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メンタルヘルスとポップカルチャー

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一端の若手精神科医が日々の診療で感じていること、そこから連想したポップカルチャーの話をまじえながら書き残していく文章のシリーズです。
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#本紹介

"痛みたい"という欲望/石田夏穂「その周囲、五十八センチ」〜メンタルヘルスとポップカルチャー

"痛みたい"という欲望/石田夏穂「その周囲、五十八センチ」〜メンタルヘルスとポップカルチャー

精神科診療の現場において「これさえ変えれば全てがうまくいく」という強い確信に囚われている人とよく出会う。例えば整形。このパーツを理想的なものに変えれば絶対に人生がうまくいくという確信を持ちながらも整形のためにお金を稼ぐ上でトラブルに巻き込まれ精神科受診に至った人もいた。人生を良い方向に持っていくために取った選択が、自分を苦しめてしまった。

自分に自信を持つため、という選択で整形を選ぶ人もいるが「

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「機動戦士ガンダム 水星の魔女」で考える母娘関係のメンタルヘルス/同一化という呪縛は解かれ得るのか

「機動戦士ガンダム 水星の魔女」で考える母娘関係のメンタルヘルス/同一化という呪縛は解かれ得るのか

母娘を描く「水星の魔女」精神科医として患者に接する上ではその人固有の苦しみに向き合うことに努めているが、時としてかなり似た苦しみを抱えているケースに直面することも多い。例えば摂食障害の女性患者は話を聞いていくうちに親子関係、特に実の母親との関係性に苦しめられていることが非常に多い。明確な虐待やネグレクトがあるというわけではない。むしろ、度を越えた関わりの深さゆえに娘の身体に強い影響をもたらしていく

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「ぼっち・ざ・ろっく!」とアジカンが寄り添う自傷的自己愛

「ぼっち・ざ・ろっく!」とアジカンが寄り添う自傷的自己愛

臨床場面で向き合う自傷的自己愛精神科外来では様々な病状を抱えた患者と向き合い治療を行う。ストレスの原因となる職場や家庭の環境調整を行い、薬剤を適切に使用することで改善するのが一般的だが、そういった治療だけでは回復に至らない患者も多い。

たとえば過剰に思える程の自己否定を行う患者たち。自分の外見やステータスを卑下したり、社会や家庭環境に不満を述べたりしながら、周囲を困らせる行動を取ったり、時に希死

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「ファスト教養」とメンタルヘルス

「ファスト教養」とメンタルヘルス

レジー著『ファスト教養 10分で答えが欲しい人たち』(集英社新書)を読んだ。「教養=ビジネスの役に立つ」という認識で、短い時間で効率よく"教養”とされる文化的なモノ(映画、音楽etc..)に触れるビジネスパーソンが増えているという。本著ではファスト教養を提供する人物を詳しく掘り下げながらその歴史や近年の隆盛について解き明かしていくという内容だった。

これを手に取ったのには漠然と「胡散臭いな」と思

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