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SF - Sumo Fiction

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狂気に満ちた相撲SFの世界(手動収集)
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#逆噴射プラクティス

BWD:アヴァタール・リキシ

朝、少年が目覚めるとリキシになっていた。
ベッドを降り、力強く四股を踏み、かしわ手を打つ。まごうことなきリキシである。

「タダシ?どうしたの?」

四股の荒々しき音を聞き付けて少年……タダシの部屋に現れた母親はいるはずのないリキシに卒倒し、床にひっくり返った。

「母さん!」

タダシは床に倒れ伏した母をそのたくましいリキシの腕で抱き上げる。普段のタダシからは大きく見える母はリキシの目線ではひど

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『元傭兵デリックの冒険』より「力鬼士(リキシ)の洞窟」#3

『元傭兵デリックの冒険』より「力鬼士(リキシ)の洞窟」#3

【前回】大柄な男が小柄な男を背負い、スコップを杖に洞窟を進む。入口は塞がれ、松明も角灯もなく、暗闇の中を歩く。ところどころに光る苔やキノコがあり、ぼんやりと道を照らしている。「くそったれ」「ああ、神よ……」

出口を求め、風の吹いてくる方へ向かったデリックとヴァシリーだが、力鬼士は次々湧いて来て、次第次第に追い詰められる。光る苔やキノコも次第に増える。「な、仲間の方とかは」「いない。俺は単独行動だ

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『元傭兵デリックの冒険』より「力鬼士(リキシ)の洞窟」#2

『元傭兵デリックの冒険』より「力鬼士(リキシ)の洞窟」#2

【前回】「力鬼士の棲む洞窟に財宝があるって、噂を聞いて。昨日黙って出ていったんです」

デリックは首を傾げた。表情と沈黙に促され、少女、ソフィアは続けた。

「うちは貧乏です。母は二年前の疫病で死んで……父は仕立て職人なので、二人でなんとか食べてはいけます。けれど、きっと私の将来のことを考えて……」少女は顔を手で覆い、また泣き出した。デリックは彼女を宥めながら、店の奥へ連れて行く。女房が事情を察し

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われら新天星開発公団

われら新天星開発公団

泥7節から10節ころのボルスは俗に「新人殺し」と呼ばれる。岩泥混質の滑らかな挙動に目測を狂わされたパイロットが操作を誤り、大概は張り手を横から浴びて爆散する。5建高の巨躯と相反する反応速度から、8期公団までは泥節中の「整地」が禁止された程だ。
今は違う。爆炸弾頭に燃束、何より新型の機体がある。ボルスの挙動をサイトに捉えつつ、飛んでくる熱誘導ミサイルも……え?
ミサイル?

「モリタ!3番機!」

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暁星をもう一度

暁星をもう一度

「爺さんの『切札』か。あれは使わせねぇぞ」
誠は、「来訪者」にすげなく言い放った。
「だいたい今の航空相撲にあれは無理があるだろうが」
しかし、来訪者もまた決然と言い返す。
「『あの手』を上回る初速を出すRTUはこの世に存在しません。だからこそ、なのです」
「おめぇさん、まさか」
誠の顔が俄に曇る。この男の……角光関のやろうとしていることは、本物の狂気の沙汰に他ならない。
「二段加速射出式立ち合い

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オスモー・イン・ザ・スカイ

オスモー・イン・ザ・スカイ

 航空力士とは。曰く、天を土俵とし、「廻し」にて空を翔け、相撲を取る力士である。

 不意の遭遇戦に、姫乃里は焦りを感じていた。
(今場所はもう戦闘の予定は無い筈だが)
 空力四股姿勢のまま、姫乃里はマワシを振り絞り、大銀杏を下方へと振る。動力四股(パワーダイブ)。常は高度優勢を旨とする航空力士にとり望ましからざる手。土俵際に自ら突進するが如き愚挙。だがそれは、相手に土を付けることを前提とするなら

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航空相撲の稽古風景

航空相撲の基礎稽古は、かつて土俵が地面にあった頃からさほど変わっていない。
四股を踏み、鉄砲を打ち、すり足と股割りによる肉体作りは欠かせない。

全身にバーニアと衝撃吸収オーバーボディを着用し、大空を土俵に見立て高速肉弾戦を行う航空相撲において、しなやかな五体操作は必須のテクニックだからだ。
航空相撲の設立当初、航空相撲は相撲でないからという理由で多くの航空力士たちが旧来の稽古を捨てたが、どれも大

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僕らの場所は大空だ。

 雲一つない晴天に恵まれた千葉市美浜区、幕張海浜公園。
 20万席が用意された特設スタンドはすでに満席。
 チーズバーガーを頬張りながら「パパ、今日は誰が勝つかな?」と尋ねる子供、「そうだな、一番速い奴がここでは勝つんだ」と含蓄がありそうでごくごく当たり前のことを答える父親。家族団欒!

 ここはエナジードリンクメーカー「レッドべこ」が主催する世界最高峰の航空モーターショー「エア・ファイト」の会場

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大天空大相撲取組帖 発機良揚―ハッキヨイ―【初日・一番目・夕羽 対 猛雲】

大天空大相撲取組帖 発機良揚―ハッキヨイ―【初日・一番目・夕羽 対 猛雲】

天高く力士肥ゆる秋。
令和元年九州場所初日の空は、十五日間の健闘を祝うに相応しい快晴だった。

大天空大相撲の会場である九州国際体育塔から響き渡る櫓太鼓は、福岡市の秋の風物詩。世界最大の自立型相撲塔である両国国技塔に高さでは劣るものの、街の熱気は負けていない。

市街にかかる九体塔の影も短くなった。
地上十階、満員の観衆が見守る中、夕羽関と猛雲関が睨み合う。

両者は各々のルーティンを執り行う。そ

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航空力士・不破斗武

航空力士・不破斗武

「にぃ〜し〜、不破斗武(ふぁんとむ)ぅ〜、ひがァ〜し〜、原雷火(ばららいか)ァ〜」
 ベトナム場所六日目。この日結びの一番は大関同士であった。
 西大関、不破斗武は大きく息を吐き、相手を見やる。原雷火は近年頭角を表した若き東大関。その表情に曇りはなく、気力体力の充実が見て取れる。
 成績は互いに全勝。恐らくは、この一番を制する者が今場所を制する。
「見合って見合って……」
 廻しに装着された二つの

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空を行くもの

空を行くもの

荒涼とした土地。乾燥して寒く、足元は石ころだらけ。彼方の山々には万年雪。あまりにも長い距離を進んで来たため、みな疲れて無口だ。

「あの山は、世界の果てだそうですが」誰かがぼつりと言った。

「そうか。その向こうには、何があると思う?」馬上の男が嬉しげに問う。

「……何もないと思います」男はぶっきらぼうに答えた。「何も」

「そうではあるまい。あの彼方にも鳥獣は棲み、人が暮らしている。そのように

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ストライク★航空力士ーズ

ストライク★航空力士ーズ

廻しだから恥ずかしくないもん!

◆◆◆

魔角力(まりょく)が存在する20世紀初頭、突如出現した異形の敵「根虚力士(ねうろりきし)」の圧倒的な魔角力と魔塩の汚染による欧州侵略が進んでいた…。
人類は唯一の希望として魔角力エンジンを搭載し、魔角力によって駆動する「航空力士ユニット」(両足に自我を漂白した航空力士二体を抱きつかせるユニット)を唯一駆ることのできる魔角力を持つ少女「魔女力士(ウィキシ)

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空に喰らう大鯱

空に喰らう大鯱

逆上した大回転(だいかいてん)を、ひと噴射の推力でいなした正体不明の航空力士は、アフターバーナーの勢いそのままの大回転の背後を容易に取り、土俵空域から弾き出した。送り出しだ。

その手には鮮やかな前垂れが握りしめられている。大回転のものだ。あのたった一度のぶつかり合いで、廻しから毟り取ったのだ。予期せぬ領空侵犯力士の蛮行に、ツェッペリン観客席では、神聖なアクロバット取組を妨害したと怒号が飛び交い、

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大航空相撲、千秋楽結びの一番

大航空相撲、千秋楽結びの一番

 両国航技館の大屋根と連動して、土俵の上の吊るし屋根も左右に開いてゆく。天候は晴れ。先程まで小雨が降っていたため、取り組みの合間に屋根を閉じていたのだ。

「かたや、凄之猫、凄之猫、こなた、白鷲、白鷲。この相撲一番にて本日の、打ち止め」

 対峙して分かるのは凄之猫の恵まれた体格。それは即ち、高出力のジェットまわしを使いこなせるということ。ハイパワーを受け止めきれる体躯。白鷲にはそれがない。

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