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「ありえない」と「わからない」:イノベーションの扉を開ける鍵

現代のビジネスシーンにおいて、イノベーションは欠かせない要素です。多くの企業が顧客の「あったらいいな」というニーズに応える新しい商品やサービスを提供しています。しかし、本当に革新的なものを生み出すためには、「ありえない」や「わからない」という要素が不可欠です。本記事では、「ありえない」や「わからない」の重要性を探ります。


「商品」はあったらいいな、「作品」はありえない

アーティストの森村泰昌さん(1951〜)は、著書『生き延びるために芸術は必要か』の中で、商品と作品についてこう語ります。「商品」とは「あったらいいな」の世界で、「作品」とは「ありえない」の世界だと。アート作品は、アーティストたちが、過去に作られたことのない、全く新しいものを生み出そうとしてできたものなので、「ありえない」ものになるというわけです。

19世紀後半に登場した印象派の画家たちは、当時の主流であった肖像画や宗教画とは異なる風景画や風俗画を描きました。彼らの作品は、伝統にとらわれず新しい表現を追求した結果、当時の人たちから「ありえない」とされたのです。そのため、サロンと呼ばれる展覧会には出品させてもらえず、自分たちで印象派展を開催することになりました。しかし、現在では印象派は最も人気のあるアートジャンルの一つとなっています。これは、「ありえない」ものを追求することが、いかに新たな価値を生み出すかを示しています。

Claude Monet 《The Grand Canal》

「わからない」の魅力

森村さんはまた、芸術をエンターテイメントと比較します。ディズニーランドのようなエンターテイメントは、どんなアトラクションがあるかわかっています。期待通りの体験ができることで、私たちは満足できます。一方、美術館、特に現代アート展覧会では「ありえない」作品が並んでいて、ぱっと見、何を意味しているのかよく「わからない」。そのため、美術館に行っても、ディズニーランドのようにスカッとした気分になれない人もいることでしょう。しかし、展示のキャプションや学芸員の説明に触れるなどで「わからない」作品に向き合い、その背景や意味を理解しようとすると、霧が突然晴れたように新たな発見や感動が生まれます

森村さんは、芸術を「不親切きわまりないスフィンクス」に例えます。

芸術は不親切きわまりないスフィンクス。スフィンクスからの謎かけに、こちらからまえのめりになってつきあわなければ答えは得られないし、さきにもすすめない。このスフィンクスの「わからなさ」にむきあってみることが「おもしろさ」だと感じられてくるとき、芸術はエンタメ世界とは異なる、別種のちょっと目がはなせないワンダーランドにみえてくる。

森村泰昌『生き延びるために芸術は必要か』

この「ありえなさ」や「わからなさ」がアートの真髄といえます。そしてこれらは、イノベーションの鍵でもあるのです。

イノベーションにおける「ありえない」と「わからない」

多くの企業は顧客の「あったらいいな」を充そうとしていますが、これだけでは画期的なイノベーションは生まれにくいものです。これまでにない全く新しいものやサービスは、アート作品と同様「ありえない」ものです。そして、その価値を実感してもらうには、スフィンクスと対峙するような「わからなさ」をクリアする必要があるものです。

スマートフォンはその典型例でした。iPhoneが初めて市場に出たとき、多くの人はそのデザインに驚きました。ボタンがなく、どうやって操作するのかわからないという声も多かったです。しかし、使い始めるとその直感的な操作性や拡張性に多くの人が魅了されました。これは、「ありえない」、「わからない」ものが新たな価値を提供する好例です。

Photo by Adrien from Unsplash

同様に、生成AIも、本当に人と対話しているように回答してくれて、ChatGPTが登場したときはびっくりしたものです。さらに、使いこなすには、こちらが学び理解を深めることが必要です。技法を身につけていくと、その可能性はどんどん広がっていきます。

画期的なイノベーションを目指すなら、アーティストの視点を取り入れて、「ありえない」や「わからなさ」の要素を持つ、自分たちのスフィンクスを創り出すことが重要です。これが、新しい価値を生み出し、顧客の感動を引き出します。「ありえない」や「わからない」は、ビジネスの未来を切り開く鍵になるのです。

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