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「ツイスト・イン・ライフ」第一話
あらすじ登場人物第一話:松尾誠司 その一「いやぁー……今日はしんどかったっすよ」
松尾誠司は、無機質な骨組みに囲まれた空間でマールボロに火をつける。彼の鮮やかな赤い髪の毛とは対照的に、その顔色は疲労で青白くなっている。
「この業界にいると、労働基準法なんてものは絵空事だって、つくづく思い知らされるんだよな」
手島清志の切実な思いが紫煙に交じって吐き出される。
「もしかして手島さんって明日もこん
「ツイスト・イン・ライフ」第十一話
第十一話:越智弘高 その三
「いやぁ、ご迷惑をおかけして申し訳ありません。すぐ復帰できると思います……多分」
入院中の病室で、越智弘高は弱弱しく笑う。視線の先には見舞いに来ている店長とエリアマネージャーがいる。
越智が倒れた。途中から自分が何を喋っているのかわからなくなり、その後すぐ重い貧血のようなめまいがしてロッカールームで倒れこんだ。
このとき、越智は十二連勤目だった。
すぐに店長と
「ツイスト・イン・ライフ」第十話
第十話:佐野涼平 その三
「よかったよー……正直に言ってくれて」
佐野涼平の妻、佐野瑠璃子は大きく息を吐き、安堵の表情を浮かべる。
涼平は、まだ瑠璃子の顔を見ることができていない。
「頼りない大黒柱だな……俺は」
涼平は下を向いたまま声を震わせている。
「ママがせっかく心配して言ってくれたことを、昨日あれだけ大声で否定してさ、今日になってやっぱりママの言う通りだったって……最低だよな」
「ツイスト・イン・ライフ」第九話
第九話:松尾誠司 その三
「思ったより難しいな。準備時間いくらなんでも短すぎでしょこれ」
松尾誠司はギターを抱えながら、楽譜とにらめっこしている。
この日は本業、スタジオミュージシャンとしてレコーディングにやってきた。
今回の仕事は女性シンガーソングライターである「三富はるな」の新曲のレコーディングだ。
三富はるなは四十七歳で、小柄でウェーブのかかった茶髪、くりくりとした目が特徴的だ。
「ツイスト・イン・ライフ」第八話
第八話:藤吉礼美 その二
「先週のレッスン終わった後、本当にカラオケ行っちゃったよ」
藤吉礼美は翌週のレッスンの休憩時間に、一人カラオケに行ってひとしきり歌ったことを牧村陽菜に伝えた。
「れいみ先生、本当にあの後に歌ってくれたの⁉︎ 私の影響⁉︎ 嬉しいー!」
と陽菜ははじけるような笑顔になっていた。
「え~、れいみ先生、何点だった?」
陽菜は無邪気に尋ねる。
礼美はその質問に目を丸く
「ツイスト・イン・ライフ」第七話
第七話:越智弘高 その二
「里のみんな、元気かなぁ」
越智弘高は、自身の育った児童養護施設「青桜の里」での日々を懐かしんでいた。
入所者や職員はみな、施設のことを「里」と呼んでいた。
越智は「青桜の里」の卒園式を昨日のことのように覚えている。彼の人生の中で最も忘れられない一日だった。
基本的に児童養護施設は十八歳、つまり高校卒業の年をもって「卒園」となる。越智は物心ついた頃から「里」にい
「ツイスト・イン・ライフ」第六話
第六話:佐野涼平 その二
「申し訳ないのですが、ここで先にシリンダが出ると全体の動作が1.5秒も止まってしまい能力が足りなくなるので、後からシリンダを出せるようにしてもらえませんか」
目の前のデスクでふんぞり返る男に対し、佐野涼平は機械の動作変更を依頼している。
「なんで今更この動きを変えるのさ。元々は機械屋さんがこうしろって指示したんだからね? そもそも機械屋さんが構想の段階から一つサイズの
「ツイスト・イン・ライフ」第五話
第五話:松尾誠司 その二
「すげえな。世間で話題になるってこんなになるんだ」
松尾誠司は、あるニュースを観ながらどこか遠い目になっていた。
前回の「マイカ発光中」のドッキリ企画が放送された週、プリンセス・マイカの名前はインターネット上で広まっていた。メンバーの滝岡奈月がドッキリに本気の涙を流した映像が切り抜かれ、瞬く間に拡散されたのである。
そのドッキリ企画とは「メンバーは緊急事態のとき、
「ツイスト・イン・ライフ」第四話
第四話:藤吉礼美 その一
「ん。ちょっと疲れたね。休憩にしよっか」
藤吉礼美は生徒に笑いかける。
「私、コンサートまでに上手くなれますかね?」
不安そうに問いかける生徒に対し、変わらず笑顔で答える。
「なれるよ! 実際、牧村さんはすごく上手くなってるからさ」
「ありがとうございます。れいみ先生にそう言ってもらえるとすごく心強いな」
礼美のレッスンを受けている生徒は、中学生の牧村陽菜だ。ピアノ
「ツイスト・イン・ライフ」第三話
第三話:越智弘高 その一
「ローリングストーンズのライブが当たった? 嘘だろ?」
越智弘高はスマートフォンの画面を見て、椅子から転げ落ちそうになった。
職場の休憩室にあるパイプ椅子は、身長187センチの越智にとってはいささか小さいようだ。
すぐにスケジュールを確認するも、当選した日にはシフトが入ってしまっている。
「うーん、厳しいだろうか……ダメ元で店長に聞いてみよう」
越智は、世界的な
「ツイスト・イン・ライフ」第二話
第二話:佐野涼平 その一
「そもそもこの案件、引き受けたのが間違いだったんじゃないですか……」
二十一時をまわり、暗くなったオフィスの片隅で佐野涼平は呟く。
「正直、俺もそう思うよ。でも営業と管理職がゴーサイン出しちゃったもんだからなぁ」
向かいの席で機械設計課の加藤係長も小さく本音を漏らす。
佐野涼平は国内大手の産業機械メーカーの機械設計エンジニアである。
佐野は東京工業大学で機械工学