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三島由紀夫という迷宮④ 〈アルカディア〉は何処に 柴崎信三
〈英雄〉になりたかった人❹
初めての「洋行」で巡った欧州の経験の最初の具体的な結晶が、二年後の1954(昭和29)年に発表した小説『潮騒』である。
作家が遺したおびただしい作品群のなかでも、『潮騒』の特異性は際立っている。もちろんこの純愛小説は、流行作家になって活動の幅を広げてゆく三島がエンターテインメントとしての作品の画期をなし、それがベストセラーとなって繰り返し映画化されるなど、同時
三島由紀夫という迷宮⑧ 「この庭には何もない」 柴崎信三
〈英雄〉になりたかった人➑
最後の長編小説『豊饒の海』の第一部『春の雪』の雑誌連載は、脚色、演出、主演まで担って自作の『憂国』を映画化した1965(昭和40)年に始まっている。ノーベル文学賞の有力候補に名前が挙がり、日本を代表する作家として前途は洋々とみえた。自身が生きてきた時代を舞台装置に選んで、〈伝統〉と〈行動〉、〈時間〉と〈輪廻〉という主題をつないで描いてゆくたくらみは、戦後の三島のなか
三島由紀夫という迷宮⑪ エピローグ 〈物語〉へ 柴崎信三
〈英雄〉になりたかった人⓫
三島由紀夫の〈蹶起〉と自裁の日から半世紀が近づいた秋、その現場となった東京・市ヶ谷の陸上自衛隊東部方面総監部の旧庁舎、現在は敷地内を移転して再構築した「市ヶ谷記念館」の旧総監室を訪れる機会があった。
「あの日」に駆け出しの記者としてそのバルコニーの前にたどり着いた時、すでに壇上に三島たちの姿はなく、集まった自衛官らはその場から三々五々散って、蹶起の主張を書き連ねた