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あなたがうたってくれたから


1.
サウナから出て新しい下着と靴下に着替え車に乗った。

久しぶりに動かしたせいかエンジンオイルが切れかけているのかおだやかな高架を上がる際に運転席の足元からカラカラと音がしていた。
昼食のハンバーガーはあらかじめ連絡していたおかげで車から降りることもなく受け取ることができた。
元気ですか。と店員に聞かれたので元気だよ、と答えた。

もう6月だというのに雨の日は少なく例年通りの梅雨入りだった。
僕の生活はあの新型ウイルスのおかげもあってたいそう落ち着いたものだった。経営していたジムは2店舗閉めて雇っているメンバーと会員に相談し、なんとかみんなまとめて1店舗に集まってもらうカタチで継続していたわけだ。
それはまるで浅い穴の下で砲撃が止むのを待つ市民のようでもあり、悲しいことにその通りでもあった。


2.
中央街の裏手にある相棒の事務所に立ち寄り延期になったいくつかの仕事のあと片付けを手伝った。
「実はコーヒーの味というものは何時何分に飲むかでだいたい決まっているんですよ」と昔長野の善光寺のそばのコーヒーショップのオーナーに聞いたことがあったが、たしかに14時に飲むコーヒーはいつも14時の味がした。

事務所を出て車のキーを回すとFMではTOKYO NO.1 SOUL SETのBIKKEが変わらず美しい詞を歌っていた。
色々あるがもうすこしだけやってみようと車のハンドルを握りなおしアクセルにそっと力を加えた。

車からは世界中の影が消えてしまうくらい高い位置に止まったままの太陽が見えた。

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