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文芸寄せ集め

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自分の記事の中から詩と掌編小説を寄せ集めました。
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#短編小説

詩)夏の片鱗

詩)夏の片鱗

窓を開けて寝ないと暑苦しくなって、夏がいつの間にか私のおでこまで忍び寄っていた事に驚いた

渦を巻くような変わりやすい梅雨の天気は雨の反芻ばかりで神経が休まらず、新しい傘を買って何とか自分を宥めすかしているというのに

夏至の日は夏至だ、と皆騒いでいて、自分の生活にまるで関係のなくなった夏至を、遥か昔の和歌を摘み取るようにそっとなぞった

ふと季節の証人になりたくなった

あなたの前で浴衣が着たい

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掌編小説「薔薇に包まれる」

掌編小説「薔薇に包まれる」

都会には排気ガスが多いという。そんなの小学生の頃に習っていて、誰でも知ってる。
でもここに来るとしみじみ思う。空気がまろやかだな、と。

東京に毒されているつもりはないけれど、普段金魚みたいに呼吸する訳にはいかないから、何気なく息してる。
提供されたものを、右から左に受け取って。

でもここに来ると、東京の空気が刺々しいのだと分かる。
やわらかい、と思う。風がやわらかいのだ。
余白の多い空がなでる

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掌編小説「隣りのお姉さん」

掌編小説「隣りのお姉さん」

読みかけの漫画雑誌が床に転がってる。ベットから落ちたらしい。

どうして漫画雑誌って転がるとああなるんだろう。
くたっとなって、背表紙だけオットセイのように浮き上がって、数ページがうねって折れる。

うんざりして床から拾い上げると、キラキラした男の子が目に入った。

ああ、この子。
既に読み終えていたので、その子の背景まで容易に頭に浮かべられる。

その子は中学生の主人公が憧れている、隣りに住んで

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コーヒーを奏でる

コーヒーを奏でる

カフェイン。
何なんだろうその響き。
エナジードリンクで大量に摂取したり、デカフェで限りなく微量に抑えたりする物質。
極端に存在しているその響き。

でもカフェインといえば、やっぱりコーヒーだ。
本当は緑茶や紅茶やウーロン茶にも多く含まれているけれど、何と言ってもコーヒー。

私は毎日コーヒーを飲む。
本当はカフェインに弱くて、摂りすぎたり摂る時間帯を間違えたりすると眠れなくなったりするくせに、毎

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