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【第3話】ふたごの兄は能力者

#創作大賞2024
#漫画原作部門

■第1話 並んだ本とソファー
■第2話 大岡裁判


■第3話 俺たちは〇〇なんだ■




わたし、マナカ。
かれこれ1時間もパソコンの前で頭をひねっている。
どうすれば、レオリオになれるのか……。



ことの始まりは友達の一言からだった。
「マナカ!今度これ行こうよ!」

差し出されたのは来月開催のハロウィーンイベントのチラシ。
「ここに2人でコスプレして行こう!私がレオで、マナカがリオ!ウチラが一緒にレオリオやったらぜーったいかわいいって!」


レオリオはバトルゲームのキャラクターで、わたしも友達も大好き。
ボブヘアでミニスカートをはいているのがレオ。
長い髪をポニーテールにして、チャイナドレスのようなワンピースを着ているのがリオ。

友達はボブだからレオ、わたしは髪が長いからリオってわけ。


実は…ちょっと、コスプレに興味があったから、思わずOKしてしまった。



のだが。
「衣装どうしよう~」
わたしのおこづかいでリオの衣装は難しい。
こんな太ももまで見えちゃうワンピース、どこにも売ってない。

「うーん。」
悩みながらパソコンでリオに似た服を探していると

「マナカ、どうした?」
声をかけてきたのは龍だった。


「あ、にいに。実はわたし、リオのコスプレすることになって。」

「…なんだって!?レオリオのリオ!?」

「そう、レオリオの……リオ。」

龍はメガネがずり落ちそうなくらい驚いてから、「リオ……」とつぶやいた。そしてなぜか、白虎を呼んだ。


「おい!白虎!ちょっと降りてきてくれ!事件だ!」
(事件って。え、事件なの?これ)



ダダダと階段を駆け下りる足音がして、白虎がリビングに入って来た。


「事件!?なんだよ、事件って!」
なぜかその目は輝いている。

龍は人差し指を唇にあて、伏し目がちに、メガネを光らせた。
そして少しもったいぶってから、静かに口を開いた。



「マナカを、リオにする。」



「……は?レオリオの?」


「そう。リオだ。完璧な、リオにする。」




白虎は絶対意味が分かってないはずなのに「まかせろ!」と叫んだ。



龍はわたしとパソコンを交代すると、ものすごい早さで何かやりだした。

わたしが白虎に経緯を説明している間、龍はブツブツ言いながらリオの情報が載ったページやコスプレイヤーのページを開いていく。隣に置いたノートにも何か書いていて、みるみるノートが真っ黒になっていく。


「よし。」

龍はパソコンから目をあげると、白虎にメジャーを取りに行かせた。
「まずは採寸だ。白虎、俺の言う通りにマナカの身長とか測ってくれ。」

「おっけー。」

「まずは身長、158cm。となると比率的に……」


龍は複雑な計算をしている。
どうやらリオとわたしの身長から衣装を探しているらしい。


「ねぇにいに、ドンキ行ってそれらしいの買えばよくない?」


わたしが白虎に採寸されながら言うと
馬鹿野郎!!ドンキに売ってるそれらしい服着て「私リオのコスプレしました♡」っていうのを俺たちが許すと思うのか!?」
龍にすごい剣幕で怒られた。


「そうだぞマナカ!俺たちがレオリオ推しなの分かってるだろ?妹が中途半端なリオをやるくらいなら、やらないほうがマシだ!」
白虎まで。


「つまらないこと言ってないで、さっさと採寸終わらせて出かけるぞ。」
龍がパソコンを閉じて言った。


「出かけるって…どこに?」


「もちろん、生地屋に。」
えっ……作るの!?これから!?



数時間後。
わたし達3人は生地屋にいた。


「うーん。やっぱリオに一番ぴったりなのはこれだよなぁ。」
龍と白虎が店内を見回しながら1枚の生地を手にとっていた。

「どれ?え!やけにスベスベしてない!?ギャッ!これ高い生地みたいだよ!他のと全然値段違うじゃん!」
わたしは驚いて声をあげた。

「わたしお金ないよ!そんないいやつじゃなくていいからもっと安いのにしようよ。」
不安げなわたしを見て龍は言った。

「心配ない。あてはある。」
龍はスマホを手にとるとどこかに電話をかけ始めた。

「もしもし?マナカのハロウィーン衣装、上から下まで全部買うと4万円くらいしそうなんだ。ダメ?だよね…。いやいや、データによるとリオのコスプレしてる人の衣装平均価格は5万円はいくらしいんだ。でも、手作りだと2万円で済みそう。うん。その値段でマナカのかわいい姿見れるならね?おっけ。じゃあそういうことで。」

龍は電話を切るとこちらを見て親指を立てた。
「交渉成立だ。この生地にしよう。」


「えっ……!?誰に電話したの?」


「父さん。」


「さっすが龍!」と白虎。
「よく許してくれたね。」とわたし。


龍はふっと笑って言った。
「あぁ。アンカリング効果を使ったからね。最初は無理な基準をわざと言うんだ。マナカの衣装は2万円あれば十分だった。だけどあえて4万円というさらに高い金額を言った。そうすると相手はダメっていうだろ?その後それより低い金額を言うとそれなら安いと思っちゃうわけさ。」



い……いつの間にか炸裂してた。


龍の能力 Ⅲ


ロジカルマニピュレーション!!論理的操作

アスペルガーの龍の能力。検察官を目指す龍は、心理学や交渉術の本を借りてきては、どうやって自分の話を有利にできるか研究をしている。 その他の能力を総動員して、友達の喧嘩の仲裁なんかもしているらしい。


「……でもさ。生地買うのはいいけど作るの大変じゃない?」
わたしはずっと疑問に思っていたことを聞いた。

「大丈夫。そっちの交渉はもう済んでる。」


「え、いつ?誰に?」


「母さんだ。」


「まさかにいに…。」


「あぁ。出かける前に母さんに話をつけてきた。母さんには三角ロジックとPREPの法則を使わせてもらった。すっかりやる気になってくれたよ。」


……わたし達はこうして、最高級のスベスベ衣装を手に自宅に帰った。



翌朝早く。
なにやら庭から妙な音がして目が覚めた。

ギーコギーコ…
(何…?のこぎり?)

わたしは眠い目をこすりながらリビングに降り、カーテンをあけて庭を見た。庭には白虎の姿があった。

白虎お兄ちゃん…こんな朝早くに何してるの……?」



「おうマナカ!今、武器作ってる!!



「え。」

わたしは言葉を失った。わたしが黙っているのをいいことに、白虎は勝手にしゃべりだした。


「リオと言えば斧だよな!?あの細い体で振り回す斧が最高にかっけぇじゃん?昨日の夜ひらめいちゃって!だから、斧作ってる!


「おの。朝の、5時に。」
寝ぼけた私の目に、白虎の声と、目の前の現実が降ってくる。

「大丈夫大丈夫!マナカが振り回せるように、できるだけ軽くしてやるから!とりあえず形作って…それから塗装して…光沢は絶対いるな。あ!そうだ!いいこと思いついた!ここ、フィルムタイプの鏡にしよう!あとこれを……」


よく見ると、白虎の目が違った。
これ、能力発動しちゃってる。


白虎の能力 Ⅲ


クリエイティブフロムスクラッチ0からの創造


ADHDの白虎の能力。白虎のひらめき、アイディアはすごい。そしてそれを表現する力も行動力も併せ持つ。どうやったらそんなこと思いつくんだろう?と驚くことばかり。

こんな調子でわたしの、リオの衣装はどんどん出来上がっていった。




そしてそれは衣装が8割方出来上がった頃だった。

「ここは絶対刺繍にすべきだ。」
龍が言う。

「母さんは刺繍できないんだからしょうがないだろ?」
と白虎。


どうやらリオの衣装の模様について議論が始まったようだ。


絶対にここは刺繍にすべきだ。この赤の模様は、リオのトレードマークみたいなもんだ。」龍はゆずらない。

「そんなこと言ったってもう時間ないだろ!?ちょっとは融通利かせろよ!たとえばこの赤い毛糸をこうして…。」白虎がなんとかリオの衣装に近づけようとする。


違う!そんなのリオじゃない!」
龍はゆずらない。


「龍!あんま無理言うなよ!この衣装作るのだって母さん相当大変な思いしてるの分かってるだろ!?」



またしても喧嘩が始まってしまった。この2人は顔を合わせるといつもこうだ。
「ねぇ、もうけんかしないでよ!!」
わたしはもう、2人の喧嘩を見るのがいやだった。




そしたら龍が、わたしの方をまっすぐ見て言った。

「マナカ。よく聞け。俺たちは喧嘩してるんじゃない。意見を出し合ってるんだ。お互いの意見をぶつけあって、より素晴らしいリオを作り上げる。
白虎の斬新なアイディア、そして俺のこだわり。それによって、リオは本物に近づいていくんだ。俺たちは、クリエイターだ。そして、ライト兄弟なんだ。

隣で白虎もうんうんと頷いている。


わたしはその言葉に何も返せなかった。


お兄ちゃんたち……


飛行機作ろうとしてるの……?
それ、ハロウィーンの衣装だよ……
わたしはどうにか言葉を飲み込んだ。


「どうしてもここは刺繍じゃなくちゃダメなんだ……。」
龍が衣装を握り締めて両膝を床についた。


あ。これは。


龍の能力 Ⅳ


アンイールディングディスポジション譲れないこだわり


龍が自分のこだわりを崩すのには相当な覚悟と体力がいる。「まぁいっか」が龍にはできない。この能力は、抑えるのがちょっと難しい。


リビングに沈黙が流れた。






……仕方ない。俺がやろう。
全員が声の主の方を見た。






「父さん……!?」


「みんなのためだ。俺が、刺繍を、やる。」
それは、希望の光だった。



こうして、親子5人の衣装づくりはイベントまでの3週間という時間のほとんどを費やした。




むかえたハロウィーンイベント当日。

ツルツルの生地でできたワンピースにはお父さんの入れた刺繍。
手には白虎が作った斧。軽いのに本物みたいに鈍く光ってる。
龍はいつの間にかアクセサリーを用意してくれていた。
最後にお母さんがヘアメイクをして、鏡の中のわたしは本物のリオみたいだった。


「みんなありがとう!行ってくるね!」



わたしがハロウィーン会場で撮った写真が、その後めちゃくちゃバズることをこの時はまだ誰も知らない。


☆兄たちの能力とその葛藤。
 マナカの兄たちへの愛と敬意。

 あなたは、どんな能力を持ってる――?



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