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RENAの軌跡

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シンガーソングライター 鳥居れなさんの連載エッセイを、まとめました✨ 幼少期や10代の頃を、感じたままに綴られています⏳ 語り口がユニークで、一篇の物語としても楽しめます📖
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#エッセイ

47.ロンド

47.ロンド

繰り返される朝に、
あなたは昨日と同じコーヒーを飲み
同じ服を着て
同じ靴で出かける。

繰り返される朝に、
わたしは昨日と違う朝食を摂り
違う服と靴を身にまとって
違う化粧で出かける。

ながい一日をこなしたあなたと
短い今日を寝かしつけるわたし

交わらないはずの2人がどうして手を繋いで
どうして笑い合って
どうして。

好きなものをみんな守りたい。
みんな何もかもが違う。
私達はみんな孤独の

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46.蛍光灯

46.蛍光灯

あれからずっと切れたままだった、キッチンの蛍光灯を
私はようやく昨日新しく取り付けた。

切れた蛍光灯の形を、捨てる時に写真に取っておいたが
本当にこれで大丈夫か不安で店員さんに声をかけた。
これのはずだけど、もし違かったらレシート持ってきてくださいね。と
優しく微笑む女性が神様のように見えた。
帰り際にお互いペコリとお辞儀をして、店を出た

やっと買えた蛍光灯を四苦八苦しながら取り付け、
紐を引

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45.ボルボ

45.ボルボ

新宿でよく会う。
待ち合わせはしていないから、本当に、
寄り道してみたら今日もいた。というくらいの関係。
最初はそうだった、
彼はいつも無表情でほとんど話さない。
というか声も聞いたことがないのだ。
ただ瞳の色が青白く
とても綺麗で吸い込まれそうになる。

人は不思議な存在に惹かれたりするもので、
わたしはだんだん、今日はいるのかな…と気にするようになった。

ボルボはこれまで何人の人の気になる存

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44.鼓動

44.鼓動

子供の頃、母の背中に耳をくっつけて
大人のよくわからない会話を聞くのが好きだった。
話を聞いていたというよりは、音。
母の体の中で鳴っている声を聞くのが好きだったのだと思う

いつも聞いている声よりも、深く共鳴して聞こえる音と体温、かすかな鼓動とがセットになって、心地よいのであった。

私が5歳の時に両親は離婚した。
それから母は美容関係の店を開いた。
私にはふたつ年上の兄がいるので、当時2人の子

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43.寂しがり屋怪獣

43.寂しがり屋怪獣

酔った頭で思い出す人が、
どれだけ自分にとって大きな存在か…

私はお酒を飲んで電車に揺られると、脳貧血を起こすので
外でのお酒の席は、本当に大切にしたい関係の方々だけにしている。

いつもより素直に会話ができる時、
思い出される人間は本当に愛されている

その場にいなくても話題になるのは、それがどんな内容であったとしても
結局は大切な人だし、可愛いからなのね。

愛され方が上手だとか、世渡り上手

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42.ルイトモ

42.ルイトモ

んー、でもルイトモって感じぃ。
私の右手の薬指にサーモンピンクを塗って。
リーサさんはぽつんと言いながら、ちょっと嬉しそうだった。

東十条の商店街にある薬局の片隅、
色白で綺麗なお姉さんが、ジェルネイルをしている。
いつも自然体で、広い海をゆうゆう泳ぐ白いイルカみたいな人。
リーサさんの第一印象はそんな感じ。

ネイルをおまかせするようになったきっかけは、
高校時代のお友達である、あみからの紹介

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41.FLAG

41.FLAG

路地裏のちいさな店
看板のない店
今のお前はそんな感じ。

苦い顔で言い放たれてしまった、
恐らくわたしも同じ顔。

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38.不甲斐

38.不甲斐

きのう帰りの電車で、向かいに座っていた中年男性が大声で怒鳴った時も
私に宛てられた声ではなかったけれど、心臓がきゅうっと痛くなり
自分が叱られたような気持ちがした。

人混みでよけきれずに肩を強くぶつけても、
振り返ることもなく過ぎて行く東京。

もう二度と会わないかもしれない見ず知らずの誰かへ、
自分の疲労を怒りというエネルギーへ変換して投げつける大人。

空があって、道があって、風があって、花

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37.海底の石

37.海底の石

いま。 かこ。 みらい。
どんな色の空をみて、どんな匂いの風に吹かれて、
どんな人の言葉に触れて、どんな形の感情を覚えて
あなたが今日ここへ来るまでにはどんな旅があったのでしょう。

わたしはきのう、とても尊敬する方から
お前を形成してるもの全てで成り立つ鳥居れなが、
頑固なところも含めていい音楽家であり、
関わっていきたい人間であると思ってるよ
とお言葉をいただきました。

先日、私は25回目の

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36.花散らしの涙

36.花散らしの涙

何をそんなに、
しとしとと泣き続けなくとも
あなたはこんなに沢山の人に愛されているのに

ひとり暮らしの私の家には
テレビがないけれど
どんな表情をしても、きっと毎朝
ニュースがあなたの様子を
この世界のみぃんなに伝えている

それくらい世界中があなたを
大切に恋しく思っているのよ、

私にも暮らしがあり、少し
上を向いて歩くことがむつかしい日もあり、
きのうあなたを見上げて歩く時間が
私には一瞬

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34.namida

34.namida

いったいこれが、
何の解決になっているというのか
私にもよく分からない。

生きていくための力や、
目的地を目指すために必要な熱に逆らう〝チリ〟が
心に積もっていることに
それが溢れ出してからようやく気づく。

落ち込んだ時にどうやって戻ってくるの?

と聞かれ出した答えが『 わんわんナク。』だった
私にとっての解決方法がこれしかなかった、

でもそう答えて改めて
その場しのぎだなとも気付かされ

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33.ぽち

33.ぽち

気になる、

気になるんだ。
私の右手の甲に
ぽちりとくっついたそれは、
そばかすでもなく。
黒子でもない。

色が濃いので、
黒子のように見えなくもないのだが
本当にど真ん中にぽつんと陣取っている。

小学生の謎なのだが、
小さい手や二の腕や体のどこかに
どうしてか鉛筆の芯が入ってしまった、
ということが稀におきる。

あれは一体なんなのだ。
不注意で鉛筆が手に刺さってしまうことって
そんなに頻

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31.オリーブくん

31.オリーブくん

アラームよりも先に目が覚めた朝。
カーテンをあけて今日もよく晴れたな、と
昨日ばいばいした、新しい太陽の光を浴びながら
背伸びと、あくびをぽくぽく。

2年間使っていた
黄色と青のコーヒーカップの底に
コーヒーの染みがつもり、
とうとう洗剤とスポンジでは
取れなくなってしまったので
最近新しいカップを買った。

キャラメル色のダブルウォールグラスで、
心地よいカーブを描いた
指が3本程入るすこし大

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30.我が子フレンチトースト

30.我が子フレンチトースト

どうして男の人って
フレンチトーストに憧れるのか

朝食に食べたいものは何かと聞けば
「フレンチトースト」と答えない男はいない

昔好きだった人に、作って欲しいと言われ
何としてでも美味しいと言わせなければならない。
という、半ば女の矜持で作ったことがある

クックパッドで、
美しいイエローと
香ばしく香ってきそうな焦げ目、
甘いツヤのある。完璧な。
何とフォトジェニックに撮るのか…
というフレン

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