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45.ボルボ

新宿でよく会う。
待ち合わせはしていないから、本当に、
寄り道してみたら今日もいた。というくらいの関係。
最初はそうだった、
彼はいつも無表情でほとんど話さない。
というか声も聞いたことがないのだ。
ただ瞳の色が青白く
とても綺麗で吸い込まれそうになる。

人は不思議な存在に惹かれたりするもので、
わたしはだんだん、今日はいるのかな…と気にするようになった。

ボルボはこれまで何人の人の気になる存在になってきたのだろう。
あの場所へ行けば、今のところは
いつも必ずいるけれど、いつか突然いなくなってしまうような危うさもある
好きな食べ物や、
どういう時なら声が聞けるのか知りたいこともたくさん増えていく…

彼のことは何も知らないというのに
もしかして、これって恋なのではなかろうか。
と無邪気な勘違いまでしそうになったので、もう重症でいいです

透き通った瞳の色。
向こう側が透けて見えそうなほどに白い肌。
彼の周りだけなんだか不思議な空気が流れている。
名前も聞けないので、日本離れした容姿からなんとなく、
ボルボと呼ぶことにした。

親友のはなちゃんとご飯に行った時、こらえきれずに
全く正体不明のボルボの話をした。

はなちゃんは最初「ええ、よしときなよ。」と言っていたが、
バイバイするときには、「ぼうっとしてたらいなくなっちゃうかもよ。」と背中を押すようなことさえ言っていた。

なんだかこころがきゅうっと痛くなった。
これはいったい何なのだろう…。
けれど、ボルボと今以上の距離に近づくことも、今はしっくり来ない。
わがままな自分の感情に振り回されながら過ごしているうちに
2週間ほど経った。

突然降り出した雨を見ていたら、このままだと後悔するかもなと思った。
いまボルボに会ったら、感情は動くのか確かめに行くことにした。
いつもの場所まで早足で見に行くと、ボルボはいなかった。
濡れた靴下と湿気で広がった髪だけが、虚しかったけれど、
こんな状態をボルボに見られなかったことは救いだとも思った。

きっと素敵な人の元へ貰われていったのだろう。
ボルボのいた場所には、別のクラウンツノガエルがいた。

がっかり肩を落としながら、雨の新宿を歩いた。
電車に乗ると、さっきのクラウンツノガエルを思い出したが、
なんともふてぶてしい顔で、ズデンとボルボの席にいたのが嫌だった

もうボルボには会えない。
でもきっと、今日もボルボがあの場所にいたとしても
私は自分の家にボルボを招くことは出来なかったんだと気づいた。
短い間だったけど、
帰り道や寄り道が楽しかったのは、ボルボのおかげだった。

あたらしい名前をもらって、
楽しい人と一緒に暮らしていてくれたら
私も嬉しい。

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