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あなたの生きづらさに寄り添ってくれる一冊 宇佐見りん/推し、燃ゆ

※この作品は2021年2月20日にブクログで記載したものです。コメントで多くの方の声を聴き、より多くの方に届いてほしいと思い、こちらでもご紹介させていただくことにしました。ブクログで背中を押してくれたみなさん、本当にありがとうございます。ブクログでのレビューはこちらです。

最近、女子高生の自殺が増えているという。

「小中高生の自殺、過去最多 コロナで大幅増、女子高生突出―文科省」

2020年に自殺した児童生徒は過去最多の479人。前年度より140人の増加。特に女子高生は前年の2倍以上に増加しているという。

わたしは今の仕事をする上で、どんなに悩んでも絶対にぶらさない軸がある。


それは、10代の子に、死を選んでほしくない、自殺してほしくない、ということだ。そのために、その子の人生を一緒に考えてゆける存在でありたい。

正論は、彼女たちを苦しめる。誰よりも、その正論を自分にぶつけ、それができないことで苦しんでいるからだ。
人が生きるということは、社会と接するということだ。
そして社会で働いて収入を得て、それで生活するということだ。
親に家賃を補助してもらっても、親はいつか死ぬ。
現実というのはそういうことだ。
そして、これはただの、正論だ。

仕事中、自分でも引くほど正論吐いてんなと思う。一方で、プライベートの自分なんか正論の反対側にいる。

仕事の休憩時間は、仕事とプライベートの、ちょうど狭間。だから、そういう時間に読んでいると、やきもきとしてくる。

作中の姉や母のように、「推すことはできるのに課題はできないんかい!」と思えてくる瞬間が、どうしてもある。正論と、うまいことできない主人公への共感、両方が、わたしの心の中で、渦巻く。

自分の人生含めて正論ばっかで上手くいくわけはないのに、教育機関という仕事柄、どうしても生徒にやらせないといけないことはあって、そういう時の自分の正論の吐き方は、我ながら当惑する。

単純に舐め腐ってるやつもいるけど、そうしたいけどできない、って子だってたくさんいるわけで、そういう子の力になりたいと思っているのに、どうしてこんなに正論ばかりが口をついて出てくるんだろう。

推すこと、やるべきことをやること、それらをバランスよくやれればよいのだけれど。
アンバランス。あまりにも。みんながみんな、そんなに器用に生きてゆけるわけがない。

その不器用さのひとつとして作品の中に描かれているのが、「発達障害」だ。明確に発達障害であると記載はされていないけれど。そしてこの不器用さは、村田紗耶香さんの「コンビニ人間」を彷彿とさせる。

「普通」というものに対して問題提起したこの作品は以前、直木賞を受賞した。今回、この作品は芥川賞を受賞。

「コンビニ人間」では、コンビニという場所では安心して生きてゆける主人公がいた。本作品では、推しという存在があってのみ、生きてゆける主人公がいる。

この「推し」という存在。理解できる人とできない人がいるだろう。でも、例え推しの感覚が理解できなくても。それでもこの作品は、作者の訴えたいことがしっかりと伝わってくる。推しという感覚的なものに加えて、生きること、前を向くこと、さらには最近の子ども(若者)の生きづらさが、全力を尽くして描かれている。

生きづらさを抱えながらも必死に足掻いている主人公の姿はとても痛々しく、時に顔をしかめながら読んだ。

先に挙げた女子高生の自殺の増加。彼女たちも、必死に足掻いていたんだろう。気付いてあげられなくて、ごめんね。いや、もしかしたら。気付いていたのに、聞こえないふりをして、見ていないふりをしていたんだ。本当に、ごめんね。

でも一方で、こうも思うのだ。
生徒の中にはオーバードーズやリストカットをしたと彼氏や大人に訴える子がいる。わたしは彼女たちにそんなことをしてほしくない。それをしてほしくないと、素直に正論をぶつけて何が悪い。

だって、わたしは彼女たちに、死んでほしくない。ましてや自分から死を選ぶなんて絶対にしてほしくない。確かに薬の量は、致死量ではないかもしれない。傷の深さは、浅いかもしれない。それでも。一回くらい、正論をぶつけさせて。

「わたしはあなたに、死んでほしくない。」
それは、彼女たちの、あなたのまわりを取り巻く環境があなたをそうさせているのであって、あなただけがそんなに辛い選択をする必要なんて決してない。もっと、あなたができないって思うことを、周りの、人のせいにしていい。あなたにはみんなができることができないかもしれない。でも、あなたにしかできないことだってある。だから、できないことだけに目を向けて、自分を追い込まないで。

みんな、死なないで。

死を近しく感じている全ての、特に、若い人たちへ。
ここに、一緒に、あなたの生きづらさに寄り添ってくれる作品がある。
この作品が、あなたの、あなたたちの傍にあることを、切に願います。


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