」なのだと納得。
ここ数年世間では新型コロナウイルスなどの影響で「手軽に」とか「引きこもり需要が」なんてニーズがどんどん大きくなり、スイーツもながーいながーい長距離運送に耐えうるボディを必要に迫られてしまった。それゆえに、団子もあまーくあまーく味付けしてこのモチモチ=鮮度?を砂糖で保たなくてはいけなくなってしまったのだ。まさに、近代化の成れの果て。こうやって瓶にすし詰めにされた挙句、冷凍までされてしまったのもおそらく、おいしさをより長く保ちかつ輸送しやすいようになのだろう。
だが、激動の時代に追いつけず数多のスイーツが"俊速グルメ"なんてコピーで逃げを図った中(ちがう)、団子は血と涙と汗を流しながら開発に明け暮れ、いまこの新しい形に辿り着いたのだ。特定の条件下(冷凍)ではあるが、ある種保存食としての地位を得たのかもしれない。それが事実かどうかは差し置いて、なんだか泣けてくる。もっとも、瓶に詰められいていようがなんだろうが、私としては美味けりゃなんでもいい。なんでもいいのだ。こうカチカチになった団子が解凍されるのを待っている時間すらもはや愛おしい。これが私たちZ世代流の侘び寂びなのかもしれない。
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