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読書のお部屋

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#図書館

わゴムは どのくらい のびるかしら?

わゴムは どのくらい のびるかしら?

きのうの夜、図書館でその本を読んでいたカメくんが私に言ったの、「輪ゴムってどれくらい伸びると思う?」って。そう聞かれた時、私は何も考えずに答えてしまった。「そうね、20センチくらいじゃないかしら?」と。

その時よ、自分がつまらない大人になってしまったのではないかと思ったのは。だから、その本を受け取り一人で図書館を後にした。少し混乱していた私は、直ぐにはその本を読めなかったわ。

朝が来て、読み始

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もっと おおきな たいほうを

もっと おおきな たいほうを

ウサギはラジオの仕事を終えると、急ぎ足で駅へ向かった。飛び乗った電車の窓からは、夕暮れの景色が、心地よいリズムを刻んで流れていく。やがて小さな駅に到着すると、彼女は静かに図書館へと足を向けた。

閉館間近で慌ただしい窓口を通り過ぎ、児童書コーナーに向かうと、求めていた本を探し始めた。彼女が手にしたのは、二見正直さんの「もっと おおきな たいほうを」という絵本だった。閲覧席に腰を下ろすと、最初のペー

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よかったね ネッドくん

よかったね ネッドくん

その日、カメが図書館の静けさの中で本の海に潜っていると、肩を落としてトボトボと歩くウサギが現れた。彼女の表情は曇りガラスのように霞がかかっており、どこか彼女の不運を物語っていた。

彼女は細い身体を、力なく閲覧席の椅子にあずけると、小さな声で話し始めた。「長い列に並んだのに、買いたかったスイーツが目の前で売り切れてしまったの。私はこの星の中で一番の不幸な人なの」

カメはそんな彼女に、「ウサギさん

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1つぶのおこめ

1つぶのおこめ

その日、図書館に辿り着いたウサギは、窓際の閲覧席でページをめくっていたカメのもとへ急いだ。彼女は静かにカメに問いかけた。「心を澄ませるような本が読みたいんだけど」カメは一瞬考えをめぐらせた後、彼女の意図を尋ねることなく、黙って手元の絵本を差し出した。

絵本を受け取ったウサギは、彼の隣にふわりと腰をおろすと、ページをぱらりと開いた。そして魔法に掛かったように、夢中でページをめくり続けた。最後のペー

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ふしぎなたけのこ

ふしぎなたけのこ

その日、ウサギは駅へと続くいつもの道を軽やかに歩いていた。道の両側には若葉がきらめく木々が立ち並び、風が穏やかに吹いていた。彼女はその風に長い髪を揺らしながら、こんもりと繁る竹林に差し掛かった。

ウサギはふと足を止めて、竹林を見つめた。彼女の目の前のたけのこは、数日前に見た時よりもずっと大きくなっていた。「こんなに早く大きくなるものだったかしら?」と彼女は心の中で問いかけた。その小さな疑問は、静

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ぼくの小鳥ちゃん

ぼくの小鳥ちゃん

映画「マダム・ウェブ」の上映が始まって、さほど時間は経っていなかった。主人公のキャシーの部屋の窓ガラスに鳩がぶつかるシーンで、彼女は未来を視る能力に目覚めた。「このシーンは…」映画館のシートにひとり座るカメの記憶の底から一冊の本が甦った。江國香織さんの「ぼくの小鳥ちゃん」だ。

「ぼくの小鳥ちゃん」の主人公である「僕」と小鳥ちゃんの出会いは、雪の降る朝の部屋の窓辺だった。そこに小鳥ちゃんが不時着し

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夏への扉

夏への扉

大粒の雨が一定のリズムで冷たく傘を打ちつけていた。図書館で過ごした静かな時間から一転し、ウサギは外の厳しい寒さに身を震わせながら、水たまりを慎重に避けて帰路についていた。彼女の心は、まだ温かい図書館の中の物語の世界に留まっていた。

ウサギの心を満たしていたのは、ロバート・A・ハインラインの「夏への扉」。物語の主人公、飼い猫のピートをこよなく愛するデイヴィスの姿が、まるで鏡に映る自分のようで、30

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一九八四年

一九八四年

その日、ウサギは図書館に続く道をぼんやりとした視線で歩いていた。彼女は昨夜、ジョージ・オーウェルの「一九八四年」を読み終え、その物語の世界観に深く浸っていた。

「この本で一番心に刺さったのは、『言葉を破壊する』という考え方だわ。言葉が破壊されれば人の思考の範囲が狭くなるなんて、今まで考えたこともなかった」とウサギは内心で動揺しているようだった。

彼女の隣を歩くカメは静かに頷いた。「僕たちが感情

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アンドロイドは電気羊の夢を見るか?

アンドロイドは電気羊の夢を見るか?

まだ路地の片隅に少しの雪が残っている中、ウサギとカメは寄り添って歩いていた。周りは静寂に包まれており、二人の足音だけが図書館へ続く道で響いていた。ウサギはフィリップ・K・ディックの「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」を読み終わったばかりで、その物語の深い意味に心を傾けていた。

「ねえ、カメくん」とウサギは静かに言った。「この本を読んで、アンドロイドにも感情があるかもしれないと思ったの。少し驚い

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