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脱学校的人間(新編集版)〈18〉

 人が実際に学ぶことにおいて、そこで学ばれた一つの行動様式を、たとえそのように「実際に学び取った行動様式」として規定するとしても、しかしそれが「常に新しい行動様式として学ばれる限り」は、実はそこでは「行動様式として規定されていないものも含めて同時に学ばれている」ことにもなる。言い換えると、人がある一つの行動様式を学ぶとき、それを「常に新しい行動様式として学ぶ」ことにおいて、「その行動様式を規定する意図以外のもの」も含めて学んでしまうものなのである。つまり人は、教えられていないものや学ぶつもりのなかったものまで「それらを全て含んで同時に学んでしまう」ことになる。それが時として「結果的に意図しない行動様式まで含んで学んでしまう」ことにもなるが、まさしく「それも含めて学ぶということ」なのだ。

 このように、「全て含んで同時に学んだこと」の中から、「これとこれは学んだものとして認めない」と選り分けて否定するというのは不可能なことである。なぜなら人は、「常に現にそのように学んでしまう」ものだからだ。これを否定することは、むしろ「学ぶということ自体を否定する」ことと同じであろう。
 たとえば人が「文字を書くこと」を学ぶとき、彼はペンの持ち方・腕の筋肉の動かし具合・ペンが紙の上を走る感触・それを追って動かす目線等々、その他全く意識していないことまでも「含めて全て同時に学んでいる」のだ。それらを全て含めて主体的に再現するのが、この学んだことの結果としての「文字を書くという、実際の行動形態」となるのである。
 たしかに、そこからその主たる行動の様態を中心化して、「文字を書くという行動様式」という一般化された行動概念として認識することはできる。しかしけっして「文字を書くことだけ」を学べばそれで文字が書けるようになることにはならないし、全て含んで同時に学んだことの内のどれか、たとえば腕の筋肉の動かし具合を「学んだこととは見なさない」として、それを彼の「文字を書く行動」から取り除いてしまったら、もしかしたら彼はもはや文字を書けなくなるかもしれない。もちろん一方で彼は、そこからまた新たに「文字を書くこと」を学び直すのかもしれないが。しかし、おそらくはその学び直された「文字を書くこと」という彼自身の行動形態は、それ以前に彼が学んだものとは違っているだろうし、他の人のものとも違っているだろう。そうであろうとも彼はそこで、あるいはそこから「現実にそのように学ぶ」のだ。誰と、あるいは何と違っていようとも、彼はそのように現に学んでいるのである。
 「多様な学び」と近頃の人たちはよく言うが、しかし「学ぶこと」ということとはこのようにして、すでにそもそもが多様なものなのである。言い換えると、学ぶということはそもそも「限定しえないもの」なのだ。

 すでに言ったように、人は現実において学ぼうと意図したこと以外のことも含めて学んでいるものである。
 では、人は「よいこと」を学ぼうとしたにも関わらず、「悪いこと」まで含めて学んでしまうのだろうか?それはたしかにその通りである。
 では、そのように学んだ者は「悪いことをするようになる」のだろうか?それもまた、たしかにそうかもしれない。
 しかし、「悪いことを学んでしまった者」は、それを現実に適用させようとするときに、それが大変な困難を含んでいることを実感するであろう。「そのような困難も含めて、それは悪いことなのだ」と、彼はそこであらためて学ぶことになるであろうし、よって「では、その学んだことを現実に適用させるのはやめておこう」ということも、そこで結果として現実に学ぶことにもなるのかもしれない。
 人はそのようにして、学んだことの現実への適用の判断を、現実においてあらためて学びもするわけなのである。

 さしあたり、「学ぶとは何か?」ということを要約すると以上のようなことになる。
 要するに人は、学ぶ対象となる行動様式を再現するために学ぶわけだが、しかし結果としてその学んだ行動様式を、学んだ通りに再現することはないし、することはできない。それは結果として、常に新しい行動様式として表現されているわけなのであり、そこで人は常に現実にあらためてその行動様式を学んでいることになるわけである。
 さて、はたして私は屁理屈を言っているのであろうか?あるいはそうかもしれない。しかし、であれば「あなた」が日常の中で実際にしていることを一つでも思い返してみるといい。そうすれば「あなた」もきっと気づくことだろう、ここで言っていることは実にわれわれ誰もが日常の中で、実際に「自然」にしていることについて語られているものであるのにすぎないのだと。

〈つづく〉


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