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「ツイスト・イン・ライフ」第一話(全二十二話)
あらすじ登場人物第一話:松尾誠司 その一「いやぁー……今日はしんどかったっすよ」
松尾誠司は、無機質な骨組みに囲まれた空間でマールボロに火をつける。彼の鮮やかな赤い髪の毛とは対照的に、その顔色は疲労で青白くなっている。
「この業界にいると、労働基準法なんてものは絵空事だって、つくづく思い知らされるんだよな」
手島清志の切実な思いが紫煙に交じって吐き出される。
「もしかして手島さんって明日もこん
「ツイスト・イン・ライフ」第二十二話(最終話)
最終話:ツイスト・イン・ライフ
「……」
松尾誠司は都内にあるスタジオに向かい、愛車のアルテッツァ・ジータを走らせている。
BGMはエンヤである。興奮する心を落ち着かせるためだ。
今の松尾がメタルやロックなどを聴こうものなら間違いなく覆面か白バイに捕まってしまう。
「俺の腕でそんなすごい奴らを満足させられるのか……?」
佐野涼平は、ハンドルを握りながら大きな独り言を言う。
「パパなら大丈
「ツイスト・イン・ライフ」第二十一話(全二十二話)
第二十一話:佐野涼平 その五
「どうすべきか……いや、俺の中で答えは決まっている。いや、でもなあ……」
佐野涼平はベッドに身体を横たえ、考えを巡らせている。
凄腕ギタリスト松尾誠司とのセッションの余韻に浸りつつ、何かを迷っている。
「ああ! くそっ! なんでこうも決断できないんだ! 情けない。『大きなトラブルほど早く言え』って会社でも教わった。だから今回も早く言ってしまうのが筋なんだ。頭では分
「ツイスト・イン・ライフ」第二十話(全二十二話)
第二十話:藤吉礼美 その五
「はぁ……最近お酒飲みすぎかも」
藤吉礼美は先日の講師交流会以降、お酒が大好きになってしまったようだ。
その後の「バー・ツクシ」でのひとときも本当に夢のような時間だったため、現在まんまと週に二日程度のペースで「バー・ツクシ」に通うようになった。
中でも、その日に出会った越智弘高と高木忍というカップル、そしてバーのマスターである進藤正信とは非常に仲良くなった。
「ツイスト・イン・ライフ」第十九話(全二十二話)
第十九話:松尾誠司&佐野涼平 その二
「へぇー俺らタメなんですか。じゃあ俺に敬語いらないですよ」
佐野涼平は、居酒屋の向かい側の席に座る松尾誠司に言う。
「じゃあ遠慮なくタメ口でいくね! そっちもタメ口でよろしく!」
その日、佐野は松尾から飲みのお誘いを受けていた。
妻の瑠璃子に、その話をしたところ「誰かと飲みに行くなんてすごい久しぶりだね。いってらっしゃい」と快諾してくれた。
一言二
「ツイスト・イン・ライフ」第十八話(全二十二話)
第十八話:越智弘高&藤吉礼美
「ドラム叩くの久しぶりかも? そうでもないかな?」
藤吉礼美は初めて入店した「バー・ツクシ」でドラム演奏をすることになった。
越智弘高と高木忍という若いカップルから勧められ、礼美がそれに乗っかったのだ。
礼美は軽い足取りでドラムセットに向かう。
椅子に腰を下ろすと、フットペダルでバスを軽く叩きながら、シンバルやタムの高さを確認し、スネアやタムを小さく鳴らして
「ツイスト・イン・ライフ」第十七話(全二十二話)
第十七話:松尾誠司&佐野涼平
「改めて、佐野と申します。皆さんの邪魔をしないように頑張ります。よろしくお願いします」
佐野涼平は、「アニオン」ショッピングモールのステージ裏で初対面のバンドメンバーたちに挨拶をしていた。
メンバーからは暖かい拍手と言葉をもらっている。
特にギタリストの松尾誠司は、佐野が突如助っ人として来てくれたことに痛く感激し、積極的に緊張をほぐそうとしている。
アニオンの
「ツイスト・イン・ライフ」第十六話(全二十二話)
第十六話:藤吉礼美 その四
「うーん……つい建物の中に入ってきちゃったけど、やっぱり帰ろうかな……」
藤吉礼美は、「バー・ツクシ」の入口の前で店内に入るべきか否か迷っていた。
礼美は勤め先の音楽教室での講師交流会に参加し、二次会まで酒宴を満喫した後である。
「バー・ツクシ」は細長いビルの地下一階にあり、年季が入った木の扉の向こうからは人の笑い声が聞こえてくる。
礼美は、仲のいい人に対して
「ツイスト・イン・ライフ」第十五話(全二十二話)
第十五話:越智弘高 その四
「この店は本当に癒しの空間ですね。最高です」
越智弘高は上機嫌でジェムソン・ハイボールを味わっている。
越智は週に三回ほど「バー・ツクシ」に通うようになった。
この日はまだ客がおらず、グラスに入った氷の音がカラカラと店内に響く。
「ありがとうございます。でも越智さんが来てくれるようになって、さらにお店の雰囲気が和やかになったんですよ」
バーのマスターである進藤
「ツイスト・イン・ライフ」第十四話(全二十二話)
第十四話:佐野涼平 その四
「やけに慌ただしい人がいるな。何かあったのかな」
佐野涼平は不思議に思っていた。
日曜の家族連れで賑わう「アニオン」ショッピングモールに、真っ青な顔でどこかに電話をかけながら走り回ってる男がいる。
くたびれたスーツ姿で、買い物客のようには思えない。
「万引きがあったとか? まさか強盗……ではないよね?」
涼平の妻の佐野瑠璃子も同様に、その人物が気になっていたそ
「ツイスト・イン・ライフ」第十三話(全二十二話)
第十三話:松尾誠司 その四
「ということで約一年弱、お世話になりました」
松尾誠司は、およそ一年間働いた番組ADのアルバイトを辞めることになった。
女性シンガーソングライターの「三富はるな」の専属ギタリストとして活動することを決めたためである。
今は、顔見知りのスタッフに挨拶回りをしている。松尾はアルバイトのADであるため、もちろん送別会のようなものが開かれることはない。
松尾はこの日
「ツイスト・イン・ライフ」第十二話(全二十二話)
第十二話:藤吉礼美 その三
「あれは、カラオケ……」
藤吉礼美は、勤務先の音楽教室での講師交流会の二次会に来ている。
二次会は、礼美による鶴の一声で開催が決まった。
その二次会の居酒屋で案内された個室席には、見覚えのあるリモコンと大型のテレビがあった。
「おおっ! カラオケあるじゃん!」
音楽教室のヴォーカル講師である小杉純平は、目を輝かせる。
「久々に小杉くんの美声が聴けるのか」と教
「ツイスト・イン・ライフ」第十一話(全二十二話)
第十一話:越智弘高 その三
「いやぁ、ご迷惑をおかけして申し訳ありません。すぐ復帰できると思います……多分」
入院中の病室で、越智弘高は弱弱しく笑う。視線の先には見舞いに来ている店長とエリアマネージャーがいる。
越智が倒れた。途中から自分が何を喋っているのかわからなくなり、その後すぐに、重い貧血のようなめまいとともに意識を失い、ロッカールームで倒れこんだ。
このとき、越智は十二連勤目だった