- 運営しているクリエイター
#小説
聖女、血の魔法、勇者。
『……市内の中学校に通うKさんは全身の血液が抜かれた状態で発見され……』
「随分老けたね」
「は?」
悪口でしかないそのセリフが自分宛てだと理解したのは、少女が泣きそうな笑顔で俺に抱きついて来たからだった。俺は妙なニュースを表示していたスマホを取り落としそうになって慌てる。
「ユキ……! ユキアキ……! やっと……!」
「だ、誰!? 俺は雪秋だけど……誰!?」
「12年も……かかったけど…
75年ぶりの挑戦者《チャレンジャー》
エドモンド・ハンクマンは時間通りにやってこないスクールバスが大嫌いだった。
待ち合わせに遅れるガールフレンドが大嫌いだった。
指定日に届けないネット通販はアカウントを削除した。
規則的なものが好きだった。
水飲み鳥の動きを何時間も眺めていられた。
仕組みを知ろうと父親の時計を分解したこともある。
やがて彼は、求めるものが空にあることを知る。
太陽、月、そして無数の星々。
天文
もしもプラズマキャノンがあったなら
もしもプラズマキャノンがあったなら、なんだって壊せるだろう。
もしもプラズマキャノンがあったなら、世界はどんなに色づいて見えるだろう。
ある雨上がりの日、田舎道を軽トラで走っていると、道端にプラズマキャノンが落ちていた。
プラズマキャノンと言っても、然程大げさなものでもない。惑星航行艦の迎撃火器や、新式戦車に使う、変哲も無い単装式収束プラズマキャノンである。
だからと言って、田舎道に転がって
マキコの黒いサンドボックス
企画班リードの棚橋が戦線離脱して3日目。だから会議もこんな調子だ。「ですからァ、Yボタンなんです」
「ロックオンはR3で決まりだ」
プログラム班・日向寺はまだ冷静。さすが堅物。
「バインド変えるだけっしょ? 何そんな渋ってンすか」
棚橋の相棒だった彼は、たぶん潰れるだろう。
仕方のないことだ。
「これが通ったらしまいにゃコアコードに手がでかねん。時期を考えろ。デバッグへの伝達も面倒だ」
「
「迦陵頻伽(かりょうびんが)の仔は西へ」
身の丈七尺の大柄。左肩の上には塵避けの外套を纏った少女。入唐後の二年半で良嗣が集めた衆目は数知れず、今も四人の男の視線を浴びている。
左肩でオトが呟いた。
「別に辞めなくたって」
二人は商隊と共に砂漠を征き、西域を目指していた。昨晩オトの寝具を捲った商人に、良嗣が鉄拳を振るうまでは。
「奴らは信用できん」
「割符はどうすんの」
陽関の関所を通る術が無ければ、敦煌からの──否、海をも越えた
神饌を供す #逆噴射小説大賞2023
尾頭さちと尾頭さえの姉妹は巫女装束に身を包み、深々と平伏して待っていた。部屋の寒さに、吐く息が白く染まる。遠くで鳴り続ける鈴の音が、耳に届く唯一の音であった。
彼女らの前には一本の包丁が置かれ、さらにその前には純白の布地が広げられている。布の上には、一糸まとわぬ姿の女性が寝かされていた。
少女というのがふさわしい女性の、それは死体であった。
鈴の音が消えた。姉妹の体がわずかにこわばる。
『カバリとジャンには、夜がお似合い』
彼の敵前逃亡は、小隊の運命には何の影響も与えなかった。路地の奥で殺された人数が、ただ七から六に減っただけだ。だがその夜は彼を、永遠に変えてしまった。
路地を、まるで連なる川獺のように小隊は進んだ。最後尾の彼だけが、分かれ道の手前で立ち止まった。兵士たちは低い姿勢のまま暗がりへ消えてゆく。おれは捨石の、囮役を引き受けたのだという言い訳を彼は考えた。自分一人だけなら逃げられる可能性がある。彼には
死闘裁判 -Trial by Combat-
法廷の中央で、検察官の須藤と対峙する。
距離二メートル。
裁判官の、被告人の、傍聴席の、検察席の、全ての視線が、俺と須藤の二人に集まっていた。
半年前、足立区で起きた、中学校教諭一家殺害事件。
被告人の沢木に対し、検察は死刑を求刑し、弁護人である俺は、沢木のアリバイや、不当な取り調べ、証拠の不明瞭な点を論拠に無罪を主張した。
死刑と、無罪。
互いの主張は真っ向から対立した。
従っ
「青き憤怒 赤き慈悲」
柔い背に刺棒を挿れる度、琉の華奢な身体は悶え、施術台を微かに揺らす。
額の汗を拭い、俺は慎重に輪郭線を彫る。
もう後戻りはできない。
深呼吸。顔料の鈍い香りで気を静めると、十年来の教えが脳裏に蘇る。
「尋、邪念は敵だ。心が絵に表れる」
師匠は姿を消し、人の背を切り刻む悪鬼へ堕ちた。
発端は、俺の背が青く染まった日。
◇
一週間前。幾年も耐え忍び待ち望んだ独立の記念に、俺は自作