「8/2」

目の前に聳えるビルを眺めていた。五年前に退職した会社だ。中々のブラック企業だったのを覚えている。

 企業説明会の時は天使のような笑顔で出迎えて、入社してからは悪魔のような行いを見せてきた。

 終電まで残業は当たり前、上司からの罵詈雑言。嫌がらせは当たり前だった。

 そんな恐ろしい状況で辞めようとも考えたが、時折かけられる賞賛の声が胸に沁みる。
 
 そんな事もあってみんな洗脳状態に入っているので、勘ぐり過ぎて自分が間違っているように思い込んでいるのだ。八割のストレスと二割の甘い報酬。

 これが見事の胸に寄生虫のように巣食ったのだ。

 ある日、出勤途中、視界が暗くなって力が抜けた。

 気がつくと病院のベットの上だった。医者の話によるとストレスが原因だそうだ。

 ストレスと呼ばれても最初はあまりハッキリしなかった。しかし、医者との対話で徐々に自覚した。

 退院後、僕は退職。しばらく会社からの電話が鳴ってきたが数日もすればなくなった。

 そんな会社の入り口を若く活気溢れる若者が入っていく。

 

「社長! お待たせしました。どうぞ」

「ああ。ありがとう」
運転手に言われるまま、車の中に入った。思い出に別れを告げるように車が走り出した。
 

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