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(9)教訓を得て、来年の在り様を考察する。(2024.1改)

「ホワイトハウス滞在時に要請されたのでしょうか!」
「約束を果たすという大統領の発言が、今回の普天間撤退なのでしょうか?」

閣議を終え、首相官邸を出てゆく外相に記者達が群がるのだが、前田は手を合わせて詫びるようにしながら、官邸出口から退出してゆく。
普天間基地撤退・辺野古建設中止の一報を受けて、沖縄県内で悲喜こもごもの事態が繰り広げられている。そんな中、米軍の方針が心変わりした内情を知ろうと動き、日本政府が何を考えているか把握したがるのが、メディア関係者だ。

地元沖縄の記者ほど、理不尽な状況の数々を見てきた。県民投票で「ノー」を国に突き付けても、政府は論点を「沖縄の負担軽減」に変えて見せる。しかし辺野古が完成すればプラマイゼロで、何の負担軽減にもなっていない。
それに先立つ民主党政権時は、外務官僚に反逆されて、プラン自体が暴露されて米軍が怒り出してしまい、大事に進めようとしていた計画が頓挫した。
また、最近になって建設予定地が超軟弱地盤だと判明し、新基地建設まで長い時間と莫大なプラスの建設費用が掛かると分かっても何一つ変わらなかった。

誰が何を取り決めて、現在の状況になったのか?一切が闇の中にあった辺野古での工事が、今回あっけなく止まった。
今までの紆余曲折はどうあれ、米軍の部隊撤退宣言が全てとなった。辺野古へ駐留を予定していた部隊が撤退するのだから、辺野古で建設を続ける必要は無くなった。付帯事項や条件的な内容も、特に伴わない。
とはいえ、今までの沖縄内、政府内での様々な"不都合な話"が絡んでくるのは間違いないので、部外者ヅラして事態が収束するまで黙り続け、政府と沖縄県に対応を任せるのが前田外相にとっては懸命な判断と言える。

本件の担当となる、防衛大臣、北海道沖縄開発担当大臣、国交相、経産相、官房長官、そして首相に任せておけば良い。
アメリカ側もこれまでの日本との複雑な事情は把握している。
「アメリカ側の方針転換だと言う形にしておかないと、そのうち刺されますよ」と米国大使からも釘を刺されていた。「密約を交わした当事者です」とバカ正直に言おうものなら、末代まで祟られ兼ねないですよ、と笑われた。

「撤退と開発中止」は、もう覆らない。
70年代の地上戦とは異なり、ヘリ部隊や海兵隊は無用の長物になりつつある。そんな部隊を何とか沖縄へ引き止め続けて来たのは、もはや日本の都合だけだった。
無用な部隊を維持するために多額の思いやり予算と巨額の駐留費用を負担してきた。それも米国でも無用と言われ笑われているような部隊だからこそ、米軍も日本の懇願に応じて置き留めてきた。全ては辺野古開発に伴う様々な利権を守るためとしか考えられないのだが、計画そのものが無くなった今、何れ巨悪は明らかになるだろう。

前田外相は確信していた。
五輪をやるなら無観客にして、放映権料以外の収益をゼロとする。万博とリニアは中止の一択しかありえない。中止や収益悪化させて、巣食っている汚職を根掘り葉掘り炙り出す。
不必要な国家プロジェクトに「待った」を掛けるだけで、簡単に巨悪の数々が暴かれるのが、日本の政治であり、政治に絡む利権を提供する経済と見なしていた。
自滅党政権下で発案された大規模プロジェクトは総点検する必要がある、という方向に世論を持ってゆくのが必要だろう。

記者達はそれでも取材を重ねてゆく。
これまでの状況を今一度踏まえて、足で集めた情報を持ち寄り、足りていなかった内容を求めてゆく。突然降って湧いた一連のゼネコン疑惑を思い出した察しの良い記者は、辺野古埋立地で作業をしていた業者とその業者・企業を推してきた県会議員、市会議員の意見を求める。
建設会社の負債総額が幾千万に及んだと聞けば、推進派だった県会議員達の立場は危ういのではないか?と囁かれるようになる。

知事も含めた沖縄県自体が基地建設中止側なので、基地推進派の立場が釣瓶落としの様に悪くなるのは分かっていた。

辺野古の工事業者と県議、沖縄県選出の国会議員と与党は利権繋がりの一蓮托生の関係で、膨大な裏金が生じているハズで「建設中止」という選択肢は、これまであり得なかった。五輪も万博もリニアも全て同じ構図だ。
大損こいてる業者が必ず居るので「話が違う!」と慌てる人々が出てくる。

基地が完成予定の2035年まで、辺野古の警備を請け負っている業者が第一号だった。日々の警備費だけで毎日2千万円づつ掛かる。一部分に過ぎないのだろうがこれも壮大な無駄だ。開発中止と聞いた警備会社の幹部達は、さぞ落胆した事だろう。
その2千万の10%が日々沖縄の県会議員と国会議員に流れていたと発覚して、早速騒ぎになっていた。

「そうね、検察に頑張ってもらって、県議会と国会で追求すればいい。これで終わる筈がないもの」前田外相は呆れ顔で新聞を見ていた。
ーーー

王族のプライベートジェットでマレー半島東海岸の沖合に浮かぶ島へ運んで貰うと、今年もあと2日となった。
マレー王族、プルシアンブルー幹部と管理職社員の源 翔子といった面々が所有する、コロナで休業中のリゾートホテルに投宿していた。
従業員が一人も居ない宿で自炊し、各人が部屋を清掃し、ランドリーで洗濯をする。そんな展開になっていた。掃除機が廊下に出っ放しだし、ホテルの中庭に色とりどりの下着や水着が干してあるのはご愛嬌だ。

「女性陣が揃っているので出来る!」と大学生カルテットが提案し、実施となった。
建屋の全てのフロアを使うわけではないし、元が4つ星のホテルチェーンの所有ホテルだったので、掃除機洗濯機、厨房のアイテム等、総てが揃っており、且つ、いつでも営業再開できる体制を取っていたので、僅かな労力で事足りた。
また、本島がリゾート地帯の中心となる島であり、昔から住民も住む島なので、街には大抵のものが揃っている。チェーン店のスーパーには日本の食品会社の商品も数多くあり、日本でも見かけるコンビニもある。コロナ罹患者の減少を受けて営業を再開した飲食店もポツポツとある。
居ないのは観光客だけだ。これから乾季本番の観光シーズンを迎えるが、島が賑わいを取り戻すのも、もう間もなくだろう。

買い物を終え、ホテル名の書かれた送迎用のワンボックスカーを自分たちで運転してホテルに帰ってくると、今朝皆で清掃した、小さな方のプールで戯れている集団が手を降る。
皆楽しそうな表情なので喜ばしく思う。

「一流ホテルを貸し別荘として使う発想は無かったわ」助手席の蛍がカラカラと笑う。
確かに大人達では思い浮かばなかっただろう。
疫病で事業停止やロックダウンという事態に遭遇したのも現代人には初めての経験だろうし、ましてや、ホテルごと利用する機会は、今回が最初で最後だろうと確信していた。
まだ3日滞在するのだが、何故か名残惜しい感情が湧いてくる。           
「ここに居ると、地球上に私達しか居ないって気分になる!」
自炊料理を食べているレストランで、安東紗季がそう表現した時に思わず合点したが、そういう雰囲気が確かにあった。
いっそのこと看板を変えて、自分たちで経営するのも面白いかもしれない、と考えていた。

買い物してきた食材の収納は女性陣に任せて、ロビーに隣接する喫茶店にモリは向かう。
この休日、持ち込んだ豆と茶葉でマニュアルや動画を見ながら、この店のメニューの数々を作って楽しもうと企んでいた。

「やりたいもの」の一つ「客が来ない喫茶店の主人」の夢が叶った。
3度目のトライでも、未だに見事な絵を泡で描くことが出来ずにいるのだが・・。

プールで遊び疲れた子どもたちがやって来て、各自が好きなものを作り始める。シンプルに注ぐだけのフルーツジュースを持った娘が、父親の座って居る方にやって来る。

鼻の頭と頬の上部が赤みを帯び、顔が全体的にローストされた状態だ。
「焼けたねぇ」というと「うん」と頷いてTシャツをめくりあげる。ブラをつけていないので吹き出しそうになる。
「お子ちゃまのは見たくないな、それに下着はどうしたんだよ?」
「みんなしてないよ。どうせ私達しかいないし」
子供扱いされて怒っている。それに連中の考えそうな事だと、カウンター内で何やら作っている大学生カルテットを見やる。離れていて乳首は確認出来ないと分かると、目の前のお子ちゃまの胸を渋々見る。

「先輩達を受け入れてくれて、ありがとうです」ジュースを啜りながら上目遣いで言う。

「父さんは参加しただけで、人選までは関与していません」

「でも、こうして受け入れてくれたじゃない」

「飛行機に乗り込んでるのに、お願いですから帰ってくださいって言えるだろうか?」

「それでも良かったよ。4人が加わって、大学生にも危機意識が生まれた」
「危機意識?」

「うん。都内と横浜のモリ家の中を誰がコントロールするのか、まだ決まっていない。富山と岐阜に人員がシフトしたあと、大学生たちは家のフォーメーションを牛耳ろうと考えていたけど、候補者が、まだまだ増える可能性があるのを知った」
・・「一体、中で何が起きているのだろう?」と思い、黙って娘の話を聞く。

「お父さんを独占したい願望が大学生には有る。だから、新しいメンバーが増える事には抵抗を感じていた。それを以前から察していたママたちが、仲の良い3家を招いて、この家は可変的なチームなんだと、中心を担うメンバーは必要ないんだと、意識付けしようとした。お母さん曰く、流行りのアイドルグループみたいなものだって言ってた。違うのはメンバーの卒業って仕組みが無いのと、センター役が居ないってことだけど」

「アイドルグループねぇ・・」
この時点で話のポイントが違うような気がしていた。基本的にこの集合体には小さな対立と牽制が常時起こっている。大きくは家同士の牽制であり、世代間の主導権争いに加えて、個々人の駆け引きもある。ヒトの集団ならではの特徴、学級クラス内のカースト的な攻防の様なものから、男を巡る争いまで含めて、ごった煮の状況だ。
それでも、蛍のママ友たちとその子供達には、「和」を乱そうとするハズレた方はいないし、比較的似たもの同士が揃っていて協調性はあるし、諸般のルールも遵守している。今回加わった3家にも、ここまでの時点では違和感の類は感じていなかった。

「あのね、考えている事があるの」
「なんだろう?」
「私もおばあちゃんから生まれた事にして貰おうかなって考えてるの。火垂、海斗、あゆみの金森3兄弟、爆誕!」

「突然だなぁ・・んーと、それでどうなる? 戸籍はそのまんまだぞ?」

「戸籍はそのままでいいのよ。対外的には金森あゆみになって、お父さんの娘ではなくなる。そうなるのは今じゃなくてもいいんだけど」

「金森の名字を残すっていう話?」
親子関係で無ければXXXもXXXも出来る・・子供らしい発想だな、と察しながら矛先を変えて話を続けさせる。どんなに頑張ってみても、まだ中学生なのだ・・

「それもある。火垂、海斗の両名が名乗るのなら、私はおばあちゃんの旧姓を名乗ってもいい。要はね、弟と妹が増えるのは間違いないでしょ?杜家は歩、圭吾の2人位でいいの。あとはモリ以外の名字を名乗って父親が誰なのか悟られないようにするの」
「そういうのはまだ先でも、いいんじゃないかなぁ」

「でもね、私と彩乃の世代が、お父さんの最後のサポート役になると思う。彩乃が家を出ても私は絶対に残るつもりだよ」
・・サポートって、やはり話は其処に行き着く。自分のゴールありきで話を組み立てているので、どうしても脆弱な論旨と展開になってしまう。

「それこそ、まだ先の話だ。老人ホームに入るのも面白そうだって、母さんと話はしてるけどね」

「ー国を左右する人の最後の舞台がさぁ、老人ホームでいいのかな?」

「国を左右するほど偉くはないよ、一介の地方議員に過ぎない」

「むう、それで終わるはずないじゃない。今年はどこかの県で国会議員になるんでしょ?私、ついてくからね」
「それは嬉しいねぇ・・でもね、国会議員にはならないと思うよ」

「なんで?」大きな目を更に見開いている。

「ドロ船を操縦したくないからだよ。筏やボート位になって、せめて浮いている状態にせっせと修復して貰わないと困るんだ。それも社会党じゃなくて、今の政治家たち全員に、自分たちがぶっ壊した国を修復する責務が連中にはある、と考えてる」

「えっと・・じゃあ、お父さんはどうするの?」

「本音を言えば都議のままでいい。議会が無い期間は自由に時間が使えるからね。でも、おばあちゃんが許されないだろうから、どこかの市長か町長ってところかな?」

「横浜と川崎も来年選挙だったよね?」

「そういう政令指定都市は時間がめちゃくちゃ拘束されるからパス。横須賀、三浦あたりかな? 神奈川で言うと」
実際どちらも来年選挙だ。富山市も4月選挙だが、あまりにも短絡的で、且つ面白そうではない・・

「定期的にブルネイに通うから?」

「ブルネイというよりも、会社の仕事絡みだね。縁の下で支える必要があると思ってるんだ、まだ出来て間もない会社だからね」

「どうしてそれを言わないの?みんな、来年は国会議員だって言ってるよ」

「つい最近なんだ、そんな風に考えるようになったのは。それでまだ計画中だから、他の人には黙っていて欲しい。どこの街にするのか、やっぱり市長も荷が重いかなとか、いろいろ考えなきゃならないからね。勿論、母さんにも内緒だ」

「分かったけどさ、どの街を選択するかいつまで掛かりそうなの?」

「お前はおばあちゃんの母校に行きなさい。そうすれば、どの県の有名公立校でも喜んで受け入れてくれるから。と云うのも、次の都議選自体は7月だ。だから出来れば任期満了までは頑張りたい。それでも都議になって1年しかないんだが、中途半端な形で投げ出したくはない」

「そうか、分かった・・あの、彩乃には言ってもいい?国会議員にはならないみたいだって」

「彩乃ちゃんが、実の母親と姉に言わないと思う?2人は大半の時間を岐阜と京都で2人は過ごすんだよ。志乃さんも岐阜だから、彩乃ちゃんからの情報が必要になる。何でも報告しなさいって言われてると思ったほうがいいよ」
「そうか、そうだよね・・」

「皆を信じていない訳ではないんだ。でもね、あゆみにはこうして話せるけど、血縁関係の無い人達や、家族であってもメンバーの輪の中心になっている母さんには言えない話が沢山ある。
先ずはそこを理解して欲しい。このグループになってまだ半年しか経ってなくて、父さん自身も全然理解できていない。人数も増える一方だし、正直困ってるんだ・・」

疑っている姿勢を娘に話しておけば、それが拡散するのが分かっていた。
皆が娘との話を重視している。蛍には聞けないが娘は聞きやすいし、「ナイショの話だよ」といって娘は全てを明かしてしまうに違いない。
問題が生じやすい関係でもある。皆が娘の元へ近寄ってくるので、本人はどうしても天狗になってしまう・・天狗になった娘に近づいて、情報を集めているのを疑問視した蛍が排他的な行動に出る等、「あるあるネタ」の世界に突入する可能性もゼロではない。また、相手を味方だと捉えていた娘が、知らない内に悪意ある側に加担している可能性もある。

今回加わった家族のケースを上げてみると、娘が連れて来た体を装っているが、高等部の阿東姉妹と諏訪結菜は、大学生の玲子の息がたっぷり掛かっている。玲子は一人っ子なので味方を増やしたがっていた。そこで生徒会絡みで世話した子飼いの3人に声を掛けた。
自分ばかりではバランスが悪いので、杏と仲の良い、近所の後輩である池内知代をメンバーに加えた。知代の母を自分の母の里子に紹介して、体裁を整えた。安東姉妹の母親は蛍と仲が良いので、中等部のあゆみに近づいて懇願する形を取った。

姉妹が養女の仲間入りするバーター要件として、姉の安東実花が、あゆみと彩乃の「養女化」の支援・支持を持ちかけているのが、諏訪結菜を大人の女性として籠絡し、洗いざらい吐かせたので判明した・・。
皆、それぞれ高校生なりの落としドコロを用意して、参加しているのだ。
モリとしても、グループ内に世代の異なる2重スパイを処々に用意しておかなければ、つまらぬ箇所で足元を救われては敵わないと考え、寝物語を情報源と定めて警戒態勢を敷いている。

「来年はコロナも明けて仕事量も増えるだろう。だから、家の中をあまり見ていられないと思うんだ。結果的に、大勢になっても無駄だったって、母さんも気付くんじゃないかな」

「そっか、無駄になるかもしれないのかぁ・・」娘が分かっているのかどうかは別として、今は微笑んでみせた。

国会議員になるのは今回はパスしようと決めているのは事実だ。

当社のAIの能力が際限なく成長しているので、世の中の速度とそぐわない状況にある。
結果的に戦後の難問解決まで結びついたので、世間でモリの名が知られるようになってしまった・・都議なので、裏方に徹しようと思っていたのだが。
また、加速度的な変化が様々な衝突を引き起こすので、それが修正点でもあり、反省点でもある。今回の辺野古問題で生じている様々なドタバタで良くわかった。以降のプロジェクトでは2段も3段も次元を落として、計画を練り上げる必要があるだろう。

暫くの間は表舞台から離れて、地方でひっそりと暮らそうと考えている。

(次章に続く)



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