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こころ

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ひとのこころ、見つめてみます。自分のこころから、誰かのこころへ。こころからこころへ伝わるものがあり、こころにあるものが、その人をつくり、世界をつくる。そんな素朴な思いに胸を躍らせ…
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#思い出

お金の問題

お金の問題

私自身、経済観念がない。いや、誤解を招く言い方だ。浪費するという意味ではない。生活の切り詰めについては、大学時代にとことんやった。京都に行かないといけない、との思いだけで家を飛び出したみたいな恰好になり、親には申し訳ない気持ちばかりがあった。できるだけ学費の安いところを選んだし、住まいは古くてもよいから極力実費を抑えられるところにした。自炊が原則だった。食費は1日400円というノルマを課した。昔だ

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家庭教師などのこと

家庭教師などのこと

まだあの頃は、家庭教師の仕事があった。京都ならでは、だったのかもしれない。家庭教師を、名だたる大学ではない凡庸な学生に頼む、というのも不思議ではある。家庭教師のニーズがあることについて、考えるところはあるが、軽々しい邪推で偏見を呼んではいけないので、呟くことはしないことにする。
 
大学からの紹介で、すぐに下宿を決めた。古い建物だった。自炊ができて、空間があり、家賃が安いとなると、満足だった。もち

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体育の授業の真実

体育の授業の真実

妻の人生を変えた出来事は、もちろん神との出会いが第一である。
 
地の果なるもろもろの人よ、
わたしを仰ぎのぞめ、そうすれば救われる。
わたしは神であって、ほかに神はないからだ。(イザヤ45:22, 口語訳)
 
12歳の少女に投げかけられた聖書の言葉が、神の言葉として、その心を捕らえた。そこから、十字架のイエスと出会うのは、もう既定路線のように備えられたものとなっていた。
 
その後、マザー・テ

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京都の先輩の話

京都の先輩の話

福岡から、京都の大学に来た私をあたたかく迎えてくれたものは、たくさんある。まず逆の意味から言えば、田舎者の私を騙すような輩に出会うことがなかったのは幸いであった。そのうち、学生を大事にする京都の風土があるのもよく分かった。大学に紹介してもらったアパートは、自炊ができるという条件で探した、古いもので、その分家賃もいくらか抑えられていたが、私には決して安くはなかった。一か月の食費は、家賃の半分で賄った

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この日

この日

一年前の日のことは、忘れるわけにはゆかないし、忘れることができない。それはとてもナーバスなことなので、逐一ここで明らかにするつもりもない。ただ、リスペクトは精一杯したいので、こうして謎めいた書き方をするという、わがままを致す。
 
日付は容赦なくやってくるし、日付を思うと、あの時にたちまち戻る。忘れたい時に忘れられるなら、人間はどんなに心が楽になるだろう。忘れたいがために仕事に没頭もするし、気晴ら

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栗の香り

栗の香り

栗を「ふかす」と私は言う。標準語なら「むす」と言うのだろうか。いや、ここでは「ゆでる」というのが本当かもしれない。栗をもらったというので、妻がそれをふかしてくれた。
 
半分に切った栗にスプーンをさしいれ、口へ運ぶ。口の中に、栗の香りが拡がる。と、そのとき子どものころの自分に戻ったような気がした。こんなふうに、よく栗を食べていた。
 
『失われた時を求めて』はさすがにダイジェストでしか読んでいない

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3年前

3年前

このまま家にいたら駄目になる。本能的にか、そのように思った。
 
高校生のとき、目的をなくしていた私は、でたらめな生活を送っていた。逃げてしかいなかったのに、刹那的なものを求めて格好をつけていたのだ。
 
ひとりでは、何もできないではないか。自己に危機感を覚えたのは、大学入試に失敗したときである。数学的な美しさに憧れていたくせに、自分の人生は数学のようには運ばない。なぜか。その問いが浮かぶフィール

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