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イン・ザ・コーヒー

1.
いつ来ても隣の席ではよくわからない金儲けの話をしている奴らがいるというのが俺にとってのこのコーヒーショップのイメージだった。
コンサルに情報に代理店に水と品目は変われど勧めている人間の顔つきはだいたい同じだ。
緊張を隠そうとするやたら早口で爽やかな笑顔が共通項のひとつだった。

そういう俺も初対面の女の子と会う時はご多分に漏れずこの店を使っているわけだから同じ穴のというわけだ。気を付けよう。

「はじめまして。」今日の客は流行りのミュージシャンに似た黒髪の女の子だった。軽く自己紹介したあとすぐ車に乗ってもらい適当に街を流した。


2.
人探しから浮気調査、ラーメン屋への同行に墓の掃除と俺はなんでもやった。
今回は一番人気の浮気調査だったので俺はちょっと気が抜けていたのかもしれない。大抵の浮気調査はほとんどクロで毎回調査はすぐ終わっていたからだ。
浮気する側はまさか自分が探偵に見られているなんて思ってもいないわけだから。

右折禁止に気付かずに右折したときに反対車線に立っていた警官が目にはいったが不思議と呼び止められることはなかった。
浮気調査に関する相手の情報をひと通り聞き、こちらからの注意事項を伝え前金の入金をスマホで確認したあとに女の子に「一応みんなに聞くんだけどあやしいと思ったのなら自分で調べたりしたの。」と聞いた。

すると助手席の女の子は「警官ってプライド高いのよ。直接浮気してるって聞いちゃったらたぶん拳銃で撃っちゃうと思う」とほほ笑んでいた。

俺はテイクアウトしたブラックコーヒーに映る自分の顔を眺めていた。


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