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地球泥棒を追え!

 扉を開けると月面だった。
 反射的に閉める。
 もう一度、恐る恐る開ける。
 黒い空、灰色の荒野、立ち尽くす星条旗。写真でしか知らなかった光景が、廊下の代わりに広がっていた。

「輪郭が、異様にはっきりしてる」
「空気が無いからだ。可視光を邪魔するものがないのさ」
「でも普通、生身で宇宙に晒されたらただじゃ済まないと思う」
「こちらの技術力の賜物だ。そもそも現在の地球の方が、余程普通からかけ離れているのだがね」

 聞き流しつつ足元、転がっている石を一つ拾う。
 それから振り返る。つい十分程前、自室に現れた自称宇宙人の男を。

「それで、信じて貰えただろうか」
「信じるかどうかの前に、まず戻してくんない? 麦茶取りに行けねえ」
「いいとも」

 男はスマホを操作し、次に扉の向こうを指差す。
 振り向く。見慣れたいつもの薄暗い廊下が伸びている。
 月の石は、変わらず手の中にあったが。

「改めて、信じて貰えただろうか」
「……その前に、こっちも考えを整理したいから、確認を取っても良いかな」
「良いとも。こちらも理解度が図れる」
「まず。地球は実は、地球人が今まで見つけた事の無い凄いエネルギーを放ってる」
「そうだ。恒星より強くな」
「宇宙人の文明はそのエネルギーを利用し、大変な発展を遂げた」
「そうだ。ダイソン球より巨大な装置を作ってな」
「ダイソン? 掃除機?」
「かつて地球の学者が提唱した装置だ。勉強が足りんぞ地球人」
「こちとら生活がキツイんだよ宇宙人……で、そんな宇宙発電所の心臓の地球を、誰かが半分盗んだ」
「そうだ。空間自体はゲートで繋がっているから、地球人は気付いていないがね。先程の月面と同じだ」

 掌を見る。灰色の石は確かにここにある。

「で? なんでそんな話を俺に持って来るワケ?」
「話せば長い。それに」
「それに?」

 窓の外を見る宇宙人。つられて視線を向ければ。
 すぐ外。轟音と土埃を撒き散らしながら、巨大な何かが着地した。

「話す時間がなさそうだ」



【続く】

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