記事一覧
雨時計と森と男たち 第5話
海岸では10人程の男女が集まり思い思いに楽しんでいた。
届いたばかりのカーペットのように海はなめらかでキラキラと輝いている。
僕は昼間に書店でアルバイトをし、日が暮れはじめると少しだけ海岸を歩き、それから夕食の準備をし絵本を書いた。
彼女と別れたあとの僕はだれが鑑定するまでもなくまったく価値のない人間だった。
彼女は僕にとって焦点であり歴史であった。
彼女のいない僕からは輪郭が消え、語り継ぐべ
雨時計と森と男たち 第4話
月の光に照らされた砂は音もなく落ちていた。
昼間に見つけたあの巨大な鉄橋はなんだったのだろう。茂みの先に現れた橋を見つけてから僕は1日落ち着かないまま夜を迎えた。誰のための橋なんだろう。誰が作ったのだろう。
そして向こう側には何があるのだろう。また向こう側からは何が訪れるというのだろう。
その夜はウッドデッキでビールを飲みながら絵本を書いた。
ある国の夫婦の話だが書いてる僕自身が読んでもつまら
雨時計と森と男たち 第3話
初めて絵本を書いたのは岸田の部屋のリビングのソファの上だった。
おかしな時間に起きた僕はなんとなく目の前のテーブルにあったノートの端にある国の夫婦の話を書いた。そのストーリーにイラストを付けたものが僕の処女作だ。
それから何人かの友だちの家のカウチソファを渡り歩き、夜になるとストーリーを考えイラストを添えていった。
夜に生まれた絵本が20冊を越えたあたりで当時付き合ってたガールフレンドの友達が
雨時計と森と男たち 第2話
部屋の掃除は3日ほどで終わった。
拘ればまだまだやるべき場所はあったはずだが住むには問題なかったところで掃除はやめた。
家の周りに積もっていた松葉は毎日庭で焼いているがまだそこらじゅうに松葉は残っている。
周りが暗くなってくるとウッドデッキの端に椅子を出してビールを飲んだ。
初めて飲むビールは缶の味がした。これから何本ビールを飲めるかと考えると少し淋しくなった。心はお酒を飲んだりしないからだ。
あきらめるか、もしくは誰かに愛してもらうしかないもの
1.
残念なことに最初に奥歯が痛みはじめたのは新婚旅行先で訪れたハワイのスペイン料理店だった。
知り合いから紹介されたその店はワイキキのメイン通りから一本脇に入ったところにある本格的なスペイン料理の店で世界中の観光客が訪れる人気の店ということだった。
地元のブリュワリーのビールを楽しみつつ丁寧な仕込みのパエリアの海老を味わっていたところ激しい痛みに左の奥歯が襲われた。
2.
2度目に異変に気づ
あなたがうたってくれたから
1.
サウナから出て新しい下着と靴下に着替え車に乗った。
久しぶりに動かしたせいかエンジンオイルが切れかけているのかおだやかな高架を上がる際に運転席の足元からカラカラと音がしていた。
昼食のハンバーガーはあらかじめ連絡していたおかげで車から降りることもなく受け取ることができた。
元気ですか。と店員に聞かれたので元気だよ、と答えた。
もう6月だというのに雨の日は少なく例年通りの梅雨入りだった。
親愛なるランナーたちへ
1.
柔らかいクッションがうす灰色の暑く溶けたアスファルトを交互にこするたびに僕らはちょっとだけ前進していた。ナイキのタンクトップはとうの昔に汗を風に紛らせることを諦めたのか今では年老いた名コーチのように肩に寄り添っていた。
まだ腰は元気だ。
今年はやけに疲れることがたくさんあった。
ただ走り始めるまでにだっていくつものハードルがあり、走りはじめた今でさえそれらを越えてこれたのかは分からない。