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小説

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カクヨムなどの小説投稿サイトに掲載しているものの中から掌編小説、または二次創作をnoteに掲載しています。
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#ショートショート

【二次創作小説】クロノスタシス

【二次創作小説】クロノスタシス

 あ、クロノスタシスだ。

 この言葉を知ってから、その現象を目にする度にそう思うようになった。

 クロノスタシスとは進んでいるはずの時計の一瞬止まって見える現象のことを言う。それは秒針だったり、デジタルなら秒数だったりするけれど、誰もが経験したことあると思う。

 たった今、俺も経験した。

 休日の昼下がり。ベッドから上半身を起こして、掛け時計を見た瞬間のことだ。

 せっかくの休日をまたも

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【小説】サラバテスト

【小説】サラバテスト

 チャイムが鳴り、終礼と同時に教室を飛び出る。

 この瞬間を待っていた。待ち侘びていた。

 二年生の学年末テストが先週終わり、実質今年度最後のテストであった今日の模試にさよならをした。

 そしてこれから約束を果たしに行くのだ。

 廊下に出ると、同じタイミングで隣のクラスから浅野が飛び出してきたようだった。

「行くか」
「行くぞ」

 わざわざ息を合わせて階段を駆け降りる。ぎゃ、と叫びなが

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【小説】Childhood

【小説】Childhood

 ボタンを押し、落ちて来た缶コーヒーを手に取ると、その自動販売機の横にあるベンチへ気だるそうに座った。気だるそう、というか実際気だるかった。

 この公園は、ここらではかなり大きい方で敷地面積はもちろん、遊具も充実している。滑り台、ブランコ、砂場、ジャングルジム、このご時世では珍しいシーソーもある。皆、それぞれ好きなところでガヤガヤはしゃいでおり、少し年齢が上がると鬼ごっこをしたり、ボールを持ち込

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【小説】火点し頃のワンショット

【小説】火点し頃のワンショット

 グラウンドからは部活生たちの健康的な奇声が聞こえ、青春アニメの放課後を思わせる。一方、淡い朱色の教室は対照的に静かだった。シャープペンシルの芯が紙の上を走る音だけが僕の耳に届く。なぜなら教室には僕しかいないからだ。放課後、女の子と駄弁るなんて行為は、チャラリラパラリラ運動系男子がやってればいいのだ。チャラリラパラリラって何だよと思いながら独り笑う。

 パキッとシャー芯が折れると同時に、教室の扉

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【小説】土に落ちた汗は光り消えた

【小説】土に落ちた汗は光り消えた

 太陽の明かりが黄色がかり始める午後四時。我が校の体育祭は紅団が勝利を収め、無事に終了した。

 湯木明里が教室に戻ると、既に半数以上のクラスメイトが帰ってきた。ハチマキが机の上に散らかってたり、写真を撮っているものもいたり。そして、汗とグランドの匂い。それらを感じることはこの先もうないのだと思うと、高校生活最後の体育祭が終わったことを痛感した。

「明里、私たちも写真撮ろ」

 そう呟きながら、

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【小説】悪夢の朝

【小説】悪夢の朝

嫌な夢だった。

俺はよく家族と行くとあるショッピングモールにいた。基本いつも、そこに着いてからは家族とは別行動をして後で集合するといった感じだ。

その日もそうで、俺は本屋に向かった。
聞いたことのない作家の本が新刊コーナーにたくさんあった。見知った名前もあるが、村上春樹くらいだ。本当に聞いたことがない。日々、文学関係のニュースはチェックしているのだが見落としがあったのかもしれない。

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【小説】不純異星交遊

【小説】不純異星交遊

 今日の収益は……一万五千円か。まあ、二時間の路上ライブにしては上出来だろう。CDは二枚しか売れなかったが。

 シンガーソングライターを志して五年。二十歳を過ぎていつまでもこの状態じゃどうしようもないな、と最近感じてきていた。ありがたいことに事務所に拾われ、CD発売にもこぎつけたが全く売れない。しかし、CDが発売出来たということは少しは才能があるんじゃないかとも思ってしまい、きっぱり諦める気にも

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